第5話 誕生の祝祭
翌日から午前中は掃除や洗濯を、午後は農作業という生活がはじまった。
そして七日目の夕食後に食堂に集められた。
なんだろうと顔を見合わせていると、町の広場で開催される誕生の祝祭について説明を受けた。
誕生の祝祭とは、その年に孵化の森で誕生した子と、成人になった子の祝福と披露をする場らしい。当日は広場にたくさんの屋台がでて、舞台では音楽隊による演奏や舞踊が披露されるという。
その誕生の祝祭は明日開催されるらしく、あまりにも急な話に私は驚いた。まだこの家の敷地すら出たことがないので、今から緊張する。
──たくさんの人の前に立つなんて……
「大丈夫よ。お披露目の場ではあるけど、祝祭のメインは屋台でのお買い物や舞台の出しものだから。気負わなくて大丈夫よ」
私の不安そうな様子に、シェアトは勇気づけるように微笑んだ。みんなもいるし、きっと大丈夫だと自分に言い聞かせて、小さく頷いた。
「ルクバトは音楽隊の準備があるから、明日は早めに行くのよね?」
「ああ、朝食後には広場に向かうよ」
時々、夕方に弦楽器の音が聞こえていたのだが、あれはルクバトが練習している音だったようだ。
「私たちは準備の必要はないけれど、昼食を屋台で買って食べるから、お昼前には出発するわ。だから早めに掃除や洗濯が終わらせられるよう、みんなでがんばりましょう」
シェアトの言葉に、ミラクがウキウキと頷いている。その様子を不思議そうに見ている私に、隣からナシラがこそっと教えてくれた。
「屋台の新しい料理を食べるのを、ずっと前から楽しみにしてて、今回の昼食を屋台でってのはミラクの提案なんだよ」
心待ちにしているミラクの様子に、お祭りの屋台を想像して、私は少しだけ明日の祝祭が楽しみになった。
*
初めて行く町の中心部は、誕生の家の正面の道を、真っ直ぐ十五分くらい歩いたところにあった。
荷車がすれ違っても、まだ余裕のある広い道の両側には、お店や民家がズラリと並んでいる。
思ったより栄えていることに驚いた。
初めて見る町並みに目を奪われながら歩いていくと、開けた場所に出た。
そこが町の広場のようで、たくさんの屋台が見える。すでに多くの人が集まっていて、屋台で買ったものを、テーブルベンチに広げて、賑やかに食べている人たちもいる。
その先にはステージが設営されていて、そこで打ち合わせをしているルクバトの姿が見えた。アルドラが手を振って声をかけると、ルクバトもこちらに気がついて笑顔で手を振り返していた。
──あのステージに立つのか……
ごくりと唾を飲み込んだ。
これから多くの人の前に立つことを想像し、急いでステージから目を逸らした。
シェアトがステージの前のテーブルベンチのひとつに手を置いて
「それじゃあ今から自由行動で、お昼の鐘までにこのテーブルに集合ね。屋台で食べたいものがあったらこれで買いなさい」
そうみんなに伝えると、小さな袋を私たち三人に手渡した。紐をゆるめて中をのぞくと、硬貨が数枚入っている。
昨夜、それぞれの硬貨の価値を教えてもらったので、さっそく買い物を実践するんだなと理解し、受けとった袋を握りしめた。
「あっち行ってみようよ」
自由に見ていいと言われて、アルドラは楽しそうに来た道と反対の通りのほうへ行こうと、私とクラズの手をとり、引っ張っていった。
何気なく振り返ると、私たちをナシラが心配そうに見ていた。
広場の反対側もお店や民家がたち並び、軒先にお店を出しているところが多くあった。そこでは食べ物だけでなく、食器や布、家具や金物なども売られている。
アルドラは服に興味があるのか、色とりどりの服がかけてあるお店の前でしばらく立ち止まっている。
「見てくる?」
声をかけると嬉しそうに頷き、服屋の中へ入っていった。手持ち無沙汰になったクラズと私は、斜向かいで行われている餅つきを見ることにした。
餅つきなんて実際に見たことが無かったので、蒸されたもち米が杵でつかれて、餅になっていくさまは新鮮だった。結局ふたりでお餅が出来上がるまで見届けて、出来たてのお餅で作られた料理を買うことにした。
いろいろ種類があったが、ふたりとも汁物にお餅が入ったものと、きなこ餅のようなものを買った。
服屋へ戻ると、満足した様子のアルドラが私たちのほうに歩いてきた。
「なに買ったの?」
ふたりで餅つきの話をすると、それもおいしそうねと言いながらも、同じものは買わず、広場へ歩きはじめた。そして、途中の軒先で売っていたエビの炒めものを指して
「あれを少し多めに買うから、みんなで分けない?」
そう私たちに提案してきた。確かにせっかく色んな料理が食べられる機会なのに、ひとりでお餅ばかり食べててはもったいないなと思い、アルドラの提案に賛成した。
エビの炒めものを買って広場へ戻ると、シェアトとナシラが座っているテーブルには、さまざまな料理が置かれていた。
「戻りました」
声をかけて席に座ると
「美味しそうなものが買えたみたいね」
シェアトは目を細めて微笑んだ。
「そ……、それは、ど、どこの屋台に売ってたの?」
背後から現れたミラクは、手に持っていた料理をテーブルに置いて、興味津々に私たちの買ってきた料理をのぞき込んだ。
「屋台じゃなくて、あっちの店先で売られてたの」
アルドラが、買ったお店のほうを指した。
「あ、あっちも売ってるのか……。困ったなぁ……」
「ミラク、もうこれ以上は食べきれないから、今回は諦めなさい」
シェアトににっこりと制止されて、ミラクはテーブルの料理とお店のある方を交互に見たあと、諦めたように席に座った。
「少し早いけどいただきましょうか」
シェアトの言葉でみんな椅子に座り直し、感謝の言葉を唱和して食べはじめた。
お餅の汁物は魚のツミレのようなものが入っていて、少しとろけた柔らかい餅とよく合って美味しかった。ミラクが買ってきた料理も、勧められるまま片っ端から食べていく。素朴な味付けも多いが、香草を使った料理などもあり、みんなで多彩な食事を楽しんだ。
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