第27話 ローグ伯爵領へ
休暇日にすら普段と変わらない生活、ひたすら修行ばかりしていると、やりすぎも良くない、休めるときにはしっかりと休め、と怒られた。ということで半ば強制的に何もしない日を作られ一日自由時間が出来てしまった。しかし私には早く一人前になりたいという思いばかりで、いきなり自由を与えられても何をしたら良いのか分からない。
王都には友達と呼べる人はリラーナしかいないし、ただ一人でブラブラと散歩をしても寂しくなってしまう。そこで私が思い付いたことは……。
ローグ伯爵領へ行ってみたい、ということをダラスさんにお願いしたのだった。
領地へ行けば、なにか分かるかもしれない。なぜお父様とお母様は行方不明になったのか。なぜ爵位返上することになったのか。お父様とお母様は無事なのか……。
ダラスさんは考え込んだかと思うと「やめておけ」と言った。しかし何度もお願いし、最後には溜め息を吐きながら了承してくれた。
「その代わりウィスに同行を頼んでやるから、ウィスとリラーナと三人で行け。決して一人にはなるな。それだけは約束しろ」
「はい! ありがとうございます!」
ダラスさんはウィスさんに連絡を取り、ローグ伯爵領までの同行を頼んでくれた。ウィスさんは了承してくれ、ウィスさんの仕事が休みのときに合わせ、ローグ伯爵領まで出発したのだった。
王都へ来るときはローグ家の馬車でやって来たが、今回は王都から出ている乗合馬車で向かう。
朝、ウィスさんが迎えに来てくれる。
「おはよう、ルーサちゃん、リラーナちゃん。準備は大丈夫かい?」
朝から爽やかな笑顔で挨拶をしてくれる。
「おはようございます。ウィスさん、今日は同行をお願いしてしまい。すみません」
「ハハ、そんな気にしなくて良いよ。僕もたまにロダスタへ魔石を卸したりしているしね」
「ロダスタへ?」
ロダスタとはローグ伯爵領にある街の名前だ。私が住んでいた屋敷もそのロダスタの街外れに建てられていた。お父様やお母様と一緒に街の視察に付いて行ったこともある。勝手知ったる街。
「うん、ロダスタは魔石屋がないからね。魔導具屋から注文が届いて、それを向こうが受け取りに来たり、僕が持って行ったりしているんだ」
「そうだったんですね……」
確かにロダスタには魔石屋はなかった。だからこそ、私は王都に来るたびにダラスさんの店、魔石屋にしょっちゅう遊びに行っていたのだから。
今まで疑問にも思わなかったけれど、そっか、ロダスタの魔導具屋は王都の魔導師さんや魔石屋さんに魔石を発注していたのね。
「さあ、行こう」
ウィスさんが促すと、ダラスさんが見送りがてらウィスさんに「頼んだ」と声を掛けていた。ダラスさんはなにを考えているのか、表情からは読み取れないが、少し難しそうな顔をして見送ってくれていた。
大通りに出ると、乗合馬車はすでに乗客待ちだった。お父様たちと乗った馬車とは違い、大きな馬車。しかも幌は付いているが扉とかはない。馬車の最後尾から簡易の階段で上がる。荷馬車と似たような感じかしら。幌のなかは長椅子のような簡易的な椅子が向い合せに並び、乗客たちは並んで座って行く。
「良かった、比較的空いてるね」
朝が早いからか、乗合馬車の乗客は私たち三人を除き、後は商売人のような風体の人が一人乗っているだけだった。
料金を御者に支払い、馬車に乗り上げ、ウィスさん、私、リラーナ、という順番で横並びに座った。向かいにはその商売人のような人。
御者は時間を確認すると、簡易階段を片付け御者席へと行き、そこから声を掛けた。
「では、出発します」
御者の声と共に馬車がゆっくりと動き出した。
ガタガタと揺れを感じ、王都へやって来た日のことを思い出す。あのときは王都へ行ける嬉しさ、洗礼式と神託を受ける嬉しさ、ワクワクしかなかった。それなのに今は……
「私、ロダスタって初めてなのよね、楽しみ!」
リラーナが外の景色を眺めながら嬉しそうに言った。しかしそう言ってすぐに「あっ」という顔になり、申し訳なさそうな顔になった。
「ご、ごめん。ルーサはそのローグ伯爵家の人たちを心配しているのよね」
リラーナはオロオロして謝る。
「気にしないで。新しい街に行くのってワクワクするよね!」
私がローグ家の人間だったことをリラーナは知らないのだから仕方がない。リラーナが悪い訳じゃない。初めて行く街が楽しみな気持ちは私にだって分かるんだから。
そう、大丈夫。ニコリと笑って見せるとリラーナはホッとした様子だった。
「ルーサちゃんはローグ家の人となにか関係があったのかい?」
「ルーサはローグ家の人たちと知り合いなんだって」
私が答えるよりも早くリラーナがウィスさんの質問に答えた。ウィスさんは驚いた顔をした。
「伯爵家と知り合いなの!? え、ルーサちゃんて何者だい?」
あ、ウィスさんはお父様とお母様と一緒だったときを知らないから、どうして伯爵家と知り合いなのかは想像出来ないのか……どうやって答えよう、と悩んでいると、頼もしいお姉ちゃんであるリラーナが、私はお金持ちの家の子供で伯爵家とも面識があったのだ、と説明をしてくれていた。
「お嬢ちゃん、ローグ伯爵家と知り合いなのかい。すまんね、少し会話が聞こえてしまったから」
向かいに座る商人風の男の人が話しかけて来た。
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