第111話即位
一ヶ月後、僕は国王として即位した。
勿論、王妃はブリジットだ。
国民だけでなく周辺国からも大層喜ばれた。
『これで漸く、正当な王家の血が戻った』
露骨過ぎる程の喜び方だった。
ただ、僕が国王でいいのだろうか?
やっぱり女王制を導入すべきでは?
だって直系はブリジットだよ?
僕の戸惑いなどスルーされた。
『次の国王はミゲル、貴男よ』
義母から普通に告げられた。
あっさりとした感じだったので「冗談かな?」と流石にすぐには信じる事はできなかった。
次の日に公式発表され、事実なのだと認めざるを得なかった。
何故か「女王制」は採用されなかったらしい。本当に何故?そっちの方が断然いいと思う。まあ、反対意見を言えるような人はいなかった。
近衛騎士団に代わって治安と防衛は辺境伯爵が取り仕切っていたから。
公爵家と辺境伯爵家が「良し」と言って「いいや」とする怖いもの知らずは存在しなかった。
「しかし、
「そうでしょう。特別製ですからね」
「無味無臭。銀すら通さない。専門家やその道のプロですら欺く代物です」
「
「最後まで気付かなかったと報告されてますが。怪しい動きでもありましたの?」
「いいえ、そういう意味ではありません。ですが、『何かがおかしい』とは感じていたでしょう。宰相の裏切りがなければ動いていた可能性はあります」
「それならば、我々はあの裏切りを感謝しなければなりませんね」
「えぇ。宰相の裏切りが、彼の臣下に対する信頼に亀裂を生じさせていた。疑心暗鬼にかかっていたお陰で、こちらの動きにも気付きませんでした。それに、私達が動いても誰も信じない。疑われる事すらない。都合良く事が運びました」
「それもこれも辺境伯爵のおかげでございます」
「私は何もしていませんよ」
「いいえ、貴殿のお力添えがあってこその成功です」
「公爵家が諸外国を押さえてくださったからですよ」
「クスッ。彼らは私達に協力せざるを得ません。自国の事は勿論のこと。
「何処にでも野心に溢れる愚か者は多いですからね」
「内乱に生じて入り込んできた各国の間者達は如何しましょうか?」
「警告を発する事にしましょう」
「それでも帰らなければコチラで始末しても宜しいですか?」
「どうぞ、ご自由に」
戴冠式後のパーティー中、広間の片隅でこの国の最大勢力となった公爵家と辺境伯爵家。その重要人物三人がわざわざ魔法をかけてまで他者に聞こえないように話し合っている姿があった。
僕は勿論のこと、誰一人としてそれに注意を引く者はいなかった。
翌日、辺境伯爵が遷都してはどうかと進言してきた。
「急だね……」
「陛下、王都はどこもかしこもボロボロです」
「まあ、内乱後だから」
しかも、暴徒と騎士団が結託したせいで余計に酷くなった気がしないでもない。
「王宮も半壊状態ですし、とても住めるような状態ではありません」
「そうだね」
「王都を復興するにも時間がかかりますし、このままでは経済が停滞してしまいます。なので遷都を行いたいのです」
ああ、確かに。
辺境伯爵の言いたいことは理解できた。
経済が滞って、物価が上昇したら生活に支障が出てしまう。それは避けなければならない。今の王都民は殆どが難民に近い生活を送っている。他領からの物資頼み。今は良いとしても、これが年単位続いたら間違いなく不満が出るだろう。不満が暴徒化になれば更に悪化するのは間違いない。
王都の復興には時間がかかる。
しかし、そのまま放置しておくわけにはいかない。
そこで、遷都という提案なのだろう。
「分かった。それでどこにするの?」
「いっそのこと、公爵領は如何ですか?」
うちかい!!
まあ、立地としては良いし。それに、僕も王都には良い思い出はない。思い入れもないしね。
「うん、いいかもね」
「畏まりました。では、すぐに準備致します」
こうして、王都は放棄され、公爵領へと遷都が行われた。
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