第187話 大好きだよ
ルギニアスは膝にうずくまるように項垂れた。
あぁ、ルギニアスはずっとそれを後悔していたの? お母さんや私を助けられなかったことを自分で責めていたの? ルギニアスのせいじゃないのに。
ルギニアスとアリシャには特別な絆があるような気がしていた。それがなんだか悔しくてモヤモヤとした気分でもあった。でも……やっぱりアリシャとの絆は私なんかが入り込む余地なんかない。
お互い命を懸けた関係。でもお互いに相手を憎く思っている訳でもない。それなのに戦いをやめることが出来ずに、己のやるべきことをやり通した。
それはそのときの二人にしか分からない。敵でもありながら、同志でもあったのかもしれない。そんな存在であるアリシャには敵わない……でも、私は……
「ルギニアス……」
私は項垂れるルギニアスの頭をぎゅっと抱き締めた。
「ありがとう。時を超えてまでずっとお母さんの傍にいてくれて……、そして、ずっと私の傍にいてくれて……」
ルギニアスは守れなかったと思っていても、それでも私はルギニアスが傍にいてくれて嬉しかった。前世のときもお母さんが死んでからは紫の魔石が心のよりどころだった。ルギニアスの存在を知らなくても、なにかに見守られているような感覚があった。そして現在も……十分私の心を守ってくれている……。ルギニアスがいないなんて考えられない……。これからもずっと傍にいて欲しい……。
あぁ……私はルギニアスが好きだ……。
アリシャに勝てるとは思わない。前世のお母さんにもきっと勝てない。それでも良い。私はルギニアスの悲しむ顔は見たくない。自分を責めて欲しくはない。
「ありがとう……ありがとう、ルギニアス……大好きだよ……これからも傍にいて……」
今私が『好き』だと言っても、きっとルギニアスは家族のような感情としか捉えないだろう。今はそれでもいい。魔王だろうとなんだろうと、家族としても大好きだから……。でもいつか……いつかきっと振り向かせるからね、フフ。
「なにを笑っている?」
どうやらクスッと笑ったことに気付いたルギニアスが頭を動かした。顔を上げ、チラリとこちらに顔を向けると、辛そうだった顔はなにやら微妙な顔になっていて思わずプッと噴き出してしまった。
ムッとした顔になったルギニアスがなんだか可愛く思え、上半身を起こそうとしたルギニアスの首に思い切り抱き付いた。勢いのまま抱き付くと、ルギニアスはバランスを崩し、背凭れに倒れ込んだ。
「お、おい!」
ぎゅうっと首元にしがみ付いたまま、ルギニアスの長い髪を撫でた。艶々でサラサラの綺麗な長い黒髪。
「守れなかったなんて思わないで。ルギニアスは十分守ってくれてる。ルギニアスのことが好きだよ。大好きだよ。だからこれからもずっと傍にいてね?」
「わ、分かったから離れろ!!」
ルギニアスの上に乗る勢いでしがみ付いていた私の肩を掴み、ぐいぃと引き剥がそうと必死のルギニアスに、負けまいとしがみ付く。
「お、お前な!!」
無理矢理引き剥がそうと思えば出来るくせにやらないルギニアスは、やはり優しい人だと思う。
魔王……ルギニアスは魔物たちに乞われて王になった、と言っていた。アリシャはルギニアスの過去を知っていると言っていた。アリシャも本当はルギニアスが優しい人だと分かっていたのよね、きっと。ルギニアスの過去も気になるけれど、今はもういい。こうやってルギニアスに話してもらえて、傍にいてもらえるだけで十分幸せだから。
「そうだ、結局、ラフィージアってなんのことか分かる?」
アリシャのことを思ったとき、あの鳥の魔傀儡の言葉を思い出した。
ガバッとルギニアスから身体を離し、顔を見る。すると、思っていた以上に顔があまりに近くて、驚き固まってしまった。ルギニアスの綺麗な真紅の瞳。そこに自分の姿が映る。鼻先が触れ合いそうな距離に一気に顔が火照るのが分かった。
すると、ガシッと顔面を掴まれ、グイッと押され私の顔と身体はルギニアスから離れた。
「ちょ、ちょっと!」
「うるさい」
もう! と、怒りながらも、赤い顔がバレていないだろうかと恥ずかしくなり、チラリとルギニアスの顔を見たが、ルギニアスはフンと横を向き、どんな表情なのかは分からなかった。なんだ、意識したのは私だけか……。少しだけがっかりした気分になりながらも、もう一度聞く。
「ねぇ、アリシャがラフィージアについてなにか話したこととかあるの?」
「…………いや、特にはないな」
ルギニアスはそっぽを向いたまま答えた。
「ないのね……一体なんなのかしら……」
そして少しの間、考え込んでいると、部屋の呼び鈴がなった。現れたのはどうやら宿の人で、ヴァドが私とルギニアスに夕食を手配してくれていたらしい。部屋に料理を運んでくれ、私とルギニアスは初めて、二人きりで食事をしたのだった。
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☆次回、3月25日更新予定です。
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