第237話 聖女の血を継ぐ魔石精製師

 私の手のひらから溢れ出るかのように拡がっていく魔力。私の魔力ではない。しかし、この魔力は私の身体にとても馴染んでいた。温かい優しい魔力。


 アシェリアンが私にしか扱えないと言っていた意味が分かった気がする。


 アリシャの魔力、それを解いていき、再構築する。魔石精製師としての能力、そして、おそらく私の血。私のなかに流れるアリシャとアリサの血と記憶がアリシャの魔石を扱うことを許した。


 それが今ハッキリと分かった気がする。それくらいこの魔力は私の味方だった。


 まるでアリシャが後ろにいるような。そんな力を感じる。



「ルギニアス!! 結界を!!」


 その言葉に反応するように、ルギニアスは大きく手を振り上げ、そして叫ぶ。


「ルーサが穴を塞ぐ!! 俺の結界解除と同時に魔物が入り込むかもしれない!! 気を付けろ!!」


 皆はこちらに向くことなく、その言葉だけで理解してくれたのか、「おぉ!!」と雄叫びを上げた。そして魔物と戦闘しつつ大穴に意識を持っていく。


「行くぞ!!」

「うん!!」


 ルギニアスは振り上げていた手を一気に振り下ろした。


 その瞬間、大穴に張っていたルギニアスの結界が一気に消失する。魔物たちは突然消えた結界に一瞬躊躇する。その瞬間を見逃さない!


 私の手のひらに集まる魔力を一気に大穴に向けて放った。


 大きく拡がった魔力は虹色の輝きを放ち、一気に大穴まで到達する。躊躇い留まっていた魔物たちは落ち着きを取り戻し、再びこちらへ突入しようとしていた瞬間、虹色の膜に再び行く手を遮られる。


『グルァァァアアアアア!!!!』


 雄叫びを上げた魔物たちは怒り狂うように、その膜へと攻撃を繰り返すが、その虹色の膜が傷付くことは一切なかった。


 魔力が押し返されないように必死に抑え込む。特殊魔石を精製するときとは正反対だ。引っ張るのではなく、こちらから圧倒的な魔力を流し込むように、両手を掲げ、私の魔力と共に大穴へと流し込んで行く。


 激しい反発を感じる。押されるような感覚。ここで押されては駄目よ! 抑え込むのよ!! このまま……このまま……


 そのとき背後から抱き締められた。


「ル、ルギニアス!!」


 掲げる両手をルギニアスが支えてくれる。そこからルギニアスの魔力も感じた。それはアリシャとは違う温かい魔力。泣きそうになるほどの温かい魔力。


「俺がお前を支える!! だから最後まで踏ん張れ!!」


 背中に感じるルギニアスの体温、そして腕から感じるルギニアスの魔力。


「うん」


「ルーサ!! 頑張って!!」


 リラーナの声がする。


「ルーサ!! やっちまえ!!」

「やれ!!」

「ルーサなら大丈夫だ!!」

「後ろは任せな!」


 ディノ、イーザン、ヴァドにオキまで……フフ、皆ありがとう……大好きよ、皆。


「ルーサ、来てくれてありがとう」

「ルーサ」


 お父様……お母様も……顔色は悪いままだけれど、お父様に支えられ、お母様も私を見守ってくれている。


 あぁ、泣いてしまいそう。


 でも、まだ駄目よ。まだ終わっていない!! 大穴を完全に塞ぐまで!!


「ルギニアス、貴方の魔力も私にちょうだい」


 きっと私の魔力だけでは足らない。大穴を塞ぎきるまで、このアリシャの魔力を維持出来ないと意味がない。


「あぁ」


 そう耳元で呟かれた言葉に、ルギニアスへ振り向くと、そこには優しく、しかし力強く微笑むルギニアスの顔。


 うん、きっと大丈夫。


 私たちは大穴を見上げた。ルギニアスの強大な魔力が私の魔力と合わさり流れていく。それは爆発的な力を生んだ。


 大穴に張り巡らされた虹色の膜が大きく揺らぐ。


『ズズズズズズ……』


 鈍い地鳴りのような音が響き渡った。辺り一面の地面も揺れ動いているような。小さな小石が浮かび上がる。まるで大穴に引き寄せられるように、空気の流れが変わった。


 大穴へと強風が流れていく。転がっていた小石諸共、倒れていた魔物たちの遺体は吸い上げられていき、大穴へと吸い込まれていく。


「なにかに掴まれ!!」


 オルフィウス王が叫んだ。引き寄せられるのは魔物だけではない。私たちの身体も引き寄せられるように、強風で煽られる。


 ディノたちはリラーナたちの元へと駆け寄り、全員が一塊となった。そしてお互いが飛ばされないよう、岩の影へと避難する。司教たちもそれに倣い、岩の影へと隠れたようだ。


 オルフィウス王は全員の周りにいまだ結界を張り続けてくれている。


 私はルギニアスが必死に抱き止めてくれている。ルギニアスの長い黒髪が大きく揺らぎ、大穴に向かって吸い上げられているのが分かる。


 早く……早く閉じて……


 激しい風が吹きすさぶなか、必死に祈った……。


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