第35話 研究所棟

 採掘場からの帰り、乗合馬車のなかで魔導研究所の見学に行かせてもらう約束をした。

 せっかくだし見たことがないものはなんでも見てみたいしね!


 ウルバさんと日程を合わせ、リラーナも一緒にと、二人で招待してもらった。なんと魔導研究所とやらは城のなかにあるのだという。だからついでにと、城の魔石付与を行っているところも見学させてもらえることになった。ウルバさんが色々と許可を取ってくれたらしい。感謝しかない!



「私も洗礼式以外に城へは初めて行くから緊張する~!」


 リラーナが朝食を食べ終え、片付けをしながら言った。私もそれを手伝いながら、同じく緊張しているため、二人で顔を見合わせ笑い合う。


「ウルバに迷惑はかけるなよ」


 ダラスさんが小さく溜め息を吐きながら言う。


「「はーい」」


 リラーナと二人で返事をしつつ、そわそわ。


 ウルバさんとは城の入り口、城門のところで待ち合わせている。少し距離はあるが、のんびりと歩いて行こうということになり、私とリラーナは朝から出発、街並みを眺めながら歩いて城門まで向かう。


 運河に架かる橋を歩いて渡るのは初めてね。歩いて渡っていると、広さがなおさらよく分かる。大きな橋に大きな運河。橋の下を覗き込むと、水面が朝陽をキラキラと反射しとても綺麗だった。

 橋の上は風が強く、まだ朝早いからか肌寒い。しかし、その風の冷たさが目覚まし代わりに頭をすっきりとさせてくれる。


 街も次第に賑やかになっていき、人の声が多くなっていく。城へ向かう人は少ないが、それでも運河沿いの遊歩道には朝の散歩をしたり、露店が開き出したりと賑わい出す。



 城門までたどり着くと、門前ではウルバさんが待ち構えてくれていた。


「おはようございます、ルーサさん、リラーナさん」


 にこやかに挨拶をしてくれるウルバさん。仕事着なのだろうか、採掘に行ったときとは違い、なにやらローブのような服を着ている。

 大聖堂のおじいちゃんたちの服と似ているような、違うような。魔導師用の服だろうか。


 ウルバさんは門兵に声を掛け、許可を取っていることを話し、私たちを城内へと連れて行ってくれた。


 城門を通り抜け、大聖堂とは違う方向へと歩いて行く。城内は様々な建物が並び、高い塔や二階建てで硝子窓がたくさん見えるものもある。城内で出逢う人々は皆様々で、ウルバさんのようなローブを着た人も見かけるが、騎士だろう人や、明らかに貴族だろうという気品のある人たちも歩いていた。


 中庭のような場所を通り抜け、さらに奥へと進んで行くと、窓のない大きな建物が見えた。その横にはなにやら植物園のような、草木や花が多く育てられているような硝子造りの綺麗な建物。


「あの窓のない建物は図書館で、あっちの硝子造りの建物は植物園です。あのなかにある植物は薬物研究所の人たちが薬を作るための研究用に育てられています」


「「へぇぇえ」」


 リラーナと二人でキョロキョロと興味津々にあれこれと眺める。城内には色々な施設があるのね。面白いわ。


「薬物研究所自体は僕たちの魔導研究所と同じ建物内にありますよ。そちらも少しだけ見学させてもらいますか?」

「いいんですか!?」


 思わず前のめりになってしまい、ウルバさんにもリラーナにも笑われてしまった。


「アハハ、恐らく大丈夫だと思います。あとで許可をもらいに行ってみますね」


 色々説明を聞きながらさらに歩き進めると、二階建ての大きな建物が現れた。


「ここです」


 そう言ってウルバさんは大きな扉を開け、なかへと促した。


 建物のなかはとても広く、エントランスから両脇に長い廊下、正面の階段からはさらに二階へと続いていた。


「ここでは魔導研究所、薬物研究所、魔獣研究所、魔石付与部、とあります」

「魔獣研究所に魔石付与部?」

「えぇ。魔獣研究所は魔物や魔獣の生態など、討伐のための研究ですね。魔石付与部は魔石付与専属の魔導師のための部署です。魔導師団の一部ではあるのですが、魔石付与のみを専属で行うため、別部署になっています」


 以前ウィスさんがランガスタ公爵の話をしてくれたときに出ていた部署ね。ランガスタ公爵が見下しているとか……酷い。


 一階の階段を挟み右側には薬物研究所、左側には魔石付与部が、二階には右側に魔導研究所と左側に魔獣研究所が入っているらしい。ウルバさんに続き、二階へと階段を上っていく。


 魔導研究所の部屋だろう扉の前までやってくると、ウルバさんは扉を開け、なかへと促した。


 部屋のなかには多くの書物や資料が乱雑に積み上げられ、とても広い部屋なのに……足の踏み場もなかった……。

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