第4話 蜘蛛の魔物

 音がする方へ俺はリナとベルファストと共に向かっていた。

「ほう、あれはイジメか?」

 音がする方へ来て俺が見た光景は、小さな蜘蛛の魔物を集団でイジメている狼の魔物たちだった。

「あれは【ウォーウルフ】ですね。ベテラン冒険者でも苦戦する魔物です」

「Aランク級の魔物でございます。ルイス様」

リナとベルファストの二人は俺に説明してくれた。

俺はその様子を見て、心底腹が立った。

 小さな蜘蛛の魔物をウォーウルフが集団でイジメているのが、前世の俺にとてもよく似ていたからだ。

「……あの魔物を助けるぞ」

 同情したわけではないが、一人のやつを何人も群れて集団でいじているあの魔物たちがとても胸糞が悪かったからだ。

 いや、魔物だから匹で数えるのか? まあ、どうでもいい。

「ルイス様、魔物を助けるのですか? 利益があるとは考えにくいのですが」

「助けると言ったら助ける! 俺の言葉は絶対だ!!」

「はっ、失礼しました」

「行くぞ!」

 俺は足に力を入れて、地面を思い切り踏み込み、ウォーウルフたちにものすごいスピードで近付く。

 すると、気付いたウォーウルフたちは三匹同時に仲良く俺の頭を噛み砕こうとしてきた。

 俺はウルフたちの攻撃を避け、空に飛ぶ。

 そして、風魔法を使い斬撃のように飛ばす。

 しかし、三匹の内二匹は仕留めたが残りの一匹に避けられた。

「面白いな、おまえ。今のを避けるとはな」

 俺は手加減したとはいえ、あの風の斬撃を避けたことに驚くと同時に強い魔物と戦えることに胸の鼓動が高鳴っていた。

「お前はどんな声で鳴くのか、俺に聞かしてくれよ!」

 そう言うと、ウォーウルフは地響きがするような声で咆哮する。

 空中に魔法陣をいくつも展開される。

 咆哮と共にファイヤーボールが俺に襲いかかる。

「火魔法か。面白い!」

 俺はファイヤーボールを避けながら、どの程度手加減すればいいか考えていた。

 さて、俺が本気を出したところで何も面白くない。どうするかと手で顎を触りながら走っていると、俺が手加減していると思ったのか、ウォーウルフは怒り本気でファイヤーボールを撃ち始め、ファイヤーボールの数が一気に増えた。

「ちょ、危ないってば」

 油断していた俺はウォーウルフの放ったファイヤーボールをもろに食らった。

「ルイス様!!」

 リナとベルファストはファイヤーボールをもろに食らった俺を見て、二人は顔が青ざめた。

「お前、よくもやったな! 手加減なんて止めだ! お前だけは絶対に許さん!」

「ルイス様!!」

「ルイス様、ご無事で!」

 二人は無傷な俺を見て、そっと胸を撫で下ろす。

「ハァアァァァァーー!!」

 俺は腹に力を入れて気を高める。そして右腕を上げて意識を集中させエネルギーを溜める。

「消し飛べー!」

 溜まった球体の光のエネルギーをウォーウルフに向かって投げつける。

 エネルギー弾に当たったウォーウルフは断末魔の叫びを上げながら跡形もなく消し飛んだ。

「ふん、ザマァみろ」

 まあ、油断した俺が悪いんだけどね。

「お見事です! ルイス様!」

「流石でございます。ルイス様」

 戦いを見ていたリナとベルファストの二人は俺に拍手を送る。当然だな、何故なら俺は主人だからな。

 ガアーハッハハー! っとAランク級のウォーウルフも倒したことだし帰るか。

 リナとベルファストに声を掛けて俺は踵を返し屋敷に戻ろうとした……のだが、気配を感じて振り返る。

 そこには、先ほどウォーウルフから集団でイジメられていた蜘蛛の魔物がいた。

「ほら、お前は元の場所に帰りな」

しっしっと手で追い払う仕草をする。しかし、一向に蜘蛛の魔物は帰ろうとせずに俺に付いてくるので、俺は蜘蛛の魔物に背を向けたまま言う。

「来たければ来ればいい。俺は来る者拒まずだからな。たとえそれが魔物だろうがな。だが付いて来るなら、それ相応の覚悟で来い」

 俺はそれだけ蜘蛛の魔物に言って歩き出す。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


 私、【クイーンタナトプス】は三体のウォーウルフにイジメられていた。

「ほらほら、逃げないと当たっちゃうよ〜」

ウォーウルフたちは私の体を噛み砕こうと攻撃してくる。それを私は何とか躱す。

「おら、終いだ!」

「うわあぁぁぁーー!! グハッ!!」

 ウォーウルフの尻尾で体ごと吹き飛ばされ木に強打する。

「まだ生きてるのかよ、折角せっかく面白くなってきたが仕方ない。止めを刺すか」

 何で、どうして? 私はこんな目に遭わなきゃならないの?

 私は弱い。アイツらよりも確かに弱い。

 それだけの理由で私は今こうして殺されかけている。

 でも……それでも……。そうだったとしても!!

「私は……最後まで……気高く地で泥臭く……蜘蛛らしく、足掻いてやる!!」

 私は最後の力を振り絞り、あちこち怪我をした体を起こし何とか立ち上がる。

「俺は優しいからな、次で終わらしてやるよ」

 ウォーウルフは声色を変えて言う。

「目障りだからとっとと消えな」

 ウォーウルフは私に止めを刺すために、口にエネルギーを溜め始めた。

 すると、ウォーウルフたちの後ろから来る三人の人影が見えた。

「お前ら! どうやら、俺たちに喧嘩を売りに来た軟弱な下等生物がいるぜ?」

「あんな奴ら俺らにかかれば一捻りだ!」

「人間ごときが俺たちと戦おうなんてバカだぜ!」

 それに気付いたウォーウルフたちはこっちに向かってくる人間のことをバカにしながら、人間たちの方へ向かって行った。


 ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


 人間たちとウォーウルフたちの戦いを見ていた私は驚愕していた。

 いや、正確には一人の人間が私をイジメていたウォーウルフたちを屠ったのだ。

 嘘でしょ? 人間がウォーウルフに勝ったの?

 たった一人で? 

 ウォーウルフたちを一人で捻じ伏せた人間を見て私は全身がガクガクと震えていた。

 コイツは危険だ、逃げろと、本能がそう訴えて来る。

 だが、生憎と私にはもう力が無いため逃げられない。いや、力が残っていたとしても無理だろう。

 仕方ない、この運命を受け入れようと思う。

 私の最後の蜘蛛生の瞬間を。

 そう思って……いたのだが、人間は私を一瞥すると同時に笑い、二人の人間を連れて来た道に戻っていく。

 私、もしかして助けてもらったの?

 そう思った時には私の体はあの人間……いや、少年の方へと歩いていた。

 助けてもらった恩を返したい。殺されかけていた私をあのウォーウルフたちから救ってくれた。

 なら、私は強くなってこの人をお側でお守りしたい! 救って頂いたこの命、この人に捧げようと決め後を追いかける。

 後ろを付いて行くと、少年は背を向けたまま立ち止まり言う。

「来たければ来ればいい。俺は来る者拒まずだからな。例え、それが魔物だろうがな。だが、付いて来るならそれ相応の覚悟で来い」

 それだけ言うと、再び少年は歩き出す。

 私は覚悟を決め、少年の後ろを追いかけるのだった。

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