第14話
翌朝、作戦通りに俺は一人で城へと向かった。そして、見張りの兵士を見つける度に物陰に隠れながら接近していき、後ろから近づいて気絶させた。それからしばらくすると、兵士達の騒ぎを聞きつけたのか、複数の兵士が駆けつけてきた。
「おい! そこで何をしている!」
「悪いがお前達に構っている暇はないんだよ」
俺はそう呟くと、兵士の一人の背後に回り込み首筋に手刀を当てて気絶させる。そして、他の兵士たちが混乱している隙を狙って城の中に侵入した。
「ここまで来れば大丈夫だろう」
俺は周囲を警戒しながら進んでいく。すると、前方から数人の男たちが現れた。その手には剣が握られている。
……これはマズいな。さすがにこっちの姿が見えている状態で戦闘を行うわけにもいかないし……。仕方がない……。ここは逃げるしかないか……。
俺が踵を返そうとしたその時、「待ちやがれ!」という言葉が聞こえてきた。……チッ……。バレてしまったか……。まあ、仕方がないな……。俺は振り返って彼らと対峙した。
俺の前に現れた男達は全部で四人だった。その内二人は体格の良い大柄な男性で、残りの二人もそれなりに鍛えているように見える。おそらくは隊長格の人間なのだろう。俺は彼らを観察しながら口を開いた。
「俺に何か用か?」
「お前は何者だ?」
「俺は『黒猫団』のメンバーだ」
「『黒猫団』だと?」
「ああ、そうだ」
「……そうか。なら、死んでも文句は言えないよな?」
「ああ、そうだな。……と言いたいところだが、俺はまだ死ぬつもりは無い」
「そうかい。なら死ね!」
そう言うと、男は勢いよく斬りかかってきた。それを合図にして、二人の男が同時に突っ込んできた。
……一人は任せても良いか。なら、もう一人は俺が相手するとしよう。俺は素早く判断すると、召喚獣を呼び出して目の前の男に集中することにした。
……コイツは速いな。それになかなかの腕をしているようだ。だが、速さだけならば俺の方が上回っている筈だ。……なら、これでどうだ?
俺は相手の攻撃を避けると同時に、カウンターを仕掛けた。すると、彼は慌てて防御の姿勢をとった。……フム。反応速度だけは悪くないようだな。だが、まだまだ甘いな。
俺は彼の剣を弾き飛ばすと、そのまま腹に蹴りを叩き込んだ。すると、その衝撃によって彼は吹き飛ばされ壁に激突した。
彼が地面に倒れる前に、もう一人の男が襲ってきた。召喚獣がやられたようだ。俺はそれを回避すると、反撃に移った。だが、その時には既に彼は体勢を整えており、再び攻撃を仕掛けてきた。
……中々に厄介だな。だが、スピードでは俺が圧倒的に有利だ。俺は彼に向かって次々と攻撃を繰り出していく。だが、彼はそれを的確に防いでいく。……なるほど。かなりできるみたいだな。さすが召喚獣を倒しただけはある。だが、俺には及ばない。俺は更にペースを上げると、彼に全力の一撃を放った。
その瞬間、俺は腹部に強烈な痛みを感じた。……何が起きたんだ? 俺は自分の身に何が起こったのか理解できずにいた。……一体どうして?
俺は視線を下に向けた。そこには俺に短剣を突き刺している男の姿が見えた。……なるほどな。どうやらあの時、俺は油断していたようだ。まったく情けない話だよな。俺は自分の不甲斐なさを嘆いていた。
……だが、いつまでも落ち込んでいる場合じゃないよな。まだ勝負は終わっていないんだからな!
俺はすぐに立ち上がると、彼を殴り飛ばした。すると、今度は背後から別の男が現れて襲いかかってきた。どうやら仲間がいたらしいな……。だが、遅いぞ?
俺は振り向きざまに裏拳を放つことで対処する。それにより、彼は壁まで吹き飛んでいった。それを見た最後の一人の男は一瞬怯みを見せたが、すぐに立ち直ると向かって来た。
……どうやら逃げてくれる気は無さそうだな。仕方が無い……。少し痛い目にあってもらうとするか……。
俺は覚悟を決めると、彼と対峙することにした。そして、互いに間合いを詰めていき、遂に武器の間合に入った。
俺は即座に槍を取り出すと、そのまま突きを放ってみた。だが、それは簡単に回避されてしまう。そして、逆に反撃を受けてしまった。……クソッ。なんて重い一撃なんだ。俺は思わず顔をしかめてしまう。……だが、このままで終わる訳にはいかない。
俺は槍を構え直すと、一気に距離を詰めた。そして、連続で突きを繰り出す。だが、それも避けられてしまい、カウンターを食らってしまった。……やはり強いな。流石は兵士の隊長クラスといったところか。
俺がそんなことを考えていると、突然相手が動きを止めた。……どうやら観念してくれたようだな。俺はホッと胸を撫で下ろすと、改めて口を開いた。
「降参してくれるのか?」
「ああ、そうさせてもらうよ。どうやらあんたには勝てないようだ」
「そうか。なら、大人しく捕まってもらえないか?」
「それはできない相談だな」
「どうしてだ?」
「俺はまだ死にたくはないからだ」
「……どういうことだ?」
「お前は知らないのか?」
「何をだ?」
「最近この国で起こっている事件のことをだ」
「事件だって?」
「ああ、そうだ。実はここ数日の間に多くの人間が行方不明になっているんだ。みんな国王に逆らった連中らしい」
「それは本当なのか?」
「本当だ」
「……なぜ、それを俺に話す?」
「それはお前が強いからだ」
「だから俺に国王を倒せというのか?」
「それは俺の口からは言えないな」
「断る。俺が戦うのは腐った連中の為ではない」
「そうか……。なら、国王の為にここで手柄を上げておくとしよう」
そう言うと、彼は腰に下げていた剣を抜き放った。……やっぱり戦うことになるのか。だが、ここで逃げる訳にはいかないな。俺は覚悟を決めると、槍を構えた。 そして、互いの出方を伺うような状況が続く。……そろそろいいか? 俺は足に力を入れる。
次の瞬間、俺は地面を蹴って駆け出した。そして、一気に距離を詰めると、思いっきり槍を振り下ろした。しかし、それすらも読まれていたようで、あっさりと受け止められてしまった。そして、すぐさま剣で薙ぎ払われた。
俺は咄嵯に身を屈めることで、なんとか避けることに成功した。……危ねぇ。もう少しで当たるところだった。俺は冷や汗を流しながらも、すぐに反撃に移るべく構えを取った。すると、今度は向こうから仕掛けてきた。
素早い連続攻撃が次々と繰り出される。それらを捌きながら、少しずつダメージを与えていく。そして、ついに俺の攻撃が相手に届いた。俺の一撃を受けた相手はよろめきながら後退する。だが、それでも倒れずに踏み止まると、こちらに向かってきた。
どうやら諦めるつもりは無いようだな。……仕方がない。これ以上は危険かもしれないが、やるしかないか……。俺は覚悟を決めると、再び攻撃を仕掛けようとした。だが、その時、後ろから声をかけられた。
「そこまでだ!」
俺は声のした方に顔を向けると、そこには鎧を着た兵士が立っていた。どうやら騒ぎを聞き付けてやってきたようだな。……邪魔が入ったか……。まあ、いいか。とりあえず今は撤退しておこう。俺はそう判断すると、その場を離れた。
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