第89話 魔石一個目!
しばらく様子を見ていると、風上にイーザンがいた。
ディノは少し離れた場所から物音を立てる。その音に反応したフォルーが唸り声を上げてそちらに向いた。
その瞬間イーザンがフォルーの傍に何かを投げ込んだ。一瞬見えたそれには見覚えがあった。ゲイナーさんとシスバさんがウルーを攻撃するときに使っていた煙玉だ!
煙玉は地面に落ちた瞬間、白い煙を噴き出し、辺り一面白い霧に覆われた。
ウルーと同様に鼻を麻痺させるのだろう。フォルーは煙玉の臭いに反応したのか、頭を大きく振ったと思うと、空高く飛び上がった。巨大な身体とは思えないほど軽やかに跳躍したフォルーが煙から飛び出した瞬間、雷撃が走った。
雷は空を舞い、フォルーに突き刺さる。そう思った瞬間、身体を翻しそれを避けた。空中で軽やかに身を捩ったフォルーは煙のない場所へと着地する。
それを待ってましたとばかりに、ディノが飛び込んだ。横一文字に振り抜いた剣はフォルーの首を掠め、切り取られた毛がはらりと落ちる。
『ウガァァァァァアアアッ!!』
標的を見付けたフォルーは大きく口を開け、鋭い牙をディノに向けた。物凄い速度でディノに迫る。ディノを噛み殺そうと覆いかぶさったかと思うと、ディノは剣を突き上げた。しかしそれをすぐさま躱す。
フォルーは躱したと同時に、己の尻尾を鞭のようにしならせたかと思うと、ディノの脇腹を激しく打ち付けた。
「ぐはっ!」
「ディノ!!」
ディノは思い切り吹き飛ばされるが、なんとか受け身を取り、すぐさま再びフォルーに切りかかるために地面を蹴った。しかしその瞬間フォルーの背後から業火が襲う。
背後から現れた炎に包まれたフォルーは咆哮を上げた。大地がビリビリと震える。
フォルーの咆哮と共に自身を包み込んでいた炎が一瞬で消し飛んだ。
「おいおい、あの炎で無傷かよ」
ディノは呆れたように呟いた。
「いや、少しは効いているようだ」
イーザンがディノの言葉に反応するように言った。
フォルーは炎を退けたが、プスプスと身体からは煙が上がり、荒い息をしている。無傷とはいかなかったのか、疲労なのか、呼吸が乱れだした。
ディノは休む間を与えないよう、一気に攻め入る。駆け寄ったディノにフォルーは大きく口を開いたかと思うと炎を吐き出した。
それを跳躍し躱したディノはフォルーの背に手を突き、側転で背後に回り込む。脚を斬り付け、血が噴き出す。しかし、鞭のような尻尾が再びディノを薙ぎ払う。
「二度も食らうか!」
ディノは尻尾を剣で受け止めると、力比べのように耐えた。そして大きく薙ぎ払い、その勢いのままくるりと身体を翻し、再び脚を斬り付ける。
大きく悲鳴のような叫び声を上げたフォルーに、イーザンが脚の傷に合わせて風の刃を走らせた。鋭い刃は元々あった傷をさらに抉る。
『ウガァァアアアアッ!!!!』
動きの鈍くなったフォルーに向かい、ディノは胴体に剣を突き立てた。そこへさらにイーザンは炎を纏わせた魔導剣を振りかぶり、首に突き立て、そこから一気に魔導剣から炎を放出させた。
フォルー内部に放出された炎は全身を駆け巡り、内部を燃やす。
「「ルーサ!!」」
フォルーが動きを止めた瞬間、私は木陰から飛び出し構えた。両腕を突き出し手を構える。そして集中し結晶化の魔力を手に込める。それに反応したフォルーの血は空中を舞いゆらゆらと川が流れるように集まってくる。
掌に集まってくるフォルーの血は次第に小さく集まっていき、私の掌の上でコロンと塊となって落ち着いた。
「ふぅ、やれやれ、やっぱりフォルーはそれなりに強敵だな」
ディノが剣を大きく振り払い鞘に収め、こちらに戻ってくる。イーザンも同様に魔導剣を収めそれに続く。
「ありがとう、二人とも大丈夫?」
魔石を鞄に片付けながら二人の姿を見る。特に怪我などはなさそうだ。
「特に問題はない」
イーザンは涼しい顔。
「ディノは吹っ飛ばされてたけど大丈夫?」
「ハハ、あれくらいなんともない」
ディノの服は少し汚れてはいたものの、問題なさそうで安心した。
「とりあえず魔石一個目確保だな!」
「うん!」
ニッと笑うディノと、フッと笑うイーザン。そして私も満面の笑み。ルギニアスはやれやれといった溜め息を人の頭の上で吐いていた。
「さーて、他の魔獣が寄って来る前にアシェリアンの泉へ向かうぞ」
さすがに集団で襲って来られたらキツイものね。ディノの言葉と共に、早々に再び移動を開始した。
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