第163話 告白
「……好きにしろ」
そう言うとルギニアスはふわっと風を巻き上げ大きくなった。それに気付いたディノたちは振り向く。
「お? ルギニアス? どうしたんだ?」
突然前触れもなく大きくなったルギニアスに、皆、その場に立ち止まった。ルギニアスは私に目をやった。皆が「?」といった顔になる。
言おうと覚悟はしたけれど、いきなりルギニアスが大きくなったことで、予想外に振り向かれ「うぐっ」と喉を詰まらせてしまった。
い、言わないと……。このまま黙っていていつかバレることになるよりも、ちゃんと自分の口から皆には伝えたい。そう思ったんだから、頑張るのよ、私!
大きく深呼吸をして口を開く。
「あ、あの……皆に話したいことが……」
私の様子に皆がなにかを感じ取ったのか、真っ直ぐに見詰めている。
「あのね……皆に、私は嘘をついていた……ごめんなさい……」
「嘘?」
リラーナが呟き、ディノとイーザンも訝し気に私を見詰める。
怖い。皆が私をどう思うかが怖い。嘘をついていた私を責めるだろうか。信じられなくなるだろうか。嫌われるだろうか……。
怖い……でも……
私は今までのことを全て話した。嘘偽りない本当のことを。
私には前世の記憶があるということ。その前世のときから持っていた魔石をこちらの世界に持って生まれたこと。その魔石のなかにルギニアスが封印されていたということ。
そして……ルギニアスがこの世界で魔王と呼ばれる存在で、前世の母親が初代聖女であること、今世の母親が今の聖女であることを……。
「「「…………」」」
リラーナもディノもイーザンも真剣に話を聞いていてくれた。今はこの話を本当かどうか考えているのか、皆無言……。この沈黙が怖い……。
沈黙に耐えきれず、思わず俯くと、ディノが言葉にした。
「うーん、なんか凄い話過ぎて理解がなかなか追い付かないが……ルーサの前世がどうとかはまあ……あんまり関係ないよな。今のルーサが全てだろ」
ディノの言葉にガバッと顔を上げる。ディノはニッと笑う。その顔は私に不信感をいただいている訳でも、嫌悪を抱いている訳でもない、いつもの姿だった。
「ディノ……」
「まあ、そうだな。前世は特になにも思わない。それよりも今のルーサの母親が聖女だということ、それに……ルギニアスが魔王ということ、だな……」
イーザンはチラリとルギニアスを見た。ルギニアスはなにを考えているのか、腕を組んだまま無表情だ。
「ルギニアスが魔王なぁ……正直信じられないな」
ディノが苦笑しながら言う。確かにね、信じられないよね……。私も信じるまで時間がかかったし。
「異様な魔力を感じていた。だからただの魔傀儡ではないだろうとは思っていたがな……まさか魔王とは……」
イーザンにはやはりバレていたのね。それでもずっとなにも言わずに見守ってくれていたのよね……。
「魔王って人間の敵なんじゃないのか? ルーサの魔石に入っていたにしても、なんで俺たちと一緒に行動してんの?」
素朴な疑問だ、とばかりにディノがルギニアスに向かって聞く。ルギニアスはチラリとディノを見るが、相変わらず無表情のまま呟いた。
「さあな……」
「さあなって……」
ディノは再び苦笑する。
「ルギニアスが魔王であったにしろ、それははっきりいってどうでもいい。私たち人間に害をなす人物なのかどうなのか、私たちの味方なのか、それだけだ」
イーザンが探るようにルギニアスを真っ直ぐに見据える。その強い視線に応えるように、ルギニアスもイーザンと目を合わせた。
「味方……というつもりはない」
「ル、ルギニアス!!」
そんなことを言ったら皆の信頼が! 慌ててルギニアスの腕を掴む。ディノとイーザンも睨むようにルギニアスを見た。
「ただ……俺にも守りたいものがある……それだけだ」
「守りたいもの……」
それはお母さんとのこと? お母さんとの約束? だから私の傍にいるの? お母さんのことがなければ、今すぐにでも私の傍から離れちゃうの?
なんだか泣きたい気分になってしまった。ルギニアスがお母さんと特別な絆があることは分かっていた……分かっていたのに……どうして胸が痛むんだろう……。
「うーん、なんかよく分からんが、まあその守りたいものってのはルーサの傍にいることに繋がるわけだな?」
「……そうだな」
ボソッと呟いたルギニアスの言葉にディノはフッと表情を緩めた。
「なら良いんじゃないか? 俺からしたらルギニアスが魔王とか言われても、魔傀儡のときのちびっこい印象しかないしな! ルギニアスが人間を攻撃している姿なんか思い浮かばないし」
アハハ、と笑いながら言うディノ。イーザンは呆れたように小さく溜め息を吐く。
「私はディノほど能天気ではないが……」
「おい!」
「しかしまあ私も今まで共に行動をしてきて、ルギニアスが人間を襲うとも思わない。だから今まで通りで良いと思う」
「ディノ……イーザン……ありがとう……ごめん……ごめんね……今まで黙ってて」
「まあ確かに魔王なんて言えないよな、ハハ」
ディノが笑いながら私の頭にポンと手を置いた。涙が零れてしまった。許された気分になってしまう。
「ルーサ……」
そして、今までずっと黙って私たちのやり取りを聞いていたリラーナが声を上げた。
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