第243話 出現
「どうですか!? パラディス殿下! アナトミア様のあの一撃は! 天を割り、地を穿つ! とても素敵な女性だと思いませんか!?彼女こそ、殿下の妃にふさわしいかと」
きゃいきゃいとはしゃいでいるメェンジンが、アナトミアを褒め称えているが、それを聞いているパラディスは苦笑いを浮かべている。
「……屋敷を破壊した女性を薦められても……ね。ここ、結構気に入っていたんだよ?」
「そんな些細なこと、どうでもいいじゃないですか!」
キラキラと目を輝かせて言い切ったメェンジンに、パラディスはため息を返す。
「まぁ、でも、確かに些細な事ではあるか……それに、あの武器は……」
パラディスは、アナトミアが持っている黄金の剣 オウガにじっと視線を向けた。
「知り合いか?」
一方、アナトミアは黄金の剣 オウガに質問していた。
そのアナトミアからの質問に、黄金の剣 オウガは懐かしむようにじっくりと答える。
「この姿になる前の話だ。ヤシオリ達と共に、空を、地を、海を駆けた頃の思い出だ」
黄金の剣 オウガは、大切なモノを投げるように話を変えた。
「それにしても、歯だと?アイツの体は、全てこの島に変えられているはずだ。なぜ、なぜ、歯が出ている?」
「歯だけが残っていたとかじゃないのか?」
「ふーむふーむ……そんなことがあるのか?」
「そんなの、私が知るわけないだろ?」
黄金の剣 オウガの質問に答えることができないアナトミアは、質問を打ち切るように黄金の剣 オウガを担ぐ。
「会話する武器を所持しているのは知っていたけど……その武器は、古代の龍の御霊を宿しているのかい? スゴいなぁ、じっくり見せてくれない?」
そんなアナトミアに、パラディスが親しげに話しかけてきた。
「ちょうど良かったじゃないか。お前の疑問に答えてくれそうな人がいたぞ」
「……人?コレが? 虚ろが皮を着ているだけの、空事の塊ではないか」
ばっさりと評価を下した黄金の剣 オウガに、パラディスは声を上げて笑った。
「これは手厳しいなぁ……ねぇ、ドラゴンの解体師。結婚してあげるから、その剣を僕にくれない?」
「……………………はぁ?」
一瞬、パラディスが何を言っているのか、その場にいた全員が分からなくなった。
「お……おお! パラディス殿下がやっとその気に!! これはお龍飯を準備しなくては!!」
その内容を理解したメェンジンが、お祝い事の際によく食べるご飯を準備すると張り切りだす。
「…………なんで王族は、私を見ると求婚してくるんだ?」
一方、アナトミアは頭を抱えていた。
「モテモテですねぇ、アナトミアさん」
「モテているんですか?これは」
「王族から求婚されるなんて、普通は乙女の夢なんですよぅ」
「その普通。どっちのことを言っています? 私に対してなのか、それとも、剣をよこせと求婚してきた王族に対してなのか」
ムゥタンは、剣をよこせと言い出した王族に冷めた目を向ける。
「普通の反応をしているのはアナトミアさん。普通じゃないのは、あの愚か者ですねぇ。私の大切なアナトミアさんを侮辱するとは、いい度胸ですぅ」
「結婚相手に対価を求めるのは、王族としては普通だと思うけどね?それにしても……ムゥタンは僕のことを王族だと認識しているんだ、嬉しいね」
「……まだ、王様が貴方の除名を決定されておりませんからね。パラディス王子」
視線が、エアデル王に集まる。
「……パラディス。お前はもう、私の息子ではない」
「そんな!それは……困ります」
エアデルの当然の結論に、パラディスは、わかりやすく狼狽し始めた。
「何を慌てている? このようなことをしでかしたのだ。王族の地位の剥奪は当然だろう?」
「だって、オアザ。よく考えてよ。僕の目的は巨大なドラゴンを……『五頭宙龍 ドラフ・ツァイト・ロン』を復活させることなんだよ? この国の礎になっている巨大で強大なドラゴンを復活させるのが、王族じゃない普通の人間だ、なんてみんな困るでしょう?」
「……困る?」
「そう。困るよ。何の地位もない人間が、『五頭宙龍 ドラフ・ツァイト・ロン』を復活させるなんて、混乱が起きるのは明らかじゃないか。そのことに対して、他国へ説明したり、協議したり、何より……んふ」
何を想像したのか、パラディスが笑う。
「だから、やるしかないよね……僕が王族じゃなくなるなら政変を、そして、騒乱を!!」
アナトミアが黄金の剣 オウガを振り回したことで屋根が壊れ、壁が破壊されている。
ゆえに、よく見ることが出来た。
水しぶきと共に、水中から現れた巨大な生き物の姿を。
強大なドラゴンの姿を。
「こ、れは……2体のドラゴン?」
「いや、あれは……頭が二つ?」
現れたのは、巨大な頭が二つあるドラゴンだった。
目がうつろで、皮膚の所々が明らかに腐りかけているが、それでも動いている。
口が、光り輝いている。
「……止めろ!」
その口の輝きが何を意味するのか。
察したオアザとアナトミアが同時に叫ぶ。
しかし、その言葉を聞く者はいない。
聞いても、笑顔を返すだけだ。
空を裂くような轟音と共に、光が巨大なドラゴンの口からそれぞれ放たれる。
『息吹(ブレス)』
純粋な破壊の欲望により形成されたその光は、まっすぐに王都・ゲルドラーフに飛んでいった。
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