第51話 お買い物
依頼は前払い。護衛を頼む人の強さや赴く場所によっての危険度で金額が変わるらしい。魔石精製師の魔石採取は護衛というより、主に戦闘がメインの依頼のため依頼金はただの護衛よりは料金が高い。それだけ危険度も高ければ、売ったときの魔石の値が高いという訳なのだが。
ダラスさんがいつも護衛を頼む人は、もう何年も決まって同じ人達らしく、お互い気心の知れた勝手知ったる相棒のような人達らしい。
仲介屋で依頼をし、今日中にその人達へと連絡が入る。そしてこちらが指定した場所と時間に待ち合わせをして出発するのだそうだ。
「じゃあ、よろしく頼む」
「あぁ。毎度!」
依頼金を支払い終えると、ダラスさんはモルドさんに軽く手を振り、仲介屋を出た。
「次は携帯食を買いに行くぞ」
「携帯食?」
「あぁ。森では危険だからな、長時間同じ場所に居座ったりしない。今回は一日で済ますつもりだが、基本的に昼食は携帯食で済ませる。騎士団やらの遠征ではおそらくしっかり煮炊きもするのだろうがな。俺たちは長居すればするだけ危険だ。だから出来る限り時間は短縮出来るところは短縮させる」
「なるほど」
歩きながら説明を受け、ダラスさんは保存食専門店に入って行った。
「いらっしゃいませ。あぁ、ダラスさん。今日は携帯食をお探しですか?」
「あぁ。それと弟子のルーサの紹介だ」
「え、あぁ、そちらがお弟子さんですか! いやぁ、ようやくお会い出来ましたね!」
な、なんだかあちこちで有名になってる!? 行くところ行くところで「ダラスさんの弟子」ということに注目を浴びている気がする……どれだけダラスさんが弟子取るのが珍しいんだか……。
「私はサイラスと申します。魔石採取のときはぜひともうちの携帯食を」
にこりと笑ったサイラスさんは紳士的でスーツをビシッと着こなしていた。モルドさんとの差が……。
「ありがとうございます。これからよろしくお願いします」
ぺこりとお辞儀をすると、サイラスさんは店のなかを説明してくれた。
店内には様々な保存食が並んでいた。携帯食だけでなく、普段の料理にも使える保存食もたくさんあるらしい。肉にしても干したものは保存が効くだけでなく、味が凝縮されて旨味が増すのだそうだ。料理店でもよく使われているらしい。
携帯食が置いてある場所は店の入り口付近に並んであり、王都以外の人々がすぐに目に付くように配置されてあるのだとか。
ダラスさんは慣れた手付きで何種類かの携帯食を手にしていく。その間にこれはなんの携帯食、これは、と色々説明をしてくれるサイラスさん。
とてもたくさんの種類があり面白い。デザートまでもがあったりする。
ひとしきり必要なものを手にしたダラスさんはサイラスさんに声を掛け支払いに行った。
紙袋に入れられた携帯食を受け取り、保存食専門店を後にする。扉まで見送りに来てくれたサイラスさんは手を振ってくれていた。
他にも採取に行くにあたって必要そうなものを全て揃えていき、最後に装備を揃えるために防具屋へと向かった。
防具屋でもやはりというか予想通りに「ダラスさんの弟子!」と驚かれた……。
防具屋では旅に必要なものは全て揃っていて、服から鞄から靴まで、戦闘時の鎧などもあるが、軽装用の肩当て程度のものもある。
服の生地は厚めだが軽く涼しいものだそうだ。鞄や靴は革で出来ているため、靴なんかは暑さが問題になっていたらしく、最近では小さな魔石を装着させ冷感を感じさせたり、通気性を良くしたりと、改良されているらしい。
「ルーサちゃんにはこれと、これとがおススメかしらねー!」
防具屋の接客をしてくれているレインさん。お兄さん……いや、お姉さん……? スラッと細身で背が高く、バッチリ化粧の美人さん……なんだけど、あ、明らかに男性と思われる身体付きなのよね……。
レインさんがウキウキしながら色々私の装備を準備していってくれる。ダラスさんは離れたところでこちらを見ているだけ……ひ、一人にしないで……。
「魔獣の森に行くんでしょー、じゃあこれくらいは必要よね! ダラスさぁん! こんな感じでどうかしらぁ?」
着せ替え人形のようにあれこれ着せられたり、鞄を合わせられたりしながら、レインさんは「これね!」と声を上げるとダラスさんを呼んだ。
ダラスさんはようやく近付いて来ると、上から下まで眺め頷いた。
軽めの服は動きやすく通気性も良い。女の子らしく短いワンピースのようにはなっているが、下にはズボンを履き、腰にはベルトにポーチ。靴は革だが軽めのブーツ。鞄はショルダーだと動きにくいから、ということでリュックに。こちらも革だが、体格や女性ということに合わせてくれ、とても軽いものを。
「それでいいだろう、会計を頼む」
「はーい」
え、決定ですか!? レインさんの意見だけで決定しちゃうの!? ダラスさん、なにも口出さなかったけど良いの!?
そう思っていたことが顔に出ていたのか、ダラスさんが私の姿を見ながら言った。
「レインはあんなだが、見立ては間違いない。だから大丈夫だ」
「ちょっとぉ、あんなって失礼な!」
ダラスさんの言葉にレインさんは膨れているが、フフッと笑って私を見た。
「私ね、これでも昔は戦い専門の護衛剣士をしていたことがあるのよー! だから装備に関しては詳しいから心配しないでね」
そう言ってウィンクをしたレインさん。護衛をしていたんだ、それなのに防具屋さんになっちゃったのね。
「怪我をして思うように動けなくなったから辞めたのー」
商品を袋にまとめながら、レインさんは私の疑問を見透かすように言葉にした。
「脚をね、怪我したから素早い動きが出来なくなっちゃってねー。だから今は防具屋でこうして皆が安全に旅を出来るようにお手伝いをしているのよ。だってね! 聞いてくれる!? 素人に限って高けりゃ良いものだと思って、自分に合わないものを選んだりするのよ!」
そうやってぷんすか怒っているレインさんは、口もよく動くがしっかり手も動いている。商品を詰め終わると、ダラスさんと支払いのやり取り。す、凄いわね、あれだけ喋りながらやることはちゃんとやっている……。
「だからねー、どうしても気になっちゃって、お客さんの装備は私が見立てることが多いのよー。嫌がるお客さんにはしないけどね」
ダラスさんとのやり取りが終わり、こちらを見たレインさんはフフッと笑った。その間ダラスさんはレインさんのことはひたすら無関心……アハハ……。
「ルーサちゃんもなにかまた必要になったらなんでも相談してちょうだいね! 私がルーサちゃんに合うものを完璧に見立ててあげるから!」
「フフッ、ありがとうございます。頼りにしていますね」
「いやん、可愛いわぁ! また来てちょうだいねー!」
むぎゅうぅぅっと抱き締められ……力は男の人でした……ぐふっ。
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