第78話 試験へ

「ルーサ、準備は完璧!? 受験票は持った!?」


 爽やかな朝を迎え、天気も晴天! 前日もルギニアスのおかげでぐっすり眠れ、体調もばっちり!


 国家魔石精製師の試験は一年に一度。書類を書いて城の魔導省へと提出する。その後受験票が家に届き、それに日時と受験番号が書かれている。


 ちなみに魔導省は魔導師団・魔石付与部や魔導研究所も管轄らしい。国家魔石精製師の試験の管理はしているが、魔石精製師自体は城にはいないらしく、城の魔導師たちは街の魔石精製師へと魔石を発注する。いつもほぼ同じ魔石精製師に発注するらしいのでお得意様って感じかしらね。ダラスさんもそうよね。


 今日までの間にしっかり復習もした。精製魔石も何度も精製した。特殊魔石の採取にも何度も行った。そして日程が決まると、ディノとイーザンに依頼もし、試験のための護衛もお願いしておいた。全て準備は整えた!

 朝食もしっかりと食べ、筆記用具と受験票を鞄に準備し、準備万端でリラーナに向かって頷く。


「大丈夫! ……多分、アハハ」


 当然のことながらやはり緊張もするわけで……若干顔が引き攣った気がする。

 リラーナはそんな私の肩をガシッと掴み、真っ直ぐに見詰めた。


「ルーサなら大丈夫!! 絶対大丈夫だから!!」


「うん、ありがとう」


「頑張って!!」


 リラーナはそう言うと私をぎゅっと抱き締めた。そして身体を離し、後ろに立つダラスさんを見た。


「いつも通りに頑張って来い」

「はい!! 行ってきます!!」


 ダラスさんに頭を撫でられ、そして二人に見送られながら出発した。




 店は運河に架かる橋のすぐ傍にあるため、歩いて橋を渡る。対岸には城の門がある。研究所にお邪魔したときはウルバさんが出迎えてくれていた。大聖堂へ神託に向かったときはお父様とお母様と一緒にいた。

 でも今日は一人。一人で城の門をくぐる。


『いつも通りのお前なら大丈夫だろ』


 どこからともなく声がする。


「ルーちゃん……うん、ありがと!」


 うん、私は一人じゃない。ルギニアスも傍にいてくれる。姿はなくとも声が聞こえるだけでこんなに安心する。服のなかに存在を感じる紫の魔石。生まれたときからの私の大事なお守り。それを服の上からぐっと握り締めた。



 門にはいつものように門兵が立つ。


「国家魔石精製師の試験を受けに来ました」


 門兵にそう話しかけると、受験票を見せるように言われ、鞄から取り出す。門兵はそれをじっくり見詰めると、私に差し出し返してくれた。


「どうぞ、お通りください」


 にこりと笑った門兵はゆっくりと門を開け促した。お辞儀をし、そこを通り抜けるとき門兵が声を掛けて来た。


「頑張って」


 !! 驚いて振り向くと、門兵は片手をぐっと握り締め、胸の前に掲げてくれていた。


「はい! ありがとうございます!」


 手を振り門兵と別れ、城内を歩く。受験票が届いたときに一緒にと届いた日時の案内、それに試験会場も書かれていた。


「えっと……魔導師団演習場近くの一室……」


 キョロキョロとしながら歩いて行くと、遠目になにやら見覚えのある人の姿が。



「おや? 君はえーっと……」


 青く綺麗な長髪を揺らし、カツカツとヒールの音を鳴らしながらこちらに近付いて来た迫力ある美人。


「お久しぶりです! ミスティアさん!」

「あー、以前ウルバくんが連れて来た魔石精製師見習いの子だったな」

「はい、ルーサです!」

「今日はどうした……あ、もしや国家魔石精製師の試験か?」


 ミスティアさんは指をパチンと鳴らして、閃いた! といった顔をした。


「はい! 今日試験を受けに来ました」

「おー、ようやく見習いを卒業か! おめでとう!」

「ありがとうございます、まだ試験はこれからですけどね」


 アハハ、と笑うと同じように笑ったミスティアさんにバシッと背中を叩かれる。


「よし、私もちょうど魔導師団に用事があったことだし、会場まで案内してやろう!」


 そう言ってミスティアさんは私と共に会場まで向かってくれた。そういえば魔石付与部って魔導師団の一部だったわね。ミスティアさん自身も魔導師団だったと聞いた。


「ミスティアさんも魔導師団へは今もよく出入りしているんですか?」


「ん? あぁ、まあそれなりにはね。付与を施した魔石を魔導師団へ持っていくときに付いて行ったり、向こうからの要望を聞くために向かったりとかもあるしな」


「へー……、あの……ミスティアさんが魔導師団を辞めた理由って聞いても良いですか?」


 あのとき気になったけれど聞けなかった話。魔導師団で最強だったミスティアさんが辞めるに至った理由。

 あのときは話したくなさそうだったため聞けなかった。ミスティアさんは少し驚いた顔をし、いつもの強気な表情から少し複雑そうな顔になった。


「あ、す、すみません!! 話したくないことをお聞きしてしまって! 今のなかったことにしてください!」


「あー、いや、良いよ。別に話したくないとかじゃない。城の人間なら若い奴以外は大体知った話だ。ただ聞いた相手が気を遣ってしまうから」


 そう言って苦笑したミスティアさんは「面白い話じゃないが……」とゆっくり話してくれた。


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