第239話 ようやくたどり着いた

 

「ルーサ……」


 振り向くとお父様とお母様がいた。お母様は回復薬を飲ませてもらったのか、少し顔色は良くなったようだ。お父様に支えられながらも自分で歩いてこちらに向かっている。


「お父様、お母様!」


 駆け寄り、お母様に思い切り抱き付いた。


「ルーサ……ルーサ……」

「あぁ、ルーサ、本当に大きくなって」


 お母様は私を思い切り抱き締め返してくれた。そしてお父様も涙ぐみながら私の頭を撫でてくれている。


 あぁ、やっと会えた……ずっと、ずっと会いたかった。


「会いたかった」

「貴女をこんなに長い間独りにしてしまい本当にごめんなさい」


 お母様は涙を流しながら、肩を震わせ呟いた。私はお母様の肩を両手で掴み身体を離す。そして心からの笑顔を向けた。


「私は独りじゃなかったよ。たくさん大事な仲間も出来たし、味方をしてくれる人もたくさん出来た」


 リラーナにディノにイーザン、ヴァドやオキ、それにオルフィウス王。でも、その人たちだけじゃない。ガルヴィオ王も助けてくれた。なによりダラスさんを始めとする王都の皆。私を助けてくれる人たちはたくさんいた。そのことを私は誇りに思っている。


「それに……」


 チラリとルギニアスを見た。ルギニアスは見守ってくれている。そのことにとても安心する。


「それに私には愛する人が出来た」


「愛!?」


 はにかみながら言うとお父様の驚愕の声に思わずビクリと身体が震えた。


「あ、愛って、ま、まだ早いだろう!!」

「……そうかしら。人を愛することに遅いも早いもないと思うけれど」

「うぐっ」


 お父様が変な顔になったわ。ブフッ。


 お母様も驚いた顔をしてはいたけれど、しかしふわりと微笑み私の頬を撫でた。


「そう、私たちが知らない間に大人になったわね」


 少し寂しそうにそう呟いたお母様。十歳のときから離れてしまい、成長を知ることは叶わなかったのだものね……。


 お母様は私から身体を離し、そしてルギニアスを見た。


「貴方はやはり魔王だったのね」


 そう言ってフフッと笑ったお母様。


「知っていたの?」

「知っていた訳ではないわ。でも、貴女の紫の魔石……あの魔石からは聖女の気配を感じた。聖女の魔石、その奥になにやら不思議な力を感じたの。聖女が魔石と共に埋葬されたことは代々聖女と大司教だけが知っていたわ。だから、きっとあの魔石は魔王が封印されたものなのだろう、と……」


 お母様はルギニアスを見ながら微笑む。


「そんな怪しい魔石を持って生まれた私に、よくお守りとして持たせたね」


 そう言って苦笑した。普通ならば魔王が封印されているかも、と思われる魔石をお守りになんてしないだろう。しかし、お母様は楽しそうに笑った。


「フフッ、そうねぇ。でもなぜだか怖いものではない、とそう感じたのよね。この魔石はきっとルーサを守ってくれる、そう確信のようなものを感じたわ」

「そっか」


 そう感じ取ってくれたお母様に感謝したい。もし万が一、生まれたときにあの魔石を捨てられでもしていたら、私はルギニアスに会うことは叶わなかった。そう考えたら怖い。ルギニアスに出逢わない人生なんていらない。私はルギニアスと出逢えて本当に良かった。


「魔王ということはまあどうでもいい! 先程の戦いを見ていても、彼が我々の味方だということは分かったからな。しかし、そんなことは関係ない!! ルーサとの交際は認めんからな!!」


 お父様がよく分からないことを叫んだ。しかも魔王ということはどうでもいいんだ……。お母様と一緒にキョトンとしていると、ルギニアスがお父様の目の前までやって来た。圧倒的にルギニアスのほうが背が高いため、見下ろされ、たじろぐお父様。


「認める、認めないの問題ではない。俺とルーサはもう離れることはない」

「!! な、な、なにを言っているんだぁ!!」


 表情を変えることなく言い切ったルギニアスに、お父様の叫び声が響き渡る……ハ、ハハ……。




「そんなことより、私と別れたあとのことを教えて」

「そんなことよりって……」


 お父様がシクシクと泣き真似をしているのを無視して話を進めた。お母様も苦笑しながら話し出す。


「そうね、詳しく話すなら洗礼式のときからかしら……」


 洗礼式と神託、あのとき私は『魔石精製』の神託を受けた。そのときのお父様やお母様、そして大司教の怪訝な顔。あの顔は忘れることはない。子供心に『魔石精製』はなにか拙いのか、と心配になった。


「ローグ家は代々聖女の家系だった……お父様は婿養子で、私のお母様も聖女で婿養子を迎えていたの。代々聖女の家系であるローグ家は遥か昔に、その身を国が把握するために貴族位が与えられたのよ。でも、貴族位といっても本来の貴族とは違い、私たちは聖女として役目を果たすだけで良いとされていた」


 そうか、だからお父様もお母様も王城へ出向いたり、社交がなかったりと他の貴族の方たちと交流がなかったのね……。


「そして代々聖女を生む家であるはずのローグ家で、次の子供……貴女は聖女ではなかった……」


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