第174話 高級宿

 広々としたエントランスで茫然と立ち尽くしていると、ヴァドが戻って来る。そしてヴァドが先導し部屋へと向かう。この宿自体は五階建て。その最上階の部屋ということだった……。なにやら怪しげな乗り物に乗り込むと、一気に五階まで運ばれ全員驚愕の顔。リラーナの目がこれでもかっていうくらい見開いていました。


「な、なんだこりゃ!」


 部屋へと入るととてつもない広さの部屋!


「な、なにこの部屋! 広っ!」


 ディノに続き、リラーナが叫ぶ。私とイーザンは言葉が出なかった。

 扉を開け、部屋へと入るとすぐさま現れた部屋はとても広く、椅子やテーブルがあるのはもちろんだが、応接椅子とテーブルもあり、ダラスさんと暮らしていたあの家のダイニングよりもさらに広い。さらには巨大な窓があり外が見える。


 窓からは街の灯りが見えてとても綺麗だ。階が高いため街がよく見える。遠目の王城ですら、先程歩いていたときよりもよく見える。暗闇のなかであまりはっきりとは見えないが、所々に灯りが灯り、そこに城があるのだということは分かった。


「部屋が三部屋あって、それぞれベッドが二つずつ、風呂やトイレもあるから」


 さらっと説明をするヴァドに私とリラーナとディノはぐりんと勢い良く振り向いた。


「いや、ちょっとどんだけ凄い部屋なのよ!!」


 リラーナがやはり叫ぶ。


「こんな凄い部屋、私たちのお金じゃ……」


 ボソッと呟くとディノが遠い目をした。


「あ、ハハ……だな。ヴァド、俺たちにはちょっと場違いだ……」


 乾いた笑いでディノが言うと、ヴァドはキョトンとした顔をした。


「ん? あぁ、気にするな。ここは俺の顔パスだ」

「「「は!?」」」


「顔パスって……」

「あ、えーっと、まあ、気にするなって! アハハ」


 あからさまに「しまった」といった顔で顔を逸らしたヴァド。


「俺、こっちの部屋なー」

「は!? なに勝手に決めてんだよ!」


 オキがそんな私たちのやり取りを無視し、さっさと部屋に入ってしまい、ディノが怒っている。ヴァドはホッとしたような顔のまま、そそくさとオキと同じ部屋に入ってしまった。


「な、なんなのよね、一体」

「ほんと……ヴァドが謎過ぎる……」


 イーザンは溜め息を吐きながら、仕方ない、とばかりにもうひとつの部屋へと入っていき、ディノもぶつぶつ文句を言いながらもそれに続く。

 私とリラーナは顔を見合わせ苦笑しつつ、残りの部屋へと入ったのだった。


 ベッドの置かれた部屋もとても広く、机と椅子、クローゼットにベッドが二台。しかし、そのベッドが普通の宿で見かけるベッドよりも明らかに大きい。布団などもふかふかしてそうで、高級感漂う……。


「す、凄いわね……逆に落ち着かない……」

「ハハハ……だね」


 あまりの豪華さになんだか逆に居心地が悪い、とリラーナと二人で苦笑する。


「これだけ広ければ大きいままで寝られそうだな」

「は!?」


 ボソッとルギニアスが呟いた言葉にぐりんと振り向き、リラーナがきょとんとしていた。


「ルーサ、どうかした?」


 リラーナには聞こえていなかったらしく、焦りつつ「なんでもない!」と返すと、ルギニアスをむんずと掴み、小声で訴える。


「ちょっと! 小さいままだからね! 大きくならないでよ!?」

「なんで」

「な、なんでって! あ、当たり前でしょ!?」


「ルーサ? 行くよ?」


 荷物を置いたリラーナが先程の部屋へと戻ろうと、扉に手を掛け振り向いた。小声でやいやい言っていた私はぎくりとし、思わずルギニアスを握り締める手に力が籠り「ぐえっ」という声を久しぶりに聞いたのだった。


 ルギニアスとビシビシ叩き合いながら、先程の部屋へと戻ると、すでに全員戻って来ていて、ヴァドが明日の予定をどうするか聞いて来る。


「明日大聖堂へ行ってみるか? それとも先に魔傀儡師を探しに行ってみるか? どっちにする?」


 私たちは顔を見合わせ、考え込む。オキに視線を向けると、「うーん」と顎に手をやり考えていた。そして少し考えた後、ヴァドに向かって声を上げる。


「大聖堂に行って、ヴァド、先にちょっと調べてくれないか?」

「ん? なにを?」


 ヴァドはオキの顔を見る。


「大聖堂にアシェルーダからなにか連絡が来ていないか」

「アシェルーダから?」

「あぁ。なんでか知らんが、アシェルーダで大聖堂に行くと俺たち捕まっちゃうんだよねー」

「は?」


 オキの発言に私たちも「は!?」となる。そ、そんなことを言ってしまうと、ヴァドが私たちを不審に思うじゃない!


「……捕まるって、お前たち罪人かなにかか?」


 案の定、ヴァドは私たちを怪訝な目で見た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る