第198話 周辺調査

「とりあえず海側のほうも確認しておくか」


 ディノが言った言葉にイーザンが頷く。


「そうだな、出来ればその横穴に見張りと、湖の見張りを立てたいところだが……連絡手段がないな……」

「あぁ、それなら通信用魔導具を持って来たから大丈夫だ」


 ヴァドが鞄のなかから小さな魔導具を取り出した。掌に乗るそれは小さな四角い箱のようなものだった。


「これに魔力を送ると、相手側に声が伝わる」


 ヴァドの手には同じ魔導具が二つ。対となったその魔導具で声を届けるわけね。オキの持っていた国王と通信していた魔導具と似たようなものかしら。そう思いチラリと視線をオキへと向けると、それに気付いたオキがヒラヒラと手を振った。


「俺が持っているのは支給されたやつだが、もっと高価なものだな」

「高価……」

「ん? オキも持ってるのか? まあ、俺が持っているこれは、近距離でしか使えないやつだからな」

「近距離……」

「あぁ、精々遠いところといってもここから王城くらいまでしか無理かな」

「へぇ、通信用にも色々あるのね」


 ダラスさんと一緒に行っていた魔獣の森で、騎士の人たちと通信する魔導具は腕輪型だった。あれも確かあの森の広さでくらいしか使えない。オキの持つ通信用魔導具は海を渡った他国へ来ていても通信出来る。


「魔導具に埋め込んだ魔石の力や魔力の強さによって通信出来る距離は変わってくるわね」


 リラーナがヴァドの持つ通信用魔導具を眺めながら言った。


「オキの持つ、海を渡ってまで通信出来る魔導具となると、相当力のある魔導具だと思うわ」


 そう言ってリラーナもチラリとオキを見た。オキは自分に注目が集まったことに焦ったのか。慌てて両手をひらひらと振る。


「いや、あれは支給品だからね。俺のじゃないし。相手が……まあ、あれだしな……」


 そう言い苦笑する。その言葉に私たちも苦笑するしかなかった。国王ならば確かにとんでもない魔導具も持っていそうだ。そんな相手に命を狙われているってのもなんだかね……。


「まあ、とりあえず通信は可能だってことだな。じゃあ、海側の横穴を見に行ってみるか」


 ディノが仕切り直したところで、皆が頷き、海へと向かう。

 湖から森を抜けしばらく歩くと、岸壁に出て来る。その崖沿いに歩いて行くと、海側へと降りることが出来る細い道が現れた。


 横穴からは少し離れているらしいが、海に降りられるのはこの道しかないのだそう。細く急な坂を下りて行くと、砂浜が広がっていた。その砂浜から崖を見上げると、かなりの高さがあり、湖の森の木々は全く見えない。湖の深さがどれほどのものかが分からないが、この崖の高さほどの深さがあるのだろうか、と、ふと考える。もしそうだとするとかなりの深さだ。


 ヴァドは地図で示した通りの場所を目指して歩く。私たちもそれに続いた。しばらく砂浜を歩いて行くと、崖っぷちに大きく波が渦巻く場所が見えた。そこには崖に大きな横穴が開いてあり、その入り口に当たる波が、激しくうねりを上げているのだ。


「あそこだ」


 ヴァドが指を差す。


 近くまでは砂浜が続いていたが途切れているせいで、その横穴の元までは行く術がなかった。


「砂浜近くは比較的浅いんだが、少し進むと一気に深くなるんだ。だから、あの横穴の辺りはかなりの深さがあると思う。サパルフェンは巨大な魔魚だから相当目立つとは思うんだが、あまりに深く潜られてしまうと海上からは見えないかもしれない」

「うーん、じゃあここで見張っていても意味ないか?」

「どうだろうな……一人くらいは見張っているほうが、湖に入り込んだと連絡をもらえるとやはり助かるしな」

「そもそも海で見付けたらこっちで倒せば良いんじゃないのか?」


 ディノが首を傾げながら聞いた。確かに湖に来たかどうか確認するより、海にいるときに見付けたら、その場で倒すほうが楽なんじゃ……。


「まあ、それもありなんだが、サパルフェンは警戒心が強いし、素早いから、海で狙っても逃げられる可能性が高い。しかも万が一失敗すると、あの湖には二度と現れないかもしれないしな」

「なるほど……なら、やはり湖に入り込んだところを横穴に逃げられないようにしつつ、倒すほうが無難な訳か……」


 ふむ、と考え込むディノとイーザン。ルギニアスもなにやら考え込んでいるような。


「とりあえず一人ここで見張る奴がいるほうが有難いのは確かだし、かと言ってディノやイーザンが見張ると戦力が落ちるしな。だから、潜水艇を運んで来る、うちの作業員を見張りにするか」


 あっけらかんと言ったヴァドに皆が唖然とした。


「え、いいの? そんなこと頼んで」

「あぁ、潜水艇を運んで来る奴らは、いつもなにかしら手伝わせているしな」


 そう言ってアハハと笑うヴァドに全員苦笑した。


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