第142話 ガルヴィオの特性

 もふもふ……触りたい……と思ってしまい、つい視線が下に……。


「あれは今から修理が始まるからな。危ないから近付くな」


 銀髪の獣人がそう言うと、何人かの獣人が飛行艇の周りに集まって来た。船着き場に置かれた飛行艇は獣人たちによって持ち上げられ、大きな台のようなものを何ヶ所かに設置されると、飛行艇の腹の部分が見えるようになった。

 そして船に常備されてあるのか、修理用の工具らしきものを持った獣人たちがさらに現れ、修理箇所を確認しつつ作業を開始していった。


「おぉ、スゲーな」

「うはぁ、近くで見たいぃ」


 リラーナが近付きたくてうずうずしている。銀髪の獣人はその姿を見て笑った。


「ハハ、そんなに気になるのか」

「えぇ!」


 ぐりんと獣人に振り向いたリラーナが力一杯頷いた。それを見た全員一斉に笑う。


「ハッハッハッ!! そんなに気になるなら見ていても良いが、あまり近付くなよ?」

「それはやっぱり内部構造を見られたら駄目だから?」


 リラーナはおずおずと聞いた。船にしろ飛行艇にしろ、ガルヴィオ独自の技術があるはずだ。それを他国の人間には見せられない、というのは当然だと思う。


「ん? いや、別にそれは気にしない。ただ単に本当に危ないからだ」


 そう言いながらハハハと笑う獣人。


「そうなの? え、じゃあ、邪魔しない程度に離れたところからなら内部構造とか見ても良いの!?」


 リラーナが前のめりに聞いた。


「あぁ、別にいいぞ。見られたところでアシェルーダでは造れないだろうしな」


 そう言って意味深にニッと笑う。え、なにそれ、内部構造を見たにしてもアシェルーダでは造れないって……。


「え、なんで!? ガルヴィオにしかない素材を使っているとか!?」

「さあなぁ」


 フフフと意味深な笑顔を浮かべたまま、その獣人はひらひらと手を振り、そのまま飛行艇のほうへと向かってしまった。


「えー、なんなのよ! その中途半端な情報!! 余計気になるー!!」

「まあまあ」


 興奮するリラーナを苦笑しながら全員で宥める。遠目に先程の獣人がなにやらこちらに視線を寄越し、他の獣人に教えるような仕草で笑っていた。私たちが修理を見学していることを伝えたのかしら。


 そんな姿を眺めていたら、その獣人は他の獣人に手を振り、「任せた」といった仕草をしたと思うと……


「「「「!?」」」」


 飛行艇が置かれた船着き場から一気に大きく跳躍したかと思うと、とんでもない高さまで一瞬に到達し、そのままガルヴィオの船へと乗り込んだ。


「はっ!?」

「えっ!?」

「な、なんつー跳躍だよ……」

「あの巨体で、あの跳躍……獣人の身体能力が半端ないらしい、とは聞いたことがあるが、まさかあんなに軽々と跳躍するとはな」


 全員が茫然とした。


「獣人って物づくりが得意なだけじゃなかったのね……」

「あ、あぁ。基本的に知られているのは物づくりが得意だということだが、獣人はやはり獣と同様で身体能力も高いらしいぞ。その分魔法は得意じゃないらしいがな」


 ディノが茫然としながら言った言葉にイーザンが続く。


「しかし魔法が得意じゃない分、工夫を凝らすようになって変わった魔法や魔力で物を造っているらしいが……」

「それで物づくりが得意って言われるように?」

「あぁ」

「「へぇぇ」」


 リラーナと二人で感心し、改めて獣人たちに視線を送る。先程の銀髪の獣人が物凄い跳躍で船に戻ったあとも、他の獣人はなにもなかったかのように、淡々と飛行艇の修理を続けていた。



 結局、半日修理を眺めていたが、やはりあまり近付くことが出来ないため、リラーナが満足するほどには内部構造を見ることは出来なかった。


「あー、もっと内部を見たかったわ」

「アハハ、まあ仕方ないよね」

「ガルヴィオに行けたなら見放題だろ」


 ハッとした顔になったリラーナと顔を見合わせ笑い合った。


「うん、そうよね。早くガルヴィオに行く方法を考えないとね!」

「なんか目的が変わってるぞー」


 そう言って笑ったディノ。


「良いじゃない、リラーナにも夢があるんだしね」

「ルーサァ!」


 なにも私のためだけのガルヴィオ行きじゃない。皆、色々目的があったほうが私も気負わなくて済むし、私だってガルヴィオのそういった技術は気になる。

 リラーナは甘えるように私に抱き付いてきた。アハハと二人で笑い合っていると、呆れたようにディノとイーザンも笑っていた。


 そのとき鞄からひょこっと出て来たルギニアスが私の耳元で呟いた。


「なぜかは知らんが近付いて来てるぞ」

「ルギニアス……」


 言われて周りの気配を感知すると、いつものあの魔石の気配を感じる。しかもいつもより近い。徐々にこちらに近付いて来ている!? な、なんで!?


 慌ててリラーナの身体を離し、周りをきょろきょろと見回す。


「ルーサ? どうした?」


 その行動に全員が疑問の顔となっていた。ディノもイーザンも気付いていない。ということはやはり裏の世界の者ってこと? 普通の人間の気配ならば、こちらを意識して近付いて来る相手にディノとイーザンが気付かないとは思えない。


 気配が明らかにいつもより近い! ガバッと振り向き、気配のある方向を睨む。そして徐々にその気配が間近へ迫ったとき、一人の男が姿を現した……。


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