第2話 啄木鳥戦法
「…。」
妻女山へ突撃する勇ましい部隊の足音を地響きで感じようと、床几を前に椅子に座り目を瞑る男がいた。
そこへ伝令が入る。
「報告。」
「…。」
「高坂様、馬場様突撃を開始。」
「…。うむ。」
男は未だに目を瞑り呟いた。
伝令が退くと、男は立ち上がり更に耳を澄ます。
「よう聞こえるわ。」
男は言う。
「は???」
側に控える者達は何事かと頭を傾ける。
そこへ一人の若武者が近付き聞いた。
「父上。何が聞こえるのですか?」
男は未だに目を閉じ、その音色に聞き惚れているようであった。
「…。」
問いかけた男は少し困った顔をし、続けた。
「父上。では、それがしも戦の準備に取り掛かりまする。」
と、言うと陣幕を出て行こうとした。
そこへ
「義信。あの諏訪の音色、父の魂と想い武功を上げるが良い。」
男の目は薄く開き、若武者へそう言った。
義信と言われた若武者は、立ち止まると手を合わせ
「かしこまりました。」
と、応え陣幕を出て行った。
男はそう言うと妻女山の方へ目をやり
「決着をつけようぞ。景虎よ。」
と、少し楽しそうに言った。
男の名は武田信玄。
甲斐の虎と呼ばれ、父信虎を追放し、領主になると、その領土を拡大していく。
その食指は各方面に伸びる中、今往年の宿敵との戦いの最中であった。
その信玄は今、川中島の八幡原に陣を敷き、宿敵・景虎が妻女山より、つつき出されるのを待っていた。
「啄木鳥戦法」
(勘助め。面白い策を。)
信玄はそう思いながら、太鼓の鳴る小高い山に目をやった。
妻女山に陣取った相手に一方から攻めかかり、驚いた相手方が下山する平野に兵を置いて挟撃する。キツツキの餌獲りのそれを倣ってそう名付けた。
信玄は今、驚き慌てふためいた餌を、一網打尽にせんと深い霧の中、八幡原の中心に8000の兵を率い、その時を待った。
陣形は敵の前進を包み囲む様な隊形。
鶴翼の陣。
(霧が厄介じゃの…。)
信玄は陣幕を出てそう思った。
第二話 完
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