第200話 湖の主現る!?

 繋がれたロープが外され、湖岸から少し離れた潜水艇はボコボコと周りから泡を立てながら沈んでいく。


「おぉ、沈んでいく!」


 ディノが興奮しながら言った。水辺に近付き、沈んで行く姿を見守る。ズブズブと沈んでいく潜水艇は天井である、球体の最上部まで沈み、トプンとその身体全体を沈ませた。そのままずんずんと湖底に進んでいく潜水艇はあっという間に姿が見えなくなっていく。そして、水中深くでは暗いのだろうか、パッと灯りが灯るのが分かった。


 水中を食い入るように見詰めていると、またしてもルギニアスが大きくなり腕を掴んだ。


「ルギニアス……だから、落ちないってば」


 なんだかルギニアスが過保護になっているような……。なにも言わないままじーっと見詰めてくるルギニアスにたじろぐ。


「な、なに?」


「……いや、なにも」


 真顔で見詰められ、しかし、腕はがっしりと捕まれたまま。あまりに真っ直ぐに見詰められ、緊張してしまい目が泳ぐ。


「おい! 行くぞ!」


 ディノの叫び声にビクッとなり、ルギニアスの身体の陰からひょこっと顔を覗かせディノに返事をする。


「わ、分かった」


 ディノは怪訝な顔をしながら、踵を返しずんずん歩いて行ってしまった。イーザンは私たちをじーっと見たかと思うと、同じく踵を返し歩き出す。


 な、なんだか二人の目線が痛いのはなぜ……。


 相変わらず腕を掴まれたままの私は、ルギニアスをチラリと見た。


「えっと……私たちも行こう……」


 そう言うとルギニアスは掴んでいた腕をぐいっと引き、思わず私はすっぽりとルギニアスの胸のなかに……。


「!?」


 あわあわと焦っていると、ルギニアスは私の肩を抱くように促すと歩き出す。


 あ、庇ってくれてるのか……。


 ルギニアスと並んで歩き出した私は、湖から離れた位置にいた。湖と私の間にはルギニアスが。


 いまだに落ちると思われているのか……。どれだけ信用ないんだ、と苦笑もするが、なんだかそわそわとした気分になるのだった。



 ディノとイーザンに続き、湖岸を歩いて回ってみるが、とても広い湖は一周歩いて回るとなると、かなりの時間を要しそうだ、ということで、とりあえず滝の辺りを確認しに行くことになった。


「この滝の下辺りに横穴があるんだよな?」

「らしいな」


 それなりに大きな滝は近付くと、物凄い水音に水飛沫。少し肌寒いくらいだ。


「潜って見てみたいくらいだが……まあ、無理だな、ハハ」


 ディノが膝を付き、滝が落ちる水面を見詰める。滝壺にあたる位置の水中では水が激しくうねり、とてもじゃないが泳げそうには見えない。


「まあ、滝壺は潜水艇に任せるしかないな」


 ディノが呟いた言葉にイーザンが続く。


「その横穴がどれほどの規模なのかが分からないが、そこからやって来たサパルフェンが、攻撃を仕掛けたときにまたその横穴から逃げないようにはどうするかだな」

「だよな」


 イーザンは湖から目を離し、周囲を見回した。同じように周りを見回すが、滝の上は見えない。湖の周りには森が広がるだけ。横穴を塞ぐ方法なんて思い付かない。


 そうぼんやりと考えていると、遠目に潜水艇が上がってくるのが見えた。


「お、戻って来たぞ」


 私たちは慌てて潜水艇の元まで駆け付けた。


 ザバァッと勢いよく水音を上げ、水面へと浮かんで来た潜水艇は波打つ水面に漂い揺れていた。そしてしばらくすると再び鈍い音を上げながら扉が開いていく。


「おかえり!」


 開いた扉からひょこっと顔を覗かせたリラーナが、眩しそうに顔に手をやり現れた。


「たっだいまー! 楽しかったー!!」


 リラーナが興奮しながら出て来たかと思えば、その後ろからオキがげっそりとして出て来た。そしてそれに苦笑しながら続くヴァド。

 な、なにがあったのやら……。


 湖岸に上がって来たリラーナは興奮冷めやらぬ様子で湖底がどんなだったかを教えてくれる。しかし、興奮し過ぎて話があちこち飛び、よく分からない。ヴァドが苦笑しながら説明してくれた。


「とりあえず横穴は、以前確認はしていたんだが、思っていた以上にデカい穴だったな。だからどうやって塞ぐかなんだが……」


 そうヴァドが話している最中、急に通信用魔導具から声が聞こえた。


『ヴァドさん!! 現れた!! そっちへ向かったぞ!!』


「!!」


「マジか!! どうすんだ!?」


 全員が驚愕の顔となった。


「この機会を逃すと次に現れるのがいつになるか分からん! やるぞ! 横穴は仕方ない! なるべくそこから逃げられないように攻撃を仕掛けてくれ!」

「お、おう!」


 ヴァドの無茶ぶりにディノは若干顔を引き攣らせながらも頷いた。イーザンも眉間に皺を寄せながらも仕方ないとばかりに溜め息を吐きつつ頷いた。


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