ぼっちの骸骨戦士を救いたい

ナナシノ

第1話

「今日も投稿されてる……」


 青空に流れる雲、それを背景に立花 キリカは草の上に寝そべりながらスマホの画面を覗いていた。

 ここ最近、余暇さえあれば決まって同じ事をしている。その画面にはある動画が流れていた。


 キリカの住む街『生田市』。

 それなりに広く、それなりに色々な物が揃うこの地方都市には三ヶ月ほど前からある光景が目撃され、それを道行く人が撮影するというルーチンが組まれつつあった。


 その光景は、単純に表現すれば『怪物同士の戦い』だ。


 一方は何者とも例えられない、四足歩行だったり翼が生えていたり、そして獣の如く人語を介さず唸り声を上げる文字通りの『怪物』。


 もう一つは人体こそ崩してはいないが、体には黒と濃い緑が混ざったジャケットか何かを身に纏い、何よりも特徴的なのはその頭。

 白く、肉などついていない剥き出しの骨そのものという顔。それに加えて頭には2つの角まで生えている。


 何者とも表現し難い怪物はともかく、もう一つの存在には人々からこう名付けられた。『骸骨頭』と。

 見たそのままの名前だが、外見的特徴からそう名付けるしか無かったのだろう。

 片方にだけ名前がついた理由は一つだった。今や何十件を超える怪物同士の戦いが動画サイトに投稿されるようになったが、決まって全ての動画に骸骨頭が現れていたからだ。決まって同じ奴が出るなら、それに対し固有名詞が欲しくなるのは当然の事だった。


「今日は……三分くらいか。撮る方もよくやるよなァ……」


 動画の大体の流れは街の路地裏、線路の上、工場、ビルの屋上……何処にでもある見慣れた場所に突如として怪物が現れ、理由も無く暴れる。

 そしてその場にバイクのエンジン音のような爆音が響き渡り、どこからともなく骸骨頭が現れその怪物を倒す、というのが基本的な流れだった。


 ある時は一対一、ある時は複数対一人、ただ決まってるのは骸骨頭はただ一人だけ。そしていつも勝利するのは、骸骨頭だ。


 骸骨頭の強さは、圧倒的だった。

 武器などは特に所持している訳でも無く、己の拳や脚が全て。その肉体のみで対する怪物を砕き、潰し、引き裂き、全てをなぎ倒す。怪物の方には時には火を吹き、時には電撃を起こし、そして時には翼を持って飛び回る等、能力的には骸骨頭よりも上と見える奴さえ居るのに、骸骨頭はそんなハンディさえ物ともせずにただ淡々と倒す。


 その強さ、その鬼のような角が生えている事から『鬼神』とも言い表す者さえ居るほどだった。


「流れも変わりなし、皆の反応も変わりなし……ふぅ」


 そんな内容の動画を見た物の意見は大概がその戦いをエンタメを楽しむかのような反応がほとんどだった。そしてそれは、怪物同士の戦いを撮る側も基本的にそんな認識でやっているのだろう。


 撮影自体が危険だとも、内容が暴力的だとも批判する意見もある。それでも見慣れた日常の光景に混ざり込む異様な戦いの様、基本的に短期決戦で勝負が決まる事の爽快ぶり。それに人は魅せられるのだろう。動画には高評価が多くついていた。


「やっぱ苦しいよ、こういうのは……」


 そしてキリカは、スマホの画面の中に繰り広げられる戦いに、ただ苦しさを覚える者であった。


 その苦しさの理由、それを表すキリカの視線は骸骨頭に向いていた。


 内容を暴力的だと思い、批判するなら見なければ良いだけの話だ。しかしキリカの思いは単なる批判とも違った。


「また俯いてる。いつもこうだ。こんなに苦しいそうなのに、なんでいつも戦うんだろう?たった一人ぼっちで……」


 画面にはいつものように怪物を倒し、その場からさっさと引き上げる骸骨頭の後ろ姿。そしてそこで動画は終わる。

 いつも熾烈な戦いに臨み、喜びを見せる事も無い骸骨頭の姿にキリカは悲しさと孤独を感じ取っていた。

 そもそも動画を見始めたのは、三ヶ月前。怪物同士の戦いが投稿されるようになってからそう間もない頃だ。

 たまたま目に入って、その場面が自分の知る、自分が住んでいる街の光景で、そこに繰り広げられるのは怪物同士の戦い。

 最初は『何だコレは?』という戸惑いを覚えたが、よく動画の内容を見てみれば好き勝手に暴れる怪物に対し、常に沈んだようなテンションで骸骨頭は戦いに臨んでいるように受け止めていた。怪物に勝っても、骸骨頭からは高揚感を感じ取れない。自分が倒した怪物に、いつも悲しみとも哀れみとも例えられるような視線を向けている。


 そして骸骨頭は、いつも一人だ。動画を撮る者、見る者はその戦いの光景をが、讃えるような声は無い。


 戦いを終えて直ぐ様にその場から去る後ろ姿。称賛を浴びる事は無いその後ろ姿に、孤独さえも感じ取っていた。


 一体どこからやって来て、何を目的として怪物と戦い、そして何処かへと去っていく。そんな骸骨頭一人に、キリカは切ない思いを馳せていた。










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