第111話 両親の事情
「ルーサの合格に合わせて、お前たちは旅立つんだったな」
ダラスさんはリラーナと私を真っ直ぐ見詰めて言った。
「「はい」」
もう私たちは決めている。私の資格取得出来た時点で、ディノとイーザンにも連絡を入れ、数日後には旅立つつもりにしている。
「その前にお前たちに話がある。夕食後に話そう。リラーナ、今日はもう店を閉めろ」
「は、はい」
夕食にしてはまだ少し時間が早いが、もう夕方になろうとしている。ダラスさんの指示で早めに店を閉める。リラーナと共に夕食の準備をする。二人してなんの話なんだろうかとそわそわする。
ルギニアスは鞄のなかから出て来たかと思うと、なにかを考え込んでいるのか、ずっと神妙な顔付きのままだった。
こうやって三人で食事をするのは後何回だろうか、としんみりしながらも、今後の予定を話しつつ食事を終えた。片付けを終えたときにダラスさんは再び席に着くように促す。ルギニアスは私の肩の上に乗った。
リラーナと二人、緊張しながら椅子に座る。ダラスさんは真っ直ぐに私の目を見詰めた。
「ルーサ、お前ももう一人前だ。だから俺の判断でお前の両親のことを話しておこうと思う」
「!!」
私の両親……その言葉にぎくりと身体が強張った。リラーナはなんだか分からないといった顔。
「これは、これから一緒に旅立つリラーナも知っておいたほうが良いかと思う。だから同席させたが良いか?」
ダラスさんは両親の話をするにあたってリラーナにも話していいかを確認してくれる。そうようね、これからずっと共に行動する仲間であるリラーナ。ディノとイーザンにも話したいと思っていた。ここでリラーナにも聞いていてもらうほうがいい。
ダラスさんの目を見詰め頷いた。
それを見たダラスさんは頷き返し、話し始めた。
「リラーナ」
「はい」
「ルーサは本当の名を『サラルーサ・ローグ』という」
ダラスさんはリラーナに私の本名を伝えた。
「サラルーサ・ローグ……ローグって……ローグってあの『ローグ伯爵家』の!?」
リラーナは驚き、目を見開き私を見た。
ずっと隠していたことを申し訳なく思いつつ、私は頷いた。
「ルーサってお貴族様だったんだ……いや、そんなことじゃなく……だからあのときあれほど辛そうだったのね……」
『あのとき』とはおそらくローグ伯爵とその夫人が行方不明になった、という話題のことだろう。あのときリラーナは私の様子に訳が分からないといった感じだったけれど、とても心配をしてくれていた。
「うん……ごめんね、本当のことが言えなくて……」
「ううん、なにか事情があったんでしょ?」
リラーナが私の肩を抱いた。その様子を見ながらダラスさんは話を続ける。
「ルーサの両親がローグ伯爵だということはルーサの修行を頼まれたときに知った。以前からなんとなく貴族の者なのだろうとは思っていたから、そこはさほど驚くことはなかったんだがな」
ダラスさんは苦笑する。
「あの日、ルーサが神託を受けた日に、ローグ伯爵は俺に会いに来た。お前を弟子にしてくれないか、と。しかも住み込みでだ」
再び私を真っ直ぐ見詰めたダラスさんは当時を思い出しながら話す。
「そのとき俺は元々弟子を取ることはしていないからと断った。何度も何度も懇願されたが、断り続けた。しかし諦めたのかと思えば、また翌日もやって来る。しかもより悲愴感を募らせて。ローグ伯爵の必死さに負けて、なぜそんなに修行させようとする、しかもなぜ住み込みなんだ、と聞いた。正直、貴族の人間がこんなところであくせく働く必要はないだろうと思っていたしな」
そう、なぜ貴族である私をそこまでして修行させようとしていたのかが分からない。お父様とお母様の考えが私には全く分からなかった。膝の上でぐっと拳を握り締める。一体どういった理由があったのか……。身体が強張っているのが分かったのか、リラーナは握り締めた私の手を上から力強く握り締めてくれた。
チラリとリラーナに目をやると、ニッと笑う姿になんだかホッと力が抜けた。ありがとう、リラーナ。再びダラスさんを真っ直ぐ見詰める。
「『このまま私たちと共にいると、今後ルーサは否が応でも自分の望む人生は歩めなくなる。それをなんとか防ぎたい。だから今は私たちから離れ、独りでも生きていけるようになってもらいたい』。彼はそう言っていた」
「自分の望む人生は歩めなくなる……?」
「あぁ。だからそのためにルーサを住み込みで修行させて欲しい。自分たちはそれをなんとかするために、しばらくの間行かなければならないところがある、と」
「行かなければならないところ? そこへ行くために爵位を返上……?」
私のために爵位を返上したということ? 私のために屋敷や使用人を手放し……領民を置いて行ったの……?
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