第236話 新たな力
「魔界との繋がりを封じてしまっていい?」
ルギニアスにとっては故郷でもある魔界。その魔界との繋がりを断つということはルギニアスの故郷を奪うことにもなる。いくら私の傍がルギニアスの居場所なんだ、と訴えたところで、故郷というものはきっとかけがえのないもの。アリシャの魔石だけでなく、私はそれをも奪ってしまう。
「俺の居場所はもうお前の隣だからな。お前がそう言ったんだろうが」
結界に魔力を送りながら、こちらを見ることもなくルギニアスはフッと笑いながら答えた。
「うん」
ルギニアスの言葉になんだかそわそわとした。故郷よりも私の傍にいることを望んでくれている。そのことに嬉しくなる。
「あいつらだって人間を襲いたくて襲っているんじゃない。穴を塞ぐことはお互いのためだ」
「うん……そうだね」
ルギニアスの言葉に背中を押される。これはお互いのため。一度憎しみを持ってしまうと人間と魔物は共に暮らすことなど叶わないだろう。
人間が魔物の子を殺した。魔物が人間を殺した。それはもう今さら変えることの出来ない事実。お互いの憎しみは繋がりがある故にずっと続く。
完全に切り離せるならそうするのが一番なのよ。だから……あるべき姿へと戻す!!
ディノたちの苦戦している声が響き渡りビクリと身体が強張るが、大きく深呼吸し、心を落ち着ける。
「あいつらもきっと分かっている。周りを気にするな。集中しろ」
「うん」
ルギニアスの言葉が勇気をくれる。皆に戦わせ私はなにをしているのか、そんなことを見知らぬ人間なら思うかもしれない。でもきっとディノたちは私を信じてくれている。私がなにをしようとしているのか分からなくとも、ただ皆が傷付いていくのを黙って見ているだけではない、ときっとそう思ってくれているはず。
それだけ私はもう皆のことを信じられる。だからきっと皆も私を信じてくれているはず。
もう一度深呼吸し、目を瞑る。両手で握り締めた魔石へと集中する。集中、集中よ。周りの音が消えていく。魔石の内部へと意識を向ける。
ふたつの魔石、その中心。魔力が渦巻き、魔素をも感じる。ふたつの魔石を同時に感知し、本来あった組式を解いていくように……内部から少しずつ分解していく。少しずつ……少しずつ……糸を解いていくように。
集中……集中するのよ。一度組まれた魔石の組式を解くということは、かなりの精神力が必要となった。絡まった糸を解くような、そんな細かい作業。額に汗が滲むのが分かる。
必死に集中しふたつの魔石の組式を解いていく。
次第に組式が解けてくると、その先に強大な力を感じた。それはおそらくアリシャの魔力。普通の魔石とは違う。元からそこにあったかのようにその力はあった。組式の奥へと隠されていたのか、それともそこに組み込まれていたのか。アリシャの力は自然とそこにあった。
温かく優しい力。きっとこの力がルギニアスを包んでいたのね……そんな気がする。
魔石のなかに眠る全ての力、魔力、魔素、アリシャの力、それらを構築していた組式。それらを今度はひとつにするのよ!
再構築するようにふたつをひとつに。ふたつの強大な力をひとつの力に!
私の手のなかでふたつの力は溶け合っていく……
様々な色が混ざり合うような……
水のなかに溶け合うように混ざり合っていく……
ふたつの力と一緒に私も溶け合っていくような……身体が溶けていくような、身体のなかに浸透していくような、そんな感覚……温かい……優しい力に守られているような……
あぁ、気持ちいいな……優しい力に包まれているのってこんなに安心して気持ちいいんだ……虹色に輝く膜に包まれている……まるでお母さんに抱かれているみたいな……
このままこの力と一緒になったら幸せだろうか…………
『いいの?』
え?
『このまま戻らなくていいの?』
戻る?
『私には手放すことの出来ない大事なものがたくさんあるでしょう?』
自分自身の声が問い掛けてくる。
私の大事なもの……
「ルーサ!! しっかりしろ!! 魔石に取り込まれるな!!」
ぼんやりとしていた私の意識はその瞬間はっきりとその声を捕えた。
この声は…………ルギニアス!!
それと同時に一気に魔石の力と私自身が分離したことに気付く。魔石の力は温かく優しいまま、私の身体から剥がれ落ちるように手のひらへと集まっていた。
ゆっくりと目を開けると現実が戻って来る。周りで戦うディノたちの戦闘の音。見上げると空には魔物が蠢く大穴。そして私の背中は温かかった。
背後からぎゅうっと抱き締める力強い腕。背中に響く心臓の音。鼻腔を擽る安心する香り。
ドキドキするような安心するような、それでいて幸せな気分にさせてくれる匂い。ルギニアス……
「ルギニアス! ありがとう! もう大丈夫!」
意識がハッキリとしていく。
そして私の手に集まる強大な魔力。それはアリシャの力。しかし、ふたつの魔石を融合させた新たな魔力。
私はその手を掲げた。
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