第12話 布選び
雨の日の授業に、裁縫と木工も加わった。
両方ともルクバトが先生で、まず裁縫は、破れた服の
そして課題として、糸を紡いで機織りで手拭き用の布を一枚織るように言われた。どれだけ時間をかけても良いと言われているが、これはすきま時間に少しづつ進めているので終わる気配がない。
木工は、どんな場所にどんな木が生えているか、どういう場合にどの木を使うのが良いか、加工の方法などを習った。
これらの技術は、私たちが誕生の家を出てからも生活に困らないように、どこの誕生の家でも教えられることだと、ルクバトが説明をした。
「もしこのまま誕生の家に居続けたらどうなるの?」
アルドラが木の
「その場合は俺のように誕生の家の一員として働くことになるよ」
「ルクバトも私たちと同じように、ここの森で生まれたんですか?」
私はきっとそうなんだろうなと思いながらも、念の為に聞いてみると
「俺はここから東にある町の出身なんだ」
「じゃあ、そこからバジに来たんですか?」
「いや、バジの前に別の村にいた事もあるから……」
まだ若いのに色んなところで生活しているのだと知り驚いた。しかし話を聞くと、生まれた場所でずっと過ごす人のほうが少数派なのだという。
自分の惹かれるものがある土地を転々としたり、気の向くまま旅をして、気に入った土地に定住するのが一般的だという。
この世界の常識をまたひとつ知った。
*
「明日は町の中心部へ行きましょう」
十月に入り、二度目の刈り取りが終わったある日、シェアトが私たちに言った。
「何かあるの?」
アルドラが興味津々に聞くと
「もうすぐ収穫祭でしょう。祭りでは町のみんなで伝統的な衣装を身につけるの。あなた達の衣装がまだないから買いに行くのよ」
「ほんと? やったー!」
今までずっと古着を着ていたので、初めて自分の衣装を新調すると聞いて、アルドラは笑顔で喜んだ。
「新しい衣装はわたしが選んでもいいの?」
「もちろんよ」
「うわぁ、すごい! 嬉しい!」
ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶアルドラの横で、私はセンス無いし、誰か適当に選んでくれないかなぁと後ろ向きな気持ちで聞いていた。
横を見るとクラズも興味なしと顔に書いてあり、仲間がいることにホッとした。
翌日は午後から布のお店に行った。
「衣装は布を買って仕立ててもらうか、布のまま紐などの小物を使って着る方法があるわ」
私たちはこれから成長するので、今仕立てても着られる期間が短い。なので、布を買ってそのまま衣装として利用し、大きくなったらカバンなどの小物に加工する人も結構いるらしい。
それなら私は布のままでいいなと気楽に選びはじめた。
サテンの様な光沢のある布もあれば、光沢のない綿や麻のような布もある。模様も幾何学模様や絞り染めなど色々あるが、派手なのは無理だから、できればシンプルなものがいいなと店内を見回した。
「私は仕立ててもらいたいから、先にどんな衣装があるか見せてもらってくるね」
うきうきとアルドラはすぐ隣の仕立て屋へ走って行った。
クラズは私と同じように布だけ購入するようで、のんびりと店内を見回していた。幾何学模様の布の売り場で足を止めたかと思うと、光沢のない白地にコバルトブルーの糸で蝶や虫のモチーフが織り込まれた布に目をとめ、スッと手に取ってシェアトに渡していた。
選ぶの早いなと感心して再び自分の布を探した。
綿や麻の素材で無地の布がいいなと、それらしい布がまとめて置かれているコーナーを見つけて、色をどうしようと悩んだ。
黒や白はちょっと気分ではないし、社会人の時によく着ていたブラウンやグレー、ネイビーも今は心が弾まない。順番に見ていくと緑の布地に目が留まった。派手ではない、でも暗すぎない緑色がしっくりきて、その布を手に取ってみた。光沢があるわけでも無いのに光の当たり方で先程と異なる色合いをみせるその布をじっと見ていると、「似合ってる」とクラズの声がした。
声のほうを振り返ると、クラズがじっとその布を見ていた。
「なんかそれ、エルライらしい」
そして目を細めて頷いた。
私は再び布に目を戻し、手でなめらかな布地の表面を滑らせると、これしかないという気分になった。
「うん。これにする」
クラズにお礼を言って、その布をシェアトに渡しにいった。
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