【㊗星100突破】見果てぬ夢の主(旧)拾い子たちを育てたら忠誠心が高くなりすぎました?!

小鳥遊 マロ

第1話 プロローグ

 俺の名前はルイス・フェイト・バハリエリ。

 貴族バハリエリ家の嫡男だ。

 今、俺はスラム街を一人で歩いている。

 何故かって? 

「哀れで惨めな子供たちを助けるため」とでも言えば、聞こえはいいか? まあ、それは建前なんだけどな。

 真の目的は、俺自身の駒を増やすためだ。

 組織的力を増強し、切り札として使うためだ。

 このスラム街には、世間からは見向きもされないが、研磨すれば輝く原石のような人材が眠っている。

 そんな有望な奴らを俺の駒に加えるため、わざわざ足を運んでいるわけだ。

 え? そもそもどうやって仲間にするかって? 

 おいおい、そんな簡単なことも分からないのか。

 ふんっ、特別大サービスで教えてやろう。

 手順は実にシンプルだ。


 まず最初に、有望な才能を持つ孤児を探す。


 次に、圧倒的な力で相手の自尊心をへし折り、絶対的な上下関係をその魂に刻み込む。

 プライドが高く、反抗的な奴ほど、一度屈すれば揺るぎない忠誠を誓うものだ。


 仕上げに、今いるその絶望の淵から救い上げるように手を差し伸べ、恩という名の首輪をかける。


 恐怖による支配と救済による刷り込み──いわば『アメとムチ』だ。この二つを組み合わせば、決して裏切らない忠実な駒が完成する。

 ただ、厄介なのは、時に駒の忠誠心が高まりすぎて、暴走する危険を孕んでいることだ。

 もっとも、前世の知識と経験を持つ転生者である俺が駒の手綱を制御出来なかったり、この世界の強者に後れを取ることなど、万が一にもあり得ない、と断言をしたい……が、必ずしもイレギュラーは存在する。まあその辺りのことも含めて、抜かりはない。

 何せこの世界には、感情を持たず、命令にのみ従う機械でできた人形――この世界では『アンドロイド』と呼ばれている便利な代物だ。

 感情に左右されやすい駒とは違い、アンドロイドは与えられた命令を完璧に、そして狂信的に遂行する。

 それは、不確実な『愛』などよりも、歪みがなく、よほど価値のある『命令への絶対的な服従』だ。

 と、話している間に、お気の毒そうな子供を発見した。

 早速、助けに行ってきまーすっ!


◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


 俺はスラム街の路地の端で、段ボールの上に座り、ナイフを弄んでいる金髪エルフの少女を見つけた。

「……ん? ──何だよ、テメェは? 何の用だ?」

 近付いて来た俺に対して、金髪エルフは鋭い眼光で睨みつけてくる。その瞳には警戒の色がにじんでいた。

「──俺に付いて来い。そうするなら、最低限の生活は保障しよう」

 俺は手を差し出す。

「……お前、何言ってんだ? もしかしなくても、ワタシのことを舐めてんのか? スラムの奴ならそう言えば、ホイホイ付いて行くと思ってんのか?」

 金髪エルフはあざけるように鼻を鳴らした。

「いーや、別にそうは思わないな。スラムの人間は……おっとこれは失礼。スラムのゴミ虫共は社会から弾き出された落ちぶれ者だ。言わば社会不適合者のようなもの。だから、俺はその社会の異端者の一人であるお前に手を差し伸べたんだ」

 俺はあえて挑発的な言葉を選び、彼女の反応を伺う。

「ほぅっ、随分と生意気なことを言うじゃねぇかよクソガキがっ。あまりワタシを怒らせない方が身のためだぞ?」

 金髪エルフの表情は険しく、そしてナイフを弄ぶ指の動きが加速する。

「仕方ない、お前みたいな奴は実力で上下をハッキリ分からした方が良さそうだな」

 俺は金髪エルフに一歩詰め寄る。

「……お前、ワタシのことガチで舐めてんだろ?」

 金髪エルフは少し短気のようだ。なら、このまま怒らせよう。

「えー、別に舐めてはないゾウ〜。ただお前みたいな奴は可哀想だから、俺様がしかたなーく、ほんとにしかたなーくお前に慈悲じひをかけてやっただけだゾウー。ぱお~ん!」

 俺は変顔して金髪エルフをこれでもかと煽ってやった。彼女の逆鱗に触れるように、言葉を重ねる。

「テメェっ! ガチで殺す──っ!!」

 煽ってやったら、良い感じにノってくれたようだ。

「そうこなくっちゃな!」

 金髪エルフは手に持つナイフで、俺の心臓目掛けて突進してきた。もちろん、それを予測していた俺は軽々と躱し、その横を歩いてすり抜ける。

「っ!?」

「遅いな」

「チッ、ナメんなっ!」

 金髪エルフは声を荒げ、さらに激しく攻撃を繰り出すも、俺は攻撃を安々とかわし、彼女のナイフは空を切るばかりだ。

「ハァッ、ハァッ、クソッ……!」

「息を切らしているようだが、大丈夫か? 俺はまだ息一つ乱れていないんだが?」

「ほざけぇっ!」

 金髪エルフは再度、俺の心臓をナイフで突き刺すために突進して来たので、腕を掴み、思い切り背負投せおいなげを食らわせた。

 ドスッ!

「ガハッ……!!」

 背中から地面に叩きつけられた少女は、息を詰まらせて悶えた。

「どうだ? まだやるか?」

「……テメェは……一体何者なんだよ!」

 息を切らし、途切れ途切れに大声で叫ぶエルフの少女。

「俺はただそこらにいる貴族の坊っちゃんだよ」

「……どこの貴族の坊ちゃんがこんなに強いんだよ。……どこまでも洗練された動きで、ワタシの攻撃を避けれる奴がいるかよ。ったく──」

「ところでさっきの質問に答えてもらえるか? 俺に付いてくるか、否か」

 俺は金髪エルフの上に跨り、手首を捻り、持っていたナイフを落とさせる。

「はぁ、ったく。わあったよ、テメェに付いて行けばいいんだろ? 離してくれっ」

「……随分と素直なんだな」

 俺が拘束を緩めた瞬間、彼女は待ってましたと言わんばかりの顔でニヤけた。

「──バーカッ!! 拘束をあっさり解くアホがいるかよ!」

「まさかもう一つ持っているとはな──」

 彼女は一瞬の隙をついて、身体に隠し持っていたナイフを反対の手で、俺の腕に突き刺してきた。

 しかし、痛がる素振りを見せない俺に「なんでっ!?」と困惑の表情を浮かべる少女。

「ナイフを腕に刺して痛がっている隙に、抜け出そうとする作戦は素晴らしい。──だが、それは俺には通用しない」

「──っ!! このクソがぁああああっ!!」

 金髪エルフはナイフを俺の腕から無理やり引き抜いて脱出を試みる。

「嘘……何で、どうして……」

 俺に突き刺されたナイフは、彼女が引き抜こうと力を込めるもビクともしない。

「なんで抜けねぇんだよっ!! チクショーっ!」

 金髪エルフはナイフはもうダメだと悟り、素手を使っての反撃を始める。

 恐らく怯ませた隙を突いて逃げるつもりであろう。

 彼女の拳は俺の顔面を集中的に狙ってきた。

「これが、殴り合いか。中々に痛いな。いや、これは一方的に殴られているからイジメか?」

 俺は金髪エルフが殴り疲れるその時までひたすらに殴られ続けた。

「ハァハァ、ハァハァ、こんなに殴られて……どうして倒れないんだよ。これでも、ワタシの戦闘力は、エルフの森では軍の二つの部隊に匹敵する強さだったんだぞ!」

「ハァハァ……例えそうだったとしても、この体勢でお前は本領を発揮することが出来ない。──あくまでも、その戦闘力は身動きが取れる状態でのもの……つまり、今この状況でのお前の戦闘力は──俺たち子供と同等だ。……さてと」

「う゛っ!」

 腹に一発、重い一撃を少女にお見舞いした。

「お前⋯⋯ワタシに⋯⋯何をするつもりだ?!」

「そうだなー、一方的にお前を殴る……とか?」

「そうかよ、なら好きに殴りな。ワタシはもうお前を散々殴ってたから疲れちまった」

「…………気が変わった」

 俺は空間に物を仕舞うことが出来る収納魔法──【アイテムボックス】──を使用し、空間からあるものを取り出す。

「何?」

 液体入り試験管だ。それを彼女の目の前に突き出した。

「飲め」

「はっ?」

「この俺が直々に口移しで、無理やり飲ましてやろうか?」

「ふんっ。イヤだね」

「そうか……なら口移しだな」

「なっ……!? うぐっ……!」

 俺は試験管内の液体を口に含み、有無を言わせず強引に彼女に飲ませた。 

「ぷはっ。……サイ……アクっ。何でこんな、こんな──」

「クックックッ」

「気持ち悪りぃ、笑いかた……だ……うっ!」

 どうやら、身体に異変が現れ始めたようだ。

 金髪エルフは苦しそうにうめき声をあげる。

「分かってはいたが……私に、何をしたんだ……っ!!」

 胃が圧迫され、内側から限界まで膨らむ金髪エルフ。

「単純明快なことさ、お前の飲んだものは腹が一瞬で水に満たされるものだ」

「たったそれだけか?」

「たったそれだけだが、今からやることにおいて──効果は絶大だ」

 そして俺は水で満たされ、大きく膨らんだ金髪エルフのお腹周りを、思い切り殴りつけた。

 ドゴォッ!

「ガハッ!」

 腹にパンチを食らわされた瞬間、彼女の口から吐き出される嘔吐物がキラキラと光る。

「ほらな、予想どお──」

 当然、馬乗りになっていた俺にも、金髪エルフの吐き出し物が顔面にびちゃりと直撃した。

「……俺は何で気付かなかったんだ……馬乗りになったら必然的にコイツの汚物を浴びると……」

 俺は顔にへばりついたそれを拭いもせず、呆然と呟いた。

「ハハッ……、アンタもしかしなくてもバカだろ?」

 こんな惨めな姿を晒したの計算外⋯⋯だがお前にもそれを──味合わせてやる……!

 金髪エルフの言葉が、俺の頭にカッと血を上らせた。

 ピキンッ!

「うあああああっ!!」

「黙れ、黙れ⋯⋯黙゛れ゛っ゛!!」

「ガバッ、ゴホッ、ゲホッ!!」

 俺は頭にきたため、金髪エルフの腹を幾度となく拳で殴り続けた。彼女の嘔吐物が何度も俺の服を汚す。

 最初こそ不快で顔を歪めたが、繰り返されるうちに、その生温かい感触すらどうでもよくなっていった。

「──さぁ、第二ラウンドだ。アッハッハッ!!」


◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆


「懲りたか?」

「……は、はひっ」

「俺に着いてくるか?」

「はひ、ふいてひひはふ(はい、ついて行きます)。ははは……ほほはへへ……(だから、もうやめて)」

「俺に服従すると誓うか?」

「ふぁい、ふぁふぁたほははははゆゆほひほへはふ(はい、あなたを我が主と認めます)」

「良い子だ。これからは俺のために忠勤に励め! はむっ」

 大人しくなった金髪エルフの長い耳をそっとはむる。

「はあんっ」

 気持ちよかったのか、驚いたからなのか、随分と子供には相応しくないイヤらしい声が響いた。

 俺としたことが。少々、怒りに任せて殴りすぎた。

 その後、金髪エルフが再び会話出来るようになるまで、数時間かかった。

「──俺はルイス・フェイト・バハリエリだ。お前の名は?」

「──カリーナ・ランセル。エルフの森出身で、国同士の争いで負けた落ちこぼれのスラム民だ」

「カリーナか。それじゃあ、まずその言葉遣いを直して敬語を覚えろ」

「ゲッ! マジすか、ルイス様」

 カリーナは俺を様付けで呼んだ。うん、従順になることは悪くない。

「大マジだ。これから俺が厳しく教育していくから覚悟しておけ!」

 これが俺とカリーナとの出会いだった──




ここからスピンオフ作品である「主を崇拝する拾い子たちの日常(仮)」に飛ぶことが出来ます。

https://kakuyomu.jp/works/16817330660404191701/episodes/16817330660454089776

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