第5章《旅立ち~天空の国ラフィージア》編
第207話 ラフィージアへ!
「飛行船の修繕が終わったぞ!!」
のんびりとした午後を過ごしていた私たちにヴァドが大声で報告しにやって来た。
魔石精製が完了した後、その魔石は魔力付与され、飛行船に組み込まれるべく作業場へと運ばれたらしい。
そして修繕が完了した飛行船に魔石が埋め込まれ、魔力発動を確認した後、ついに出発のときを迎えたのだ。
「長く待たせたな」
ガルヴィオ国王がラオセンさんと共に見送りに来てくださった。
「いえ、私たちの願いを聞いてくださり、本当に感謝しております。ありがとうございました」
「うん。しかし、やはりというかなんというか、結局ラフィージア王からの返答はないから、訪問自体は無理矢理だがな」
そう言いながら苦笑する国王。
「ま、その辺りはうちの息子がいればなんとかなるだろう」
そう、結局今回もヴァドが一緒に来てくれることになったのだ。
ラフィージア王からの返答がない分、ガルヴィオの王子が来た、と言うほうが門前払いはされにくいだろう、との判断だ。
「ヴァドもありがとう」
横に立つヴァドに振り向き感謝を伝える。
「ハハ、俺は頼まれなくても行くがな!」
ドヤ顔で言い切るヴァドに皆が笑った。
「それともう一人、こいつも連れて行くといい」
国王がそう言ったとき、背後から一人の獣人が現れた。
「お、ゼスか。父上、良いのか?」
「あぁ、飛行船の護りには必要だろう」
その獣人は今まで見た獣人とはなにかが違った。なんだろう、と考えていると、あることに気付く。
あ、そうか、他の獣人みたいに耳と尻尾がないんだ。茶色の短髪に金色の鋭い瞳。背が高いのは他の獣人と同じだが、身体は細く見える。しなやかな筋肉といった感じかしら。
見たところ普通の人間と変わらない。本当に獣人なんだろうか……。
そう疑問に思っていると、それに気付いたのかヴァドが笑った。
「ゼスは俺たちとはまた違う獣人でな」
「なんの獣人なの?」
「それは敵が現れたときのお楽しみだな」
ニッといたずらっ子のように笑うヴァド。そんなヴァドに小さく溜め息を吐いたゼスと呼ばれたその獣人は私たちに丁寧に頭を下げた。
「私はゼスと申します。ゼスとお呼びください。鳥類獣人です」
「おぃぃ!! せっかく内緒にしたのに!!」
「鳥類!?」
ヴァドがゼスに詰め寄り叫んだ。ゼスはしれっとしている。その二人のやり取りに笑ってしまった。
「鳥類ということは飛べるんですか!?」
「はい。今は完全人型ですが、半獣姿か獣化すれば飛べます。私は飛行部隊の者で、飛行船の警護として同行致しますので、よろしくお願い致します」
そう話したゼスは再び頭を下げた。礼儀正しいその姿にこちらまで背筋が伸びる。
「こちらこそよろしくお願いします!」
ビシッと背筋を伸ばしお辞儀をする。その姿を見て国王が盛大に笑った。
「アッハッハッ!! そう畏まらなくて大丈夫だ。ゼスは真面目だからなぁ、いつでも誰が相手でもこんな調子だから気にしなくて良い」
大笑いしている国王、さらには私たち全員の視線を浴びながらも、ゼスはしれっとしている。
ハハハ……。
「さて、では行くか!」
無表情のままスンとしているゼスに笑いながらも、ヴァドが飛行船を仰ぎ見る。そして声を高らかに上げた。
私たちもその視線の先を追う。そこには巨大な飛行船。
巨大な風船のような丸みのあるが横に長い。そんな物体に魚のヒレのようなものが付いている。
その下には翼のない飛行艇のような? 車輪のない列車のような? そんなものが風船と合体してあり、窓が無数に並んでいる。
飛行艇や潜水艇よりも圧倒的に大きい。
「す、凄いわね……」
リラーナが口をあんぐりと開けながら呟く。皆も同様に茫然としながらも頷く。
「こんな大きいもの見たことない」
「あぁ……こんなものが空に浮くのか、ってのが不思議だ」
あまりの驚きに立ち尽くしていると、ヴァドが大笑いしながら、私たちの背中を押した。
「ほれ、見惚れてないで乗り込めー」
背後では国王も笑っている。
私たちは茫然としながらもヴァドに続く。飛行船の乗り口にたどり着き見上げると、さらに圧倒される。
巨大な風船が頭上で影を落とす。ヴァドに続き、小さく開かれた扉から乗り込む。
飛行船のなかは外から見るよりは遥かに広かった。操縦室が扉で遮られた船首部分に、そこから背後には広い空間のなかになにやら窓とは別に小さな扉のようなものがたくさんある。
「あの扉みたいなやつって?」
ヴァドに聞くと、説明をしてくれる。
「あぁ、あれは魔獣やらの対処のための攻撃用の穴だな」
「魔獣対策か」
ディノがその扉に近付き眺めた。
「飛行船は高く飛ぶことが出来るが、飛行艇より速度は遅い。万が一襲われると逃げ切ることは難しい。だから攻撃のために装備している」
「へぇ、なるほど」
船尾方向へと歩きながら色々説明を聞く。そして最後尾には下へと降りる階段があった。エルシュから乗せてもらった船のように、階段を降りると居住部屋がある。さらに船よりは簡易的だが調理場もあるようだ。
「船長と船員として数人乗り込む。基本的に料理人はいないから、食事は各自適当にな」
ひとしきり説明され、そして、いよいよ出発するときが来た!
ヴァドが船長へ向かって合図をする。
「出航!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます