『用無し聖女』と一年の約束

玉響なつめ

プロローグ

「……これまで国のためによく尽くしてくれた、聖女ラフィーア。感謝しよう」


「勿体ないお言葉にございます」


「息子の仕出かしたことは親として大変申し訳なく思うが、その分報酬には上乗せをさせてもらった。それから奴隷を買う権利も、そなたの家に国が干渉しないことも、全て約束した通りだ」


「お手数をおかけいたしました」


 私はできるかぎり穏やかに微笑んでみせる。


 心の中で何を思おうが、彼らが何を考えていようが知ったことではない。

 私は今日、この王城を去ることになるのだ。


 つい先日まで聖女として祭り上げられ、日々癒やしの力を使い戦に行く人々の為に尽くす日々だったのだ。

 一介の伯爵令嬢に過ぎなかった私が聖女の力に目覚めたことにより、この国の王子の婚約者に選ばれた挙げ句に戦地に送られ、人々を癒やし続けた日々もこれでおしまい。


 戦争は終わった。

 そして、聖女で王子の婚約者という立場も今日で終わるのだ。


 国王陛下との面談を終えた私が王城の長い廊下を歩いていると、前の方からニヤニヤしながら歩み寄る人物が目に入った。

 彼女に気づかれないようにそっとため息を吐く。


「お義姉様、ごめんなさいね……ワタシと殿下が〝真実の愛〟で結ばれてしまったものだから! 女神様もきっとお許しくださるとは思うけれど、お義姉様にも許してもらいたいわ!」


「まあ、ミューリエル。いいえ、むしろ喜ばしいことだわ。これから勉強も忙しいでしょうけれど頑張って」


「ええ、ええ、ワタシが立派な王妃になるところをどうか遠くで見守ってくださいませね!」


 高らかに笑う姿に品はないが、幸せそうでなによりだ。

 父が再婚した相手の娘、要するに血の繋がりはない義妹だが、それでも妹には違いない。


 せめて彼女が願うとおりでなくとも、幸せになってくれればいいなと思う。


「それじゃあミューリエル、次の聖女として頑張って国のために尽くしてね」


「ええ、お任せくださいな。お義姉様にできていたことならワタシにもできますわ!」


 私には聖女の力が目覚めた。妹には、それがない。

 それでも妹が『ある』と言い張り王子がそれを認めたし、なにより戦争は終わったのだ。


 きっと聖女はこれから平和の象徴シンボルとなるのだろう。

 義妹がそれを理解してそう振る舞ってくれればいいのだけれど。

 質素倹約たれと聖女には望まれているはずだが、果たして彼女が受け入れるかどうか……。


(まあ、いずれにせよ私にはもう関係ない話よね)

 

 王城の外に出て、大きく深呼吸をする。

 空はどこまでも晴れていて、雲一つない良い天気だ。

 

 お役御免を言いつかり、多額の報奨と少しの慰謝料、そして権利・・を得た。


「ああ……」


 私は自由になったのだ。

 聖女として『用無し』と言われたことが、こんなに晴れやかな気持ちになるだなんて思いもしなかった。


「これからの一年が楽しみね……!」


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