第103話 約束
ディノとイーザンの手合わせが終わらないうちに、遠目に乗り合い馬車がこちらに向かって来るのが見えた。
「おぉい! あんたら無事だったのか!」
近付いて来た乗合馬車の御者台から、こちらに気付いた御者が手を大きく振っていた。行きに乗せてくれた顔見知りの御者さんだ。
私たちの無事を喜んでくれ、さらに見知らぬ男が増えていたため驚いた顔をしたが、「お疲れさん」と労ってくれ、すぐさま馬車に乗せてくれた。道中、興味津々の御者さんからずっと話を聞かれ、ドラゴンのことは伏せたが、森の最奥地まで行った話をすると酷く驚いていた。
「あんたらその話を王都でしたら一気に有名人じゃないか?」
冗談半分でそんなことを言われた私たちは苦笑した。そんな話が広まって大騒ぎになられても困る。気楽に考える人が出て来て、無謀にも挑戦しようとされて死んでしまったりなんかしたら……。
「おっちゃん、その話、誰にも言うなよー? 誰でも行ける森じゃないのは変わらないんだからな! 無茶をする奴が出て来たら困るだろ?」
ディノも同じように思ったのか、苦笑しながらも真面目に御者さんへ伝えた。
「ハハ、そうだな。すまん」
さすがにフェスラーデの森がどれほど危険かは皆分かっている。御者さんは自身が森の近くを通る乗合馬車の御者だからか、それをより身に染みているのかもしれない。すんなり理解を示してくれた。
ディノとイーザンもかなり強い。それでもフェスラーデの森には魔獣や魔蟲が溢れ返っている。そんななか最奥地まで向かうのは無謀過ぎる。今後も必要がなければ、出来る限り近付きたくないというのが本音だ。そう思い苦笑するのだった。
そしてその後も御者さんを交えながら話しつつ、無事に王都へ帰還した。
「魔石の提出は明日の午後に行くんだったか?」
「うん、明日の午後に提出。明後日に合格発表だね」
ディノとイーザンは荷を担ぎながら聞いた。明日の昼まではゆっくり出来る。それまでに今後のことを考えないとね。
「そうだ! ディノ、イーザン」
試験後のことはぼんやり考えていた。今回国家魔石精製師の資格を取得出来たら、今後自分はどうしていこうと思っているのか……。両親を探したいのはもちろんなのだが、ディノと旅をしたいと話していた。リラーナと共にも旅をし、店を出したいと話していた。それは今も変わっていない。
ディノとイーザンは私を真っ直ぐ見詰めていた。
「昔、ディノと約束したよね。一緒に旅をしようって」
「あぁ」
ディノはニッと笑った。
「あの約束をようやく果たせるかもしれない。二人のおかげで私はきっと国家魔石精製師の資格を取得出来る。そう信じてる。だから私も旅をしたい。ディノ……それにイーザンも、一緒に行ってくれない?」
「おう! もちろんだ! ようやくだな!」
ディノは幼い頃の約束通り、ずっと待ってくれていたのね。嬉しい。でもイーザンは? 急に誘ってしまった……。でもイーザンにもいて欲しい……打算だけど……ディノにとっても私にとってもイーザンが必要だ。イーザンにはなんの得もない。安定した収入がなくなるのだから。今後旅をしながらどうやってお金を手にするか、考えなければならない。
それでもやっぱりイーザンには一緒に来てもらいたい……。イーザンの目を真っ直ぐに見詰める。
「旅……そうだな……それも悪くない」
フッと笑ったイーザン。
「え、私が言っておきながらなんだけど、本当に良いの? 収入がなくなっちゃうけど……」
あまりにすんなりと受け入れられると、本当に大丈夫か心配になってしまう。
「自分で言ったくせに、なにを今さら」
苦笑しながらイーザンは小さく溜め息を吐いた。
「収入などどうにでもなる。世界を見るのも悪くない。それに……気になることもあるしな」
そう言いながらチラリとルギニアスを見た。その視線に気付いているのかいないのか、ルギニアスは横を向いたままだった。
ル、ルギニアスのことかぁ……ア、ハハハ……だ、大丈夫かな……。
「あ、ありがとう! 二人とも! それから……今一緒に住んでいる魔導具師のリラーナも一緒に行きたいって言ってるの。良いかしら」
「おー、あの魔導具屋の姉さんか! もちろんだ! 仲間が増えると楽しいしな!」
「私は誰と同行しようと特に問題はない」
三人で顔を見合わせ、ニッと笑い合った。
「ルーサの資格が取得出来ていることを前提に俺たちは準備をしておくよ。仲介屋に連絡してくれ。モルドのおっさんに話を通しておく」
「分かった!」
そして私たちはお互い拳を突き合わせ、再会を誓った。
旅立つときにはディノ、イーザン、リラーナに本当のことを伝えたい。私が『サラルーサ・ローグ』であること。両親が行方不明でその行方を捜したいということ。
『仲間』に隠し事はしたくない。いつか……ルギニアスのことも話せたら良いな……。
別れる二人の背中を見送り、そしてチラリとルギニアスを見た。ルギニアスはなにを思っているのだろうか、同様に二人の背中を見詰めていた。
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