第173話 飛行艇と魔導車と列車と
「あれは……ガルヴィオの王城?」
遠目に見える城らしきものに目をやりながらヴァドに聞く。
「ん? あぁ、そうだ。ここからだとちょっと遠いがな」
ヴァドが額に手をやりながら目を細める。確かに距離がありすぎる上に暗いので、ぼんやりとしか見えず、どんな城なのか全く分からない。なにやら巨大な建物がありそうだ、ということしか分からない。
きょろっと周りを見回すと、列車らしきものが建物のなかに入っていくのが見えた。
「あ、あれって列車? 建物のなかに入っちゃったけど」
「ん? あぁ、そうだな。あれは駅に着いたんだ」
「駅?」
ヴァドが指差すほうには高さはないが横に長い建物があった。そのなかに列車が入っていったのだ。
「あぁ、列車は要所要所に駅……船でいう港みたいなものか? 停車する場所があってそこで乗り降りするんだ。あそこに見えている駅は終着駅だな。この王都から発着して近隣の街などには繋がっている。最終的にはザビーグまで繋げる計画なんだがなぁ、いつになるやら」
そう言いながら笑うヴァド。
「ガルヴィオにある街を全て列車で繋げるの!? 凄いわね」
「でも飛行艇もあるし、魔導車もあるのに、さらに列車まで繋げるのって意味あるの?」
ちょっとした疑問を口にすると、ヴァドは笑いながら私の頭をワシワシ撫でた。いや、なんで?
「ちょ、ちょっと! ぐちゃぐちゃになる!」
「アハハ、すまん。ルーサはやはり視点が違うな! 確かに飛行艇も魔導車も、移動手段は色々ある。でも魔導車は距離を長く走るには運転手の魔力の問題やらで、長距離移動には不向きだ。飛行艇は長距離、短距離ともに移動はしやすいが、大きな荷物を運ぶには限界がある。操縦者の魔力負担も大きくなるしな」
ヴァドは楽しそうに笑った後、色々と説明をしてくれる。それを私とリラーナは食い入るように、ふんふん、と聞く。
「その点、列車は敷かれたレールの上を一定の速度で走る。大きな荷物も貨物車として乗客が乗る車両とは別に出来る。人と荷物を同時に運べるし、途中で荷下ろしや積み込みの手間もなく最終地点まで行ける上に、各駅で運転手が交代出来るから魔力負担も少ない」
「「へぇぇ」」
私とリラーナはヴァドの説明に「なるほど」と大きく頷く。それぞれの乗り物に合った使い方をしている訳ね。面白いわ。
「だからなぁ、ぜひともザビーグまで繋げたいんだが……レールを敷く作業がな、なかなか大変でなぁ」
「ふーん……て、ヴァドってそんな仕事までしているの?」
「えっ」
明らかにギクッとしたヴァドをじぃぃっと見詰める。
「船に乗ったり、飛行艇やら魔導車にも詳しかったり、さらには列車のことにまで? ヴァドって何者?」
オキと共に謎な二人だ、と思っていた続きがここに来てまたぶり返した。だってねぇ、あまりにヴァドが色々詳し過ぎて不思議なんだもの。
「その話、さっき終わったじゃないか! い、今は良いだろ、それより宿に行こう!」
オキがこっそり笑っているのに気付き、チラッと目線をやると、オキまでもがギクッとした顔となり目を逸らした。
あたふたとヴァドは歩き出し、仕方ないな、とばかりに私たちは苦笑しつつ後に続く。
眩しいくらいの明るさのなか、高い建物が続く。石造りで五階ほどの高さがある建物。アシェルーダの王都でもこれほど高い建物は見たことがない。獣人たちの身体の大きさと比例して、元々天井が高い位置にあるのだが、それだけでもかなり高い建物に見えるのに、そこへきて五階建てや六階建てやらの建物となると、相当大きい。見上げてばかりできょろきょろと見回していると、肩に乗るルギニアスに「真っ直ぐ前を見て歩け」と小突かれたのでした。
ヴァドが連れて来てくれた宿も、とても高い建物で、なかへと入るとエントランスからなにやら執事のような服を着た獣人が現れた。にこやかにヴァドへと声を掛けている。
宿のなかを見回してみると、アシェルーダでお父様たちと泊まった宿のような高級感溢れる雰囲気で思わずたじろぐ。
「ね、ねえ、なんだか凄く高級そうな宿なんだけど! 大丈夫なのかしら」
リラーナが私の腕を掴み小声で言った。同様に思ったのか、ディノも背後からこそっと声を掛けてくる。
「な、なんか、俺たち場違いじゃね?」
「う、うん」
明らかに今まで泊まった宿とは雰囲気が違い、全員でそわそわとする。私だってお父様たちと行動していたときはこんな雰囲気の宿に泊まったりはしていたけれど、何年も前のことだし、今やもう野宿ですら当たり前に出来るようになった身からすると、この高級感は落ち着かない。
「オキはなんでそんな落ち着いてるわけ!?」
リラーナがオキに詰め寄り言った。イーザンも落ち着いてそうだけど、オキが落ち着ているのが納得いかないんだろうなぁ、とちょっと笑いそうになる。
「ん? 俺はいつでもどこでも落ち着いてるだろ」
相変わらずの飄々とした様子で答える。確かによく考えたら、オキってどこでも物怖じすることはないわよね。どこでも同じ態度のままというか……。リラーナが悔しそうだ。
「隠密の仕事で焦ったりなんかしてたら仕事にならんからなぁ」
そう言いながらワハハと笑うオキ。
「その割には私たちと話してるときは焦ったり怒ったりしてるわよね」
「…………そりゃ、まあね……それなりに俺だって……気を抜くわけですよ……」
なにやらプイッと横を向いてしまったが、オキなりに仲間意識でいてくれているのだと分かって、少し嬉しくなりつつ、オキの耳が赤くなっていたことには気付かなかったことにしてあげよう、と一人頷いたのでした。
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☆次回、3月4日更新予定です。
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