第9話 神託!
「――――サ!! ルーサ!! 大丈夫か!? しっかりしろ!!」
そう呼ばれ、薄っすら目を開けると眩しい光に思わず眉間に皺が寄る。
ゆっくりと目を開けていくと、目の前には心配そうな顔の二人。えっと……私は……
「ルーサ!! ルーサ!! 良かった!! 急に倒れたから心配したのよ!!」
そう言って抱き締められた。抱き締められながら周りを見回すと、女神の像の前、見知らぬおばあちゃんと女性、そして父と母……。
ルーサ……そうだ、私はサラルーサ・ローグ。ローグ伯爵家の一人娘のサラルーサ・ローグ……先程まで見ていた夢……そう、あれは夢だった。夢だったんだけど、あれは過去の私……きっとそう。分かる。あれは私だった。
サクラという名のこことは違う世界の女の子だった。お父さんはおらず、お母さんと二人で暮らしていた。そして、お母さんが死んでしまい、その後を追うように私も死んでしまった。母の形見の石を抱いて……。
ワンピースのなかにある紫色の石を服の上からギュッと握った。この石は前世の母親の形見だ。そうなんだ。だからなのか、赤ん坊のときにその石を遠く離されると泣き叫んだのは。母親の形見だから。どうしてこの石が私と共にこの世界に来たのかはよく分からないけれど、きっと前世のお母さんが私を護ってくれているのだろう。そう思った。
「ルーサ、大丈夫かい?」
お父様が心配そうに頬を撫でる。お母様も抱き締めていた身体を離すと身体を撫でた。
「うん、大丈夫よ」
ほっと息を吐いた二人だったが、しかし、再び怪訝な顔付きになった。
「洗礼式でこんなことは今まで聞いたことがないからとても心配したよ。まさか倒れるなんて」
倒れている間、まさか前世の記憶が蘇ったとは思うまい。さすがにそのことを口には出来なかった。
とんでもなく心配をかけていたようだ。にこりと笑い、立ち上がった。
「ご無事でなによりでございます。それでは引き続き神託を執り行って大丈夫てしょうか」
立ち上がったことを確認したおばあちゃんが私の前に銀色の皿を差し出した。
お父様の顔を見上げると頷き、女性が近寄って来た。
「失礼致します」
そう言うと手を差し出すように言われ、右手を取られた。女性は私の右手人差し指に小さな針を刺す。
「痛っ」
チクリとした痛みに思わず声を上げる。人差し指を見るとプクリと血が玉となって浮き出てきた。
「聖水に」
おばあちゃんに促され、人差し指を銀色の皿で揺らぐ水のなかへ浸す。血は水に滲み、モヤモヤと漂う。そして滲む血はなにやら形を作り出してきた。
それは次第に文字を型どっていく。水中にゆらゆらと浮かぶ文字。
『魔石精製』
そこにはそう記されていた。
「魔石精製? 魔石精製ってダラスさんがやっているやつ!?」
まさかの魔石に関われる仕事の能力!? ウキウキしながらお父様の顔を見上げた。
しかし、そこには喜ぶどころかショックを受けたような、悲しそうな、何とも言えない複雑そうな顔をしていたお父様。
なぜそんな顔なのかしら、と不思議に思い、お母様を見ると、お母様も同様の顔だった。
「どうしたの? 魔石精製師は良くないの?」
その表情が不思議で聞いてみると、お父様はハッとした顔になり、眉毛を下げたまま笑顔になった。
「いやそんなことはないよ。魔石精製師は国家資格でね、国に数人ほどしかいないんだ。凄いことだよ」
頬を撫でるお父様はやはり少し複雑そうな顔。
「…………じゃあ、なんでそんなに悲しそうな顔なの?」
「そんなことないわよ、私たちは貴女の神託が無事に終わってホッとしたのよ」
お母様が私をギュッと抱き締め言った。なんだろう、この違和感は。言葉と違うこの空気がとてつもなく不安にさせる。思わずお母様にしがみついた。
「大司教様、お話が……」
お父様はおばあちゃんに話しかけ、私とお母様から離れて話をしている。一体なんなんだろうか。
お父様は真面目な顔でおばあちゃんに一生懸命訴えているようだ。おばあちゃんも深刻そうな顔で考え込んでいる。
「ルーサ、大丈夫よ。貴女は貴女の人生を歩めば良いのだから」
「?」
お母様の言葉の意味も良く分からなかった。
私の人生……魔石精製と神託をされたなら、魔石精製師として生きるのが一番良いわよね。その能力を生かして皆生きて行くのがこの世界の常識なのだから。
貴族なのに魔石精製師だから? それが問題なのかしら。お父様とお母様は貴族特有の能力なのかしら。それで私が魔石精製師だから問題なの? モヤモヤと考えていても結論が出るわけでもないのだけれど。
お父様はおばあちゃんにお辞儀をすると、私たちの元へ戻って来た。
「あなた……」
お母様も立ち上がり、お父様に寄り添った。
「大丈夫だよ、なんとかなる」
「…………」
やはり私の能力が貴族として問題があるということなんだろうな。出来損ないの娘でごめんなさい……。
「さあ、帰ろうか」
お父様は極めて明るく言った。私の頭を撫で手を繋ぐ。
「それでは転移を開きます。魔法陣へ」
女性が促し、私たちは来たとき同様に魔法陣の中心に立った。おばあちゃんと女性が呪文を唱えると、魔法陣は輝き出し私たちを元の大聖堂へと運んだ。
最後に見たおばあちゃんの目はとても冷たいものだった……。
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