第15話
どうやら夢を見ていたようだ。城壁を飛び降りた俺は気が付くと暗い寝床に横になっていた。
「今度は失敗したりはしない」
あの時の事を夢に見るなんて本番を前に緊張しているのかもしれない。俺は落ち着いて再び眠りにつくことにした。
翌朝、俺達は予定通り行動を開始した。まず初めに俺が単独で城に潜入して敵の注意を引きつける。その間に他のメンバーは城内に侵入し、敵を制圧するという流れだ。俺は早速、城門の前に移動すると、見張りの兵士に話しかけた。
「すいません。少し話をしたいのですが……」
「……誰だ貴様は?」
「私は『黒猫団』のメンバーです」
「そうか……。それで話とはなんだ?」
「はい。実は今、この国に異変が起きています。そこで貴方には詰所へ報告に行ってもらいたいんです」
「なるほど。そういうことか。わかった。任せておけ!」
「ありがとうございます」
「では、行ってくる」
「よろしくお願いします」
兵士が離れていったのを確認すると、俺は物陰に隠れながら移動を始めた。そして、兵士が完全に見えなくなったタイミングで城の中へと侵入した。
俺の姿を確認した兵士達は一斉に集まってくると、武器を抜いて襲い掛かってきた。どうやらバレたようだ。
俺はそれを軽くあしらうと、素早く気絶させて回った。そして、ある程度数が減ったところで、ようやく奥に進むことができた。
それからしばらく進むと、前方に巨大な扉が現れた。おそらくは王の寝室に繋がっているのだろう。俺は周囲に敵がいないことを確認してから、ゆっくりと開けることにした。すると、中には一人の男がいた。どうやらコイツが国王らしいな。
「よくここまで来たな」
「ああ、お前を倒しに来たんだよ」
俺の言葉を聞いた男はニヤリと笑った。
「ほう。随分と威勢が良いようだな」
「そりゃどうも」
「だが、残念だったな。ここにはお前の味方はいない」
「それはどうかな? 俺は仲間を信じてるんでね」
「フッ……。なるほどな。だが、所詮は負け犬の遠吠えに過ぎない」
「言ってくれるじゃねえか」
「事実を言ったまでだ」
「……お前をぶっ倒せば問題無いってことだな?」
「その通りだ」
「なら、遠慮なくやらせてもらうぜ!」
俺は槍を構えると、勢い良く飛び出して攻撃を仕掛けた。だが、彼は慌てることなく剣で受け止めると、弾き返してきた。俺は体勢を立て直すと、もう一度攻撃を繰り出した。だが、またしても簡単に防がれてしまう。その後も何度か攻撃を繰り出したが、どれも簡単に防がれてしまった。
……クソッ。こっちの手の内は全て見切られているみたいだな……。さすがに一筋縄ではいかないみたいだな……。これは困ったぞ……。……さて、どうしたものかな?
俺が悩んでいると、「もう終わりなのか?」という言葉が耳に入ってきた。どうやら向こうはまだ余裕があるみたいだな。……なら、こちらも手札を切るとするか……。正直に言えば使いたくは無かったんだけどな……。仕方が無いか。
俺は覚悟を決めると、【神速】を発動させた状態で攻撃を仕掛けた。そして、彼の攻撃を掻い潜ると、そのまま腹に蹴りを叩き込んだ。すると、彼の体は吹き飛び壁に激突した。だが、まだ意識はあるようだな。……なら、もう一発入れておくとしようか。俺は再び彼に接近すると、今度は顔面に拳を打ち付けようとした。だが、彼は不気味に笑うと、剣を地面に突き刺して衝撃波を放ってきた。
俺は慌てて回避しようとしたが間に合わず、まともに食らってしまった。それにより、大きく吹き飛ばされると、背中を強打してしまった。……ヤバいな。結構効いたぞ。俺は痛みを堪えながら立ち上がると、槍を構え直した。……どうするか? このままだとジリ貧になるだけだよな……。なら、賭けに出てみるか……。
俺は覚悟を決めると、全身に魔力を纏わせた。そして、そのまま突っ込んでいった。国王はそれを見て、馬鹿にしたように笑い始めた。……上等だ。なら、やってやろうじゃないか!
俺は更にスピードを上げると、連続で突きを放った。だが、それでも全て回避されてしまう。だが、それでも構わない。俺はひたすら攻撃を続けた。そして、遂に奴が俺の攻撃を防いだ瞬間、俺は懐に潜り込むと、渾身の一撃を腹部に叩き込んだ。
俺の一撃を食らった相手は大きく仰け反ると、口から血を吐き出した。それと同時に俺は後ろに飛んで距離を取る。そして、すぐに追撃を仕掛けるべく走り出した。
「舐めるなよ小僧がぁ!!」
相手は怒りの形相を浮かべると、剣を振り下ろしてきた。俺はそれを回避すると、カウンターで槍を突き出した。だが、それはギリギリのところで避けられてしまった。そして、今度は国王が反撃に転じてきた。次々と繰り出される斬撃を避けながら、俺は反撃の機会を窺っていた。
それからしばらくの間は互いに攻撃を回避しながら隙を探るという展開が続いた。そして、遂に均衡が崩れた。相手の攻撃を避ける際にバランスを崩してしまったのだ。俺は咄嵯に立て直そうとしたが、遅かった。俺は相手の攻撃を受け止めると、壁際まで押し込まれてしまった。
「……どうやら勝負あったようだな」
「……そうかもな」
「だが、安心しろ。苦しまないように一瞬で終わらせてやる」
そう言うと、剣を振り上げてきた。……マズイな。避けようとしても間に合いそうもない。……なら、少しでもダメージを減らす為にも防御に徹した方が良さそうだな。俺はそう判断すると、槍で攻撃を受け止めた。
次の瞬間、凄まじい衝撃と共に剣を振り抜かれると、俺は後方へと吹き飛んだ。そして、そのまま床に転がると、激しく咳き込みながら起き上がった。
「ゴホッ……。ガハッ……。ハァ……。ハァ……」
「これで分かっただろう。お前の実力など私には及ばないということをな」
「……それはどうかな?」
俺はフラつきながらも立ち上がった。……流石に今のは効いたな。だが、おかげで確信することができた。やはりこの力は俺の想像以上に強力なようだ。これを使えば勝てない相手はいないかもしれないな。俺は自分の力に恐怖を覚えたが、すぐに気持ちを切り換えた。今はそんなことを考えている場合ではないからだ。……それにしても困ったな。予想以上の威力だったせいで体が思うように動かないぞ……。早く回復しないと……。だが、そんな暇を与えてくれるはずもなく相手は斬りかかってきた。俺はそれを避けると、反撃を試みるべく足に力を入れた。だが、それは叶わなかった。
何故かと言うと、突如として力が抜けてその場に膝を突いてしまったからだった。……まさか!?
「ようやく気づいたようだな」
「何をしたんだ?」
「簡単な話だ。貴様が使っている技は強力だが、その分反動も大きい。つまりはそういうことなのだ」
「なるほどね」
「そういう訳だ。そろそろ楽にしてやる!」
そう言い放つと同時に相手は剣を振り上げた。俺はそれを見ても避けることができずにいた。……くっ。ここまでか……。俺は死を悟った。
だが、その時、突然誰かが俺の前に立ち塞がると、国王の攻撃を剣で受け止めた。俺は驚きながら視線を向けると、そこには俺を追放した張本人であるアイツらの姿があった。……どうしてここに? 俺は困惑しながらも、なんとか声をかけることにした。
「……お前なんのつもりだ?」
「それはこちらのセリフだ」
「どういう意味だ?」
「お前こそ何故、国王様に逆らうような真似をしている?」
「それは……」
「……まさかとは思うが、無能なお前がこの国の王にでもなろうと思っているのか?」
「……」
「図星か……。全く愚かな男だ。たった一人でどうにかできると思っていたとはな」
「うるさい! お前には関係無いだろ!」
「関係ない? ふざけるな! お前のせいでどれだけの者が迷惑を被ったと思ってる!」
「知るか!」
「……どうやら反省する気は無いらしいな」
「当然だ! 俺がこの国を変えるんだよ!」
「……そうか。なら、お前には消えてもらうしかないな」
「何だと?」
「俺はこの国の近衛騎士になったんだよ!」
そう叫ぶと、仲間の一人が手にしていた短剣で襲いかかってきた。俺は慌てて槍で防ごうとしたが、間に合わなかった。俺は脇腹に深い傷を負うと、そのまま倒れてしまった。
「……グッ」
「フッ、所詮はここがお前の限界だったのさ」
「クッ、クソッ。さっきは俺を助けてくれたじゃないか」
「当然だ。お前の汚い血で国王の剣を汚してたまるか。仲間の不始末は俺達がつけるものだ」
男はそう言うと、仲間の方へ向き直った。
「さあ、今度こそ終わりだ」
「はい」
「この役立たずを楽にしてやれ」
「分かりました」
男は指示を出すと、仲間は再び俺の方へ向かってきた。そして、持っていたナイフを振り下ろすと、俺の首に突き刺そうとする。
……また邪魔が入るのかよ。いい加減にしてくれ……。だが、次に入った邪魔は俺に対しての物ではなく、振り下ろされた刃は誰かの魔法障壁によって弾かれた。
目の前で起きた出来事を見たガリオンは目を見開くと、呆然とした様子で呟いた。
「一体誰が……。ええい、こんな物は俺が壊してくれるわ!」
彼は怒りに任せて何度も攻撃を繰り返したが、全て失敗に終わった。その光景を目の当たりにしていた俺は笑いながら立ちあがると、剣を構え直した。
「お前はもう諦めた方が良いぞ。近衛騎士なんて身に余る」
「黙れ! お前を殺す!」
「残念だが、それは無理だ」
「何故だ!」
「だって、お前は負けてるじゃん。俺の真の力に気づいたから俺を追放したんだろう?」
俺はそう言って挑発すると、続けて言葉を口にした。
「さっきまでの威勢の良さはどこにいった? ほら、お前の本気をみせてくれよ」
「クソッ! 調子に乗るなよ! こうなったら全員で始末してやる!」
彼はそう叫びながら武器を構えると、仲間達に俺を包囲させた。そして、一斉に襲い掛かってくるように命令を下した。俺はその様子を見ると、小さくため息を漏らした。……どうやらコイツらは本当に救いようのない馬鹿のようだな。
俺は【神速】を発動させると、一気にその場から飛び出した。そして、まずは一番近くにいる男の顔面に拳を叩き込むと、他の連中に向かって蹴りを放った。それにより、三人の仲間達が吹き飛ばされた。そして、残りの二人も同様に吹き飛ばすと、最後にガリオンに狙いを定めて殴り飛ばした。すると、彼は壁に激突すると気絶してしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます