#33 脅かされ、迫られる日
学生というものは、恋愛にだけかまけてはいられない。遠足の余韻もなく、俺達は現実に引き戻されることとなる。
「みなさん、遠足は満喫できましたかー? 遊んだ後は、勉強の時間ですよ。高校生になって初めてのテストが来週ありますからねー」
翌朝のHRで、丸山先生は無慈悲にも中間テストの存在を生徒達に突きつけた。
青春ノートを開く。『友達と勉強会をする』という項目があることを、改めて確認する。今度、みんなに提案してみよう。
(そういえば、昨日のチェック全然付けてなかったな)
『買い食いをする』『恋バナをする』『告白をされる』、それから恋人編の『キスをする』。……したことは事実だからな。耳が火照るのを感じながら、俺は白い箱に印を付けていった。
「うわーん! 最悪だよ! マルちゃん先生、もっと空気読んでよー!」
「テストの日程は最初から決まってたでしょ」
「でもでも! 今日言わなくたっていいじゃん!」
一限までの休み時間、井寄は明海の席にやってくるや否や愚痴を零して、九条に苦言を呈されていた。いつもの三人組は、今朝同じ家から登校してきている。ということで、今日はまだ明海と言葉を交わしていない。どこかでチャンスを見つけて、明海に声をかけなければ……!
「あれ? トモちん、夕夏のことじっと見てどうしたの?」
「え、あーなんでもない! 気にしないでくれ!」
俺は居ても立ってもいられず、支度を済ませて教室を飛び出す。一限が移動教室で助かった。そうじゃなかったら、どう誤魔化したか分からない。
こうして、時が進んでも俺達の関係は進展することなく――昼休みを迎えた。
「それで、一言も話さないまま今に至ると」
「弱気だな」
「……返す言葉もありません」
広げたパンに手も付けず、俺は屋上で茂木と堂島に見下ろされていた。「男同士水入らずで、昼でも食べよう」と茂木に誘われた時は、青春ノートを埋められると浮かれていたのだが、待っていたのは尋問。茂木は、二の足を踏んでいる俺を見兼ねたらしい。心配してくれたのはありがたいが、状況的には感謝しづらいものだ。
一限は移動教室で躱し、忘れた二限の教科書は意を決して他クラスの見知らぬ生徒に借りる始末。「勇気を出すのはそこじゃない」と、堂島も呆れた様子だ。
「三限は体育だから接点はないし、四限終わりのさっきもちょうど夕夏から逃げようとしてたところだったね」
「……はい」
俺の推測が正しければ、挙動不審な俺に我慢の限界を迎えた明海は、そろそろ俺を問い詰めようとしてくる頃だった。だから先んじて逃走しようとしたところで、茂木に捕まったというわけだ。
「このままだと、今日中に話をするのは無理そうだな」
堂島の判断に返す言葉はなく、俺は首を垂れることしかできない。
「やっぱり緊張するのか?」
「そりゃそうだろ。だって、昨日の今日で話があるなんて言ったら、十中八九告白絡みのことだと思われるだろうし」
校舎裏に呼び出されたら不良を、屋上に呼び出されたら告白を連想するのと同じだ。俺が明海に声をかけたら間違いなく……待てよ、呼び出し? もしかしたら、これは使えるかもしれない。
そして、面と向かって呼び出さず、他の人にバレないようにする方法を俺は知っている。なぜなら、それは俺が以前やられたことだから。
あの日の再現……いいじゃないか。俺と明海の関係を、またそこから始めてみよう。
「茂木、堂島。俺、やるよ」
「何か案があるみたいだね」
「俺は、放課後に明海をここに呼びだす。――脅迫状を使って」
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