第146話 尾行の理由
「ガルヴィオに知り合いがいるんだ」
「知り合い?」
「あぁ、あんたらももう会ってる」
ニッと笑ったオキは「とりあえず飯食おうぜ」と手をひらひらさせながら歩き出した。全員で顔を見合わせたが、お昼がまだだったことを思い出し、仕方ないなと苦笑しつつもオキの後に続いた。
まさか自分を見張っていた人物と一緒に食事をすることになるとはね、と苦笑しつつ食事処へと向かった。
珍しくルギニアスが大きくなったまま一緒に歩く。その姿が見慣れなく、横に並んで歩くルギニアスに話しかけた。
「ね、ねえ、小さくならないの?」
そう聞くとルギニアスは呆れたような目を向け、小さく溜め息を吐いた。
「お前な……」
「な、なに?」
「…………しばらくはこの姿でいる」
「え?」
フンと鼻を鳴らし、そのままルギニアスは私の頭をビシッと叩いた。
「痛っ」
素知らぬ顔をして先を歩くルギニアスにムッとしながらも、久しぶりに大きい姿のルギニアスが傍にいることになんだか緊張してしまうのだった。
食事処へと入り、オキという新しい仲間がいることになんとなく違和感を覚えながら、男四人と女二人という大所帯になんだか他の人の注目を浴びていそうな気がして、居心地が悪かった。
そんなことはお構いなしにオキは嬉しそうに食事をしている。
「いやぁ、まともにゆっくり食事出来るのなんて何年振りだよ」
「そういえばオキって私を見張っている間って食事はどうしていた訳?」
嬉しそうに食事を頬張りながら、私の疑問に答えた。
「ん? あー、ほぼ保存食だな」
「え、それは辛いね……」
見張られていた立場からすると同情の余地はないのだが、それでもやはり何年も毎日保存食って……。
「うわぁ……私なら耐えられないわ……」
リラーナが信じられないといった顔で言った。
「だろ!? 他の魔石精製師に尾行していた奴は交代したりもあったらしいんだがな。俺は個人で雇われていたからなぁ。交代も出来ないし、ずっと一人で保存食生活……そら嫌にもなるってもんだろ!?」
自分でそんな依頼を受けておいて何言ってんだ、といった感じかしら。ディノの顔が呆れたような見下すような、そんな表情だ。イーザンも同様に同情の余地なしといった雰囲気。
「そんなことより、他の魔石精製師を尾行って……」
「そんなことって……酷い……」
オキは泣き真似をするように呟いたが、全員シラーッとした顔になった。
「リースとメルのこともやっぱり尾行していたのね?」
「あー、うん。なんか魔石精製師の女の子って指示だったからな」
「やっぱりそうだったんだ」
魔石精製師の試験のとき、通信用魔導具の気配を三つ感じていた。それはやはりリースとメルもずっと尾行されていた訳だ。
「今も?」
「ん? あー、多分あとの二人はもう尾行はしていないと思う」
「なんで?」
「あんた、もうバレてるぜ? サラルーサ・ローグだろ?」
「!?」
全員が驚いた顔になり、そしてルギニアスは射殺しそうな目付きで睨んだ。
「魔石精製師の試験のときにバレたみたいだぞ? それからはあんた以外の尾行は終わってそうだった」
「そ、そっか……」
いくら名前や見た目を変えようともいつかはバレるよね……。
「でもそもそもなんで私は見張られていたんだろ……両親となにか関係しているのかなんなのか……サラルーサだと分かってからもなんで見張るだけなんだろう……」
皆、疑問符ばかりだ。
「ルーサの両親になにかをさせるために、ルーサを人質にしている……?」
イーザンが頭を整理するように呟いた。
「人質!? 私を!?」
「いや、まあ、憶測だが……」
私を人質として、お父様とお母様が無理矢理連れて行かれたのだとしたら許せない……。
「どうなんだろうな、可能性がない訳ではないだろうが、人質なら死んでも構わないとか言わないような気もするけどね」
ふむ、とオキが腕組みをしながらイーザンの意見に反論した。
「ま、俺には分からんけど」
考えることを放棄したのか、オキは両手をひらひらとさせた。
うーん、と全員で考え込んでしまうとオキは苦笑しながら話を続けた。
「まあいいじゃないか、俺が味方になったんだから、人質にしろそうでないにしろ、ルーサになにか仕掛けることはないんだからさ。それよりもガルヴィオだろ?」
辛気臭いのは嫌いなんだ、と裏稼業とは思えない発言をしながらオキは笑った。食事に満足したようでご機嫌だ。なんか本当に気の抜ける人だな。
「そう、だね……今はどうやってガルヴィオに行くか……」
見張られていた理由がなんであれ、今はオキも仲間だ。なにかされることはまずないだろう。それならばとにかく今はなんとかして神殿へ行くこと。そのためにはまずガルヴィオに行くことよ。
「で、お前の知り合いってのは? 俺たちももう会ってるって言ったよな?」
ディノが見定めるかのようにオキに聞く。やはりまだどこか信用しきれていないのか、そんな顔。
「あぁ。今からガルヴィオの船にまで会いに行くかー」
オキはニッと笑い、私たちを促した。
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