第219話 祭り上げられた魔物の王
赤子は地上へと投げ捨てられた。地上へと叩き付けられる寸前、激しい泣き声と共に爆発的な魔力が放出された。
その魔力は次元に歪みを作る。歪みは赤子を飲み込み魔界へと流してしまった。
魔界へと流された赤子は魔物に拾われる。魔物は生まれたばかりの赤子の姿を見ると、喰い殺そうとした。
『!?』
人間の匂いを感じた魔物はなぜこんなところに人間の赤子がいるのかを理解出来なかったが、魔力を持つことに気付き、その魔力を喰おうとしたのだ。
しかしその赤子が目を見開いた瞬間、凄まじい魔力の圧力を感じた魔物は固まり赤子を凝視した。そして魔力の強さを認め育てることにしたのだった。
『魔物は……ルギニアスが人間だと気付いていたの……?』
胸が締め付けられ、しばらく見ることが出来なかったルギニアスの顔を、ようやくチラリと伺い見る。ルギニアスは苦しそうな辛そうな、悲しそうな……そんな顔。それを見て私のほうが泣きそうになってしまう。私が泣いてどうするのよ。
ルギニアスは目を逸らしてはいない。だから私もちゃんと見るのよ。
今までのルギニアスが歩んだ人生を。
そうして赤子だったそのラフィージアの双子の兄は魔物に育てられ青年へと成長し、その強さは魔物のなかでも随一となっていった。
幼い頃は人間として魔物から怪訝な目を向けられることもあった。だがしかし、自身のことを人間だと知らないその子はなぜ魔物たちから怪訝な目を向けられているのかが分からなかった。
だからこそ、認めてもらうために必死に強くなろうとした。己の魔力を極め、生き抜くために必死に力を付けた。そして大人になるにつれ、次第に魔物たちにも一目置かれ、自らの力だけで魔物に仲間だと認めさせたのだ。
そんなある日、魔物の子がなぜか人間界に流れてしまい、そして惨殺されたのだった。
『これって……』
魔界との大穴が開いた原因……。魔物が人間たちを憎む原因……。
魔物の子は人間に見付かり、まだ力のなかった魔物の子は抵抗することも敵わず、ひたすらなぶり殺された。
子供の苦しみは黒い闇を生み出し、そこには様々な負の力を引き寄せるように集まり、次第に大きな力となった。
その闇は次元にすら穴を開け、人間界のある場所に巨大な闇を作った。それは魔界と繋がる穴となる……。
『これが……魔界との大穴の原因……人間のせいで繋がってしまったのね……』
以前ルギニアスから聞いていた過去の話。魔物の子が襲われたという話。そのせいで魔界と人間界が繋がってしまっていたなんて……。
魔物たちは怒り狂い、人間たちを滅ぼそうと思った。しかし、人間たちには知恵があり統率力があった。いくら魔物たちのほうが魔力が強かろうと、国同士で協力され共に戦われると、知恵と魔力と兵器により、魔物たちですら簡単に勝つことなど不可能だった。
そこで赤い瞳の青年が王として祭り上げられた。魔物たちは彼が人間であることを分かっていた。だからこそ人間に対抗する知恵があるだろう、そう考えたのだ。
『ルギニアス……』
悲しくなった……。きっとルギニアスは魔物のことは仲間だと思っていたはず。でも魔物は人間であるルギニアスを利用していただけだったの?
『大丈夫だ……魔物たちが俺を完全に仲間だとは思っていないことは分かっていた……まさか自分が人間だったとはな……』
ルギニアスは苦笑する。
『だが……育ててくれたのも……魔物たちなんだよ……』
寂しそうな、悲しそうな……そんな顔のままルギニアスは遠い目をして小さく笑った。
それが苦しくなる。ルギニアスには私がいる、それを改めて伝えたくて、抱き締める手に再び力を籠めた。
青年は魔物たちに請われ、王として人間たちに攻め入った。
人間たちと魔物たちの争いは熾烈を極め、それに嘆いたアシェリアンはアリシャを生み出したのだった。
「私の記憶を貴女に共有したのは、あの子を止めて欲しいから……あの子を助けてあげて……魔物と共にいることが悪いわけじゃない。でも人間と戦わせたくない……ましてやあの子が今戦っているのは双子の弟なのだから……」
アシェリアンは目を伏せ、悲しそうな顔でそう伝えた。アリシャの空っぽだった瞳は色が灯り、そして真っ直ぐに見据える。
その視線はアシェリアンの背後に立つ私たち……いや、ルギニアスに向けられているように見えた。
これはアリシャの記憶。私たちはそれを見ているだけ、そう思うのに、なぜかアリシャはルギニアスを真っ直ぐに見据えているように見える。
ルギニアスもその視線を受け止め、真っ直ぐ見詰めていた。そのことになんだか胸がチクリと痛んだ。二人の間の絆が見えた気がして辛くなった。
これはただの記憶よ。本当のアリシャがそこにいる訳じゃない。それなのに……。ルギニアスに触れる手をギュッと握り締めた。
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