あるダンジョン配信者の一日
水国 水
八岐大蛇討伐
三十年前、世界各地にモンスターが出現する危険な場所が生まれた。
初めは軍が出動し対処しようとしていたが、未知の環境、そして、新種の生物たちが蠢くその場所では近代兵器はほとんど意味を成さず、軍は蹂躙された。
ただ何も収穫がなかったという訳ではなく、その場所に入ったほとんどの隊員の身体能力が向上したり、未知の力を行使することができるようになるということがあった。
さらにこの現象は調査に同行したカメラマンや研究者などにも発現したことから、場所に入れば誰でも発現する可能性が出てきた。
その後、人々は漫画やゲームにあやかりその存在をダンジョンと呼称するようになった。
さらにダンジョンからは、未知の物質や鉱石など様々なものが発見された。
この出来事により、世界中でダンジョンに潜る職業を作ろうという運動が活発になる。
だが、各国政府は、このダンジョン出現当初の甚大な被害を目の当たりにしているため積極的ではなかった。
そんなこんながあり10数年が経った頃、探索者という職業が出来上がっていた。
同時にダンジョンで配信をするDunTuberが人気を博していた。
これはそんなあるDunTuberの配信の話だ。
◆◆◆
————東京のあるダンジョン内にて。
「準備よしっと。配信始めるか」
俺はそう呟くとカメラの電源を入れ、ドローンを飛ばした。
「こんにちは! 大石悠真です。今日もダンジョンで配信をしていきたいと思います」
俺は後ろを飛んでいるドローンに向けて話し始めた。
:待ってましたー!
:始まった!
:そこどこ?
:ダンジョンの中?
俺はスマホに表示されたコメントを見る。そこには多くの歓迎の言葉がある。
「今いる場所は新宿ダンジョンですね」
コメントの中に俺が今いる場所について聞かれたため答える。
「さて、今日の目的なんですが――――八岐大蛇をソロ討伐したいと思います!」
:え?
:八岐大蛇!?
:もしかして奴か……?
:不死身の生物兵器?
俺の言葉を聞いた視聴者たちが困惑のコメントを打つ。
それもそうだ。八岐大蛇とは、4人以上のパーティが複数組揃ってやっと討伐できるモンスターなのだ。
:新潟ダンジョンと言えばみたいなモンスターだよなぁ
:他の配信でも見たけどあれはやばい
:それって、この前ようやく複数ギルドが協力して倒せたやつじゃ……
「今日討伐する八岐大蛇について知らない人もいると思うので一応解説しておきます」
そう言い、俺は八岐大蛇について話し始める。
「八岐大蛇と聞けば、大体の人が八本のベビの頭があるやつを想像すると思う。ここ新潟ダンジョンでは、まんまそいつがボスとして出てくる」
:しかも魔法を使うしな……
:やばいな
「そう! 八つある首がそれぞれ別の属性魔法で攻撃してくるんだ。対策が難しいやつ」
画面に流れるコメントと会話しながら、俺は前に顔を向ける。
「というわけで今、そのボス部屋の前にいるわけです」
顔を向けた先には、全長六メートルくらいはあろう重厚な扉があった。
その扉は一見すると誰も開けることができないようなくらい大きい。
:もう居るのか⁉︎
:はや
:でっか
:これどうやって開けるんだ?
「雑談も程々に、そろそろ行きましょうか。あっ、戦闘中はコメント読めないのであしからず」
俺は頬を軽く叩き気合を入れる。
そして、ボス部屋に向かって足を踏み出し、扉に手を置き開けようとした。すると、突然足元が光り始める。
:え
:転移トラップ!?
:大丈夫なのか……?
「えっ!?」
——罠か!?
目の前が光で包まれたとき俺はそう考えた。
光がなくなるとそこに、は東京ドームくらいある空間が広がっていた。
「広いな……。しかし何も居ないぞ?」
俺は目の前の景色が変わり別のところに出た後も警戒を緩めずにいた。しかし、一向に何も起きる気配がない。
やっぱりさっきのが罠だったのか……?
「ここはボス部屋とは違うところなのかもしれないな」
:そんなことがあるのか?
:広いところだな
:でっか!
俺が周りを見渡し警戒していると、突然壁から無数の青白い光が天井に向かって伸びていくことに気づいた。
突然の現象に、俺は思わず身構える。
「……なんだ?」
この灯りはどうやら、壁に彫り込まれた溝が光っているようだ。部屋の全貌が徐々に明らかになった。
そして、全ての窪みに青白い光が全ての溝に浸透した瞬間、やつは現れた。
「シャァァァァァァァァ!!」
けたましい雄叫びを上げ、八岐大蛇が姿を表す。
その目は鋭く真紅の瞳があり、ひとつの身体に頭が八つ、尾が八つある。その体躯は山を彷彿とさせるように大きく、青い鱗が身体中を覆っている。ただ、腹を見ると一面血まみれでそれがまた恐ろしさを引き立てていた。
その姿からはあまり素早くないような印象を受ける。
俺はこれから起こる戦いを想像し武者震いする感覚を覚えた。
「さあ、楽しませてくれよ」
俺は右手で刀を構え呟く。
次の瞬間、四つの頭が噛みつこうと大きく口を開けて迫ってくる。
それを俺は後ろに下がることで避ける。先ほどまでいた場所を見るとそこにはクレーターができ、砂埃が立ち込める。
次の攻撃に備えるため、俺は魔法を発動させる。
「重力・纏」
そう言うと「ブオン」という音とともに刀身が半透明なもので包まれる。
砂埃の中から青白く、赤く、黄色く、白く光る。刹那、魔法を四発視認した。
俺はこれを、まず一つを刀で切り、他二つは上に飛ぶことで避ける。
:後ろ!!
:やばいぞ!
「……見えている」
俺は、背後に高密度の重力場を作ることにより、光を曲げ八岐大蛇へ攻撃を返す。
八岐大蛇はそれを同じ攻撃をぶつけることで相殺する。
その後も激しい攻防が続くが、お互い決定打に欠ける状態が続く。
何か攻勢に出れるきっかけを作るため、俺はは八岐大蛇へとっておきの魔法を放ことにした。
次の瞬間、八岐大蛇の頭が三つ凄い圧力がかかったように潰れた。
だが次の瞬間には、潰れたはずの頭が再生し始めていた。
「マジかよ……」
一瞬で起きた理不尽な現象に愚痴を溢すが、俺は自然と笑っていた。
どうやら完全に再生し切ったのか、大きく咆哮を上げ威嚇してくる。
悠真は八本の頭から見つめてくる目に変化があることに気づく。今までは、獲物を狩る時に動物が見せるような獰猛な目つきだったのが、明確にこちらを敵と認識したようで、刺すような鋭い目つきに変わった。
「目つきが変わったか……。ここからが本番ってわけだな」
そう呟くと俺は、刀を構えた。
「お……らぁ‼︎」
刀を八岐大蛇に向けて横一字に振るう。
刹那、八岐大蛇の腹が裂ける。
「チッ! 浅いか」
攻撃を受けた八岐大蛇は怯むことなく、間髪入れず、攻撃を繰り出してくる。
腹部に尻尾での一撃を受けでしまい「グハッ……」と苦悶の声を上げ、吐血してしまう。が、すぐさま体勢を立て直し攻撃に移る。
足、そして、足がついている地面に重力を付与し、互いがぶつかり合い反発することで起こる斥力を利用し、加速する。
そのまま、地面や壁、天井に触れては斥力を発生させ飛び回ることで八岐大蛇を翻弄する。
八岐大蛇はその動きに追いつこうと首を縦横無尽に振り回し、闇雲に口から魔法を放つ。
先程まで生き次ぐ暇もなかった攻撃が突然止む。
八岐大蛇を見てみると八つの首がぐちゃぐちゃに絡まりジタバタしていた。
「よし! これなら一度に全ての首を切れる」
刀を振るう。
「ジョァァァァァァァ」
首を切ることには成功した。しかし、切れたのは一つだけだった。
ドシャッと音を立てて斬った首が、下に落ちる。
陸に上がった魚のように動き続ける首。
その光景は異様だった。
「えぇ、動くの? それ」
俺は緊迫していた戦闘の中で、唐突に出てきたキモさに少し引いてしまう。
そして、本体へ向けていた警戒を一瞬解いてしまった。
八岐大蛇はこの隙を見逃さず、攻撃を繰り出す。
「シュラァァァァァァ!!」
八つ全ての頭を上に向け、雄叫びを上げる。すると、ボス部屋に無数の魔法陣が現れる。
魔法陣からは無数の蛇が現れ、八岐大蛇を守るように陣形をとる。
「奴は何をする気だ? とりあえずやばいのはビリビリ伝わるが」
俺はそう呟くと八岐大蛇を見据え、何が来ても対応できるよう構える。
すると、奴は八本ある首が一点に集中し力を溜め始め、魔力の塊のようなものを生成し始めた。
「おいおいおい、あれは絶対にやばいやつだ」
俺は八岐大蛇が何をしようとしているのか理解し、驚愕する。
「あいつ……この場所ごと吹っ飛ばすつもりかよッ! させるか!」
八岐大蛇の攻撃を阻止するため重力魔法を使い首を潰そうとするが、奴が召喚した蛇に邪魔されてしまう。
蛇たちは召喚主——八岐大蛇を守るため、死力を尽くす勢いで襲いかかってくる。
「邪魔だァ! 重力反転」
右手に重力の魔法を纏い、左に振るう。すると、眼前にまで来ていた蛇たちが左の壁に激突し、そのまま押し潰れ絶命した。
俺は踏み込み、叫ぶ。
「
瞬間、俺の体は重力の影響を受けなくなり飛ぶ。そのまま足元に重力場を発生させ斥力の反発する力で八岐大蛇へと向かう。
攻撃を八岐大蛇目がけて放つと金属と金属がぶつかるような甲高い音が鳴り、防がれてしまう。
「結界だと!?」
どうやら八岐大蛇は大技を放つ時の隙を結界で防ごうとしているようだ。
双頭の蛇が結界の四つ角に鎮座し、発動させている。
あの結界を破らないといけないか……。
「さっきの攻撃で傷一つつかないとは……。山なら一つ消し飛ばせる勢いでやったんだがなぁ」
結界の強度を目撃し、俺は最終手段を出すことを決意する。
「フゥー……」
酸素を得て新しい血液が作られることで、俺は身体の節々まで熱くなる感覚を覚えた。
俺は、手に重力を発生させる。その影響で周囲の重力場が歪み、進行してくる蛇が軒並み耐えれず潰れていくのが見えた。
掌の上に黒点が生まれる。黒点は徐々に膨張し、野球ボールくらいの大きさになった。
「……ブラックホール」
俺は、生成したブラックホールを八岐大蛇めがけて放つ。
蛇たちが防ごうと魔法や体当たりする。だが、ブラックホールは消されることなく向かってきたものを消滅させながら突き進む。
そして結界へ触れた瞬間、その場所を起点として巻き込むように全ての結界を飲み込む。
俺は、勝ちを確信した。
八岐大蛇がブラックホールに飲み込まれ消滅すると思った。
ついにブラックホールが八岐大蛇まで到達する。刹那、大爆発が発生した。
「嘘だろ! 何が起きた!?」
俺は驚きのあまりそう叫ぶ。
八岐大蛇を見るとどうやら八つある首のうち二つを犠牲にすることで耐えたようだった。
幸いだったのはその無くなった二つの首が再生できてないことだろう。
「ジャアアアアアアアアア!!」
怒りに満ちた目つきで俺を睨み、叫んでくる。
それが合図だったのか召喚された蛇が迫ってくる。
俺は対抗するため、両手に重力を発生させ手を合わせようとする。
すると、徐々にバチバチッと電気が発生し始める。
両手の間に球体状のものが形成される。
「いけッ!!」
それを俺の前へ放出する。
放たれた電気はすごい勢いのレーザーとなり、八岐大蛇へ向けて突き進む。
次の瞬間、八岐大蛇の上半身――八つ全ての首が消滅する。
そして、そのまま倒れる。
「ふぅー、何とか勝てましたね……」
俺は視聴者に向けてそう言うと肩の力を抜き、疲労がドッときてしまい座り込む。
「……ん?」
**は死体の尻尾が青白く光ってることに気づく。
その光は尻尾に近づくにつれて強くなる。
「なんだ? 尻尾が光ってるぞ」
俺は疑問に思い尻尾を開いてみると、そこには剣が入っていた。
光は刀身から放っている。
その剣は変わった形状をしている。
「もしかして天叢雲剣か?」
:えっ!
:ヤマタケが見つけたやつ!?
:前回の討伐では発見されなかったよな?
俺はコメントを見てあることに気づく。
「もしかして、ソロで倒したら出てくるとか……?」
そう考えると前回の大規模討伐では発見されなかったことも納得できる。
難易度おかしすぎるだろ……。
「だとしたらこの剣ヤバそうだな……。次回使ってみるか」
:楽しみだ
:性能凄そう
「休憩もできたしそろそろ終わりにしますか」
俺は、カメラの方へ向き言う。
「じゃあ、これにて配信は終わりです。最後まで見てくれた皆さんありがとうございました! またどこかでお会いしましょう!」
:おつ〜
:楽しかった
:おつかれー
:またねー
俺はコメント欄に出てくるコメントを一通り読むと、スマホを操作し配信を止めた。
————こうして今日の配信は幕を閉じた。
—————————————————————
最後までお読み頂きありがとうございます。
誤字や改善点、感想があればコメントして頂けると嬉しいです!
そして、もし面白いと思っていただけたら♡や☆を貰えると嬉しいです!
お読み頂きありがとうございました。
あるダンジョン配信者の一日 水国 水 @Ryi-
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます