第110話 大事な家族
あんなに意気込んでいたのに。一体なにがあったの!?
「メルと一緒に砂漠へ行ったんだけれど、かなり大物が現れてね。メルが怪我をしてしまった。その場はなんとか倒すことが出来たんだけど、採取も出来ず、怪我をしてしまい、リースと同様、恐怖を感じるようになってしまったみたいでね……」
アランは思い出しているのか辛そうな顔。
「その後何度か採取には出向いたんだけど、どうしても身体が強張ってしまうみたいで、採取が出来なかった。次第に僕の足を引っ張っていると思うようになってしまったみたいでね。何度もそんなことはないから頑張ろうって言ったんだけど……やはり自分には無理だ、って……田舎に帰って魔導具屋で店番として雇ってもらうって苦しそうに笑ってた……」
「そ、そんな……」
「それからは自分にもう付き合う必要はないからフェスラーデの森に行ってくれって。メルは辞退を申し出に行くと言って、ランバナスで別れてしまった……」
「「…………」」
なにも言えなかった。メルの恐怖心も理解出来る。一度恐怖を覚えるとそれを克服するのにはかなりの精神力が必要となるだろう。それを乗り越えてこそだろう、と言う人もいるだろうが、そんな簡単なものではないと思う。
アランもそれが分かったからこそ、きっと強くは言えなかったんだろうし……。
三人ともなにも言えず沈黙が流れた。
「メルはもう田舎に帰ってしまったのよね?」
最後に一度、顔を見て別れを告げたかった。
「おそらく……」
「メルの住む街って?」
「確か砂漠を越えた先の『ニニキス』って言ってたかな」
「ニニキス……」
砂漠を越えた先にある小さな街だと聞いたことがある。
「いつか会いに行きたいな……」
「そうだね……」
会いに行ったら迷惑だろうか……嫌がられるだろうか……。なにも言わずに去ってしまったメルの気持ちを考えると、今は会わないほうがいいのかもしれない。でも……でもいつかまた会えたらいいな……。
そうしてお互いこれから頑張って行こう、と誓い合い、アラン、ライと笑顔で別れた。ライにはリースによろしくと伝え、エルシュに戻るというアランを見送り、私はダラスさんとリラーナの元へと帰った。
「ただいま! 合格しました!」
店の扉を開けた瞬間、そう叫びなかへと入る。店のなかにいたリラーナはガタッと立ち上がり、両手を挙げて喜んでくれた。
「おめでとう!! ルーサ!!」
その声にダラスさんも作業場から顔を出す。二人に向けて首から下げた証明タグを見せる。
「よくやった」
そう言ってダラスさんは頭を撫でてくれた。きっともう頭を撫でてくれるのはこれが最後かもしれない。そう思うと嬉しい反面、寂しくもなった。
「アハハ、ルーサ、なに涙ぐんでるのよ!」
ウルッとしてしまい、それがリラーナにはバレたようで突っ込まれる。
「だ、だって! 嬉しい反面、なんだか少し寂しくなっちゃったんだもの! 私、師匠に頭を撫でられるの、好きでした」
そう、なんだかお父様のような、家族の温かさ。師匠であるけれど、そんな温かさが心地好かった。そう思うともう撫でてもらえないかもと思うと寂しくなってしまったのだ。
最後だと思うとこの際だ! 勢いよくダラスさんに抱き付いた。
「!?」
ぎゅうぅっとダラスさんにしがみ付く。ダラスさんの身体が強張ったのが分かったが、そんなことお構いなしに思い切り、力一杯抱き付いた。
「今まで本当にありがとうございました!!」
今まで……十歳のときから七年間、本当に長い間、家族として弟子として受け入れてくれ、たくさんのことを教えてもらったわ。
魔石のことだけじゃない。家族としての温かさも教えてもらった。ダラスさんもリラーナもずっと傍にいてくれた。両親と離れて独りになった私を受け入れてくれ、いつも見守ってくれていた。
師匠と弟子という関係よりももっと大事な存在。ダラスさんもリラーナも私にとったら家族と同じ。いつまでもそれは変わらない。一生私の大事な家族……。
「アハハ、父さん、変な顔」
リラーナの笑い声。ダラスさんは苦笑でもしているのか、フッと笑ったかのように身体の力を抜いた。そして再び頭にポンッと手を置くとグッと自身の胸に引き寄せた。
「お前は弟子であり、俺の娘だ。ここはお前の家だ。いつでも帰って来い」
「!! はい!! ありがとうございます!!」
涙が溢れた。最後にもう一度ぎゅうっと強く抱き締め、そして身体を離す。涙に濡れた私の顔を見たダラスさんはフッと笑った。
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