第242話 謁見の間にいたのは…

 城のなかへと入るための大きな扉。そこには二人の兵士が立っていた。案の定、その二人に止められる。まあ、それはそうよね。


「面会申請のない方は入城することは出来ません」

「まあそうだろうな。しかし、入らせてもらおう」


 オルフィウス王は手に魔力を籠めた。え、強行突破?


 呆気に取られている間に、躊躇うことなくとてつもない強大な魔力を手に集め出したかと思うと、オルフィウス王は手のひらを城の扉へ向けた。そして炎弾のようなものを放出した。しかし、炎弾だと思ったものは爆発するのではなく、扉へ当たった途端、激しく燃え上がり扉を溶かし出した。


「え、なにあれ、凄い」


 リラーナが驚きの声を上げる。ディノたちは苦笑していた。


 兵士たちは驚き、剣を構えオルフィウス王に斬りかかった。しかし、ディノとイーザンが瞬時に剣を鞘ごと抜き、二人を薙ぎ倒す。鞘のまま振り抜かれた剣は、激しく兵を叩きつけたが、死ぬことはなく気を失っているだけのようだ。


「悪いが少し寝ててくれよ」


 ディノが倒れた兵士たちの様子を見つつ、鞘を腰に戻し立ち上がった。そしてオルフィウス王はフッと笑ったかと思うと、視線を城のなかへと移す。


「では、行こう」


 そう宣言し、私たちは王がいるであろう部屋を目指す。


 扉を抜けなかへと入ると大きなエントランスが広がり、煌びやかなシャンデリアや調度品が多く並んでいた。極彩色豊かなエントランスは目がチカチカしそうな彩りでなんだか落ち着かない。


「派手だなー」


 ディノが苦笑しながら言うと、ヴァドも笑った。


「アシェルーダ王の趣味か?」


 全員が苦笑しつつ、先へと進む。


「王がいるなら謁見の間とか執務室か?」

「手当たり次第に歩き回っている間に逃げられても厄介だ。だれか捕まえて連れて行ってもらおう」


 オルフィウス王はニヤリとそう言うと、騒ぎを聞きつけ駆け付けた兵を捕まえ、「命が惜しかったら王の元へと連れて行け」と、なにやら悪者のような台詞を吐いていて苦笑してしまった。脅しのために強大な魔力を手に籠めながら兵の背中に手を当てている。顔面蒼白になりながら案内をしている兵にちょっぴり同情してしまった……ハハハ……。


 そして連れて行かれた先は謁見の間だった。


 兵によって開かれた扉、その先に見えるのは大広間に真っ直ぐ伸びる真紅の絨毯。多くの窓が並び部屋全体を明るくさせているが、天井にはこれまた煌びやかなシャンデリア。

 そして正面一番奥には数段高くなった場所に王座が……。


 金で出来た豪華な椅子。そこに腰かけるひとりの男。豪華な衣装に背にはマントらしきものも見える。そして頭には王冠が……。この人が国王……それはひと目で分かった。横には側近らしき人が控えている。


 そしてその前にはなにやら年を取った恰幅の良い貴族らしい服装の男がいた。どうやら謁見中だったようだ。

 扉が突然開かれ驚いた様子のその男はこちらにガバッと振り向き、怒りを露わにした表情でこちらを睨んだ。


「何者だ!? 今は私が謁見中だぞ!! 無礼者が!!」


 恰幅の良い男は侮蔑を籠めた表情のまま怒鳴り散らす。兵士は怯えた顔のまま立ち尽くしていたが、オルフィウス王に背中を押され一歩前へ出た。


「お、王へ面会されたいそうです……」


 王は怪訝な顔をし、声を上げた。


「そのような予定は聞いていない。下がれ。後日正式に謁見の申請を出すんだな。それともこの場で捕縛されたいか?」


 聞こえて来た声はあのとき……オキが持っていたあの国王の声と同じだった。やはりこの人がアシェルーダ王で間違いない。

 アシェルーダ王は横に立つ側近に目配せした。しかし、その側近はオルフィウス王を見て顔色が変わる。


「あ……あの方は……」


 顔を真っ青にしながら側近はアシェルーダ王へ耳打ちをする。その瞬間、アシェルーダ王の顔色も変わった。


「なっ! ラフィージア王なのか!? な、なぜここに!?」


 どうやら側近の人はオルフィウス王の顔を知っていたということか。ラフィージアの王ということに気付いたアシェルーダ王はあからさまに驚愕の顔となった。それは王の前に立つ恰幅の良い男も同様だった。


「な、なぜラフィージアの王が!? しかも面会の約束など交わしていないのだろう!?」


 恰幅の良い男が叫んだと同時にオルフィウス王はその男を思い切り睨んだ。ひっ、と小さく声を上げたのが聞こえ、オルフィウス王はゆっくりとその男の元へと歩いて行く。オルフィウス王に強大な魔力を当てられていた兵は、オルフィウス王が離れたことに安堵し、「失礼致します!」と叫んだと同時に部屋を飛び出して行った。


「貴様、ランガスタ公爵とやらだな?」


「ランガスタ公爵!?」


 私たちは驚きの声を上げた。その名は忘れるはずもなかったからだ。ローグ伯爵家が爵位返上をされた後、ローグ伯爵領を治めることになったのがランガスタ公爵だったから。

 しかもこのランガスタ公爵はどこで噂を聞いてもあまり評判が良いとは思えない人だった。そのランガスタ公爵が目の前のこの人!?


「な、なぜ私を知っている!?」

「なぜかって? ハハ、元々お前のことなど調べてはいないがな。たまたまだ。彼女のことを調べるついでに出て来た副産物だ」


 そう言ってオルフィウス王が振り向きお母様を見た。お母様はオルフィウス王の視線に合わせ一歩前へと出る。そしてその姿を目にしたアシェルーダ王は目を見開いた。


「お、お前は……ミラ・ローグ! なぜここにいる!?」


 王座からガタッと立ち上がり睨むような顔。しかし、オルフィウス王がそんなアシェルーダ王へ冷たい視線を投げ掛けると、一瞬怯んだようにたじろいだが、しかし、すぐさま再びお母様を見た。



*********

残り2話となりました!

明日一気に2話更新して完結となります!

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