第131話 港町エルシュ到着!
「「毒針!?」」
リラーナと二人で声を上げた。ディノはイーザンの手元にある毒針をじっと見詰めている。そしてきょろっと周りを見回す。
私も釣られて周りを見回すが、誰かがいる気配もない。いや、ちょっと待って……この気配……人の気配は全くしないのだが、魔石の気配を感じる。例のいつも私を見張っている魔石の気配だ。
その見張っているであろう人物が私たちを助けてくれた? なんのために? いや、まあその人物が助けてくれたのかは分からないけれど……。
ルギニアスもなにやらその気配を感じたのか、ある一方向を睨んでいる。
「ルギニアス」
小さく声を掛けるとルギニアスは私の肩に乗り、誰にも聞こえないよう耳元で話した。
「いつものやつだな。おそらくそいつがその毒針を飛ばした」
「な、なんで?」
あの見張りが助けてくれる理由が分からない。
「そんなもん、俺が知るか。しかし、そいつが未だに尾行を続けていることははっきりしたな」
エルシュに向かうこの行程にすら尾行を続けているということ? 大聖堂からの追手ではないということかしら。そっちとは別?
「あ、あの……大丈夫でしたか!? お怪我は!? 助かりました、ありがとうございます」
考え込んでいると背後から声を掛けられた。振り向くと御者さんとララさん、ナナカちゃんが心配そうにこちらを見ていた。
「あぁ、大丈夫だ。なんとか片付いた」
ディノは心配する三人に笑顔で答える。それを見た三人はホッとしたように笑顔となった。
「とりあえずこれは保留だな」
イーザンはそう言うと、手に持つ毒針を持っていた布に包み鞄へと入れた。
再び走り出した馬車のなかで毒針について話し合おうしたが、やはりガタガタと揺れが酷くそれどころではなかった……。
途中休憩を挟みつつ、山を越えて行く。次第に山を降りて来たからか、気温も暖かくなり穏やかになってくる。完全に山を降りると、平地が広がりガタガタと揺れるのはマシになった。しかし疲れのせいだろうか、体力が限界を迎えそうなとき、なにやら空気が変わった。なにか今まで嗅いだことのない匂いがする。
「もうそろそろだな、海の匂いがする」
ディノが外に目をやり、嬉しそうに言った。
「海の匂い? なんだか空気が変わった気がしたのはそれのこと?」
「あぁ、海からの風が常に吹いているエルシュは、海の匂いがする街だ」
海の匂い、これが、とリラーナと二人で顔を見合わせ、胸いっぱいに息を吸い込んだ。
港町エルシュに到着だ。
夕方に差し掛かっているとはいえ、まだ陽も高く明るい。石造りの建物に石畳なのは他の街とも同じだが、陽射しが強いからなのか、皆、かなりの軽装だ。半袖の人も多くいる。見たことがない背の高い木や植物が多く見られ、今まで行ったことのある街とはまた違った雰囲気だった。
「お疲れ様でした、エルシュ到着です」
御者さんがそう告げると、皆、馬車を降り、大きく伸びをした。
「着いたー!!」
ディノとリラーナは大声を張り上げ、イーザンは首や肩をほぐし、私も大きく伸びをした。ララさんとナナカちゃんも身体をほぐしている。
御者さんにお礼を言い、逆に護衛をしてもらって申し訳なかったと感謝された。そしてララさんは私たちに歩み寄るとにこやかに挨拶をしてくれた。
「ご一緒出来て楽しかったです。ぜひ店に食べに来てくださいね。今回助けていただいたお礼をさせてください」
そう言ってにこりと笑い、店の住所が書かれた紙を渡してくれた。ナナカちゃんはルギニアスにバイバイと手を振ってくれていたが、ルギニアスは案の定「フン」といった態度。むんずとルギニアスを掴み、ぬいぐるみ遊びのように、無理矢理ルギニアスの手を振る仕草をさせたのでした。
そしてララさんはナナカちゃんと共に手を振り去って行った。
「さて、俺らも行くか」
ディノは荷物を抱え、宿を探すぞ、と促した。
エルシュは今まで来た街のなかでは一番広い。王都に比べたら小さいのかもしれないが、それでも今まで見たなかでは一番広い街。
少し坂になった街なのか、しばらく歩いて行くと、遠目にキラキラと景色が輝いて見えた。
「眩しい……なにが光っているのかしら」
太陽の光を反射し輝いているようだ。キラキラと揺らめいている。
「海だ」
「「海!?」」
リラーナと声が重なった。
「あのキラキラしているのが海!?」
「ハハハ、そうだよ。海に太陽の光が反射して煌めいてんだよ。もう少ししたら波の音も聴こえるんじゃないか?」
「波の音?」
リラーナと二人で顔を見合わせる。
「海が風によって岸に打ち寄せる。その音が聞こえる」
イーザンが説明してくれた。
そして歩いているうちに、キラキラとした煌めきは間近に見え、そして『ザザァァ』という、今まで聞いたことがない、しかしなんだか懐かしい音が聴こえた。
サラルーサとしては聴いたことがない、しかしサクラのなかにある遠い記憶。サクラがお母さんと一緒に見た海、聴いた波の音。
なんだか懐かしく、切なくなり、涙が出そうだった。
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