第224話 ラーヴァの自己紹介

「俺の名前はラーヴァ・ドラフィール。ドラゴンの休憩地。ドラゴンの国。ドラフィール王国の王、エアデル・ドラフィール陛下の第2王子。狡猾、残虐。獣心の王子、とも呼ばれている」


 オアザからは聞いた事も無い蔑称を、ラーヴァは薄く笑いながら言う。


「つい先日までは王太子であったが……今は、ドラフィール王国の王族で、もっとも身分が低い立場になっている……そこのヴィントと一緒でな」


 ラーヴァは、まだ気を失っているヴィントに目を向けた。


「……身分が低い、ですか」


「ああ、その理由は、アナトミアも知っているのだろう?」


「そう言われているだろうという理由は、聞いています」


「そうか。そうだろうな。ならば誤魔化すこともしないが……我々の母親は奴隷だ」


 ラーヴァ達の血筋については、これから重要になるだろうと、教えられていた。


 そして、調べてもいた。


 意味深に、言ってきた人がいたからだ。


「なぜ、王である父上と奴隷の母上が関係を持ったのか。おぞましい話になるため、ここでは避けるが……まぁ、そこも聞いているか。後宮など、消えてよかった」


 ラーヴァは少しだけ長く、息を吐いた。


「とにかく、我々は王と奴隷の子供だ。それがどういう意味を持つか。生まれを理由にするなと言う者もいるが、それは経験したことがない者の戯れ言だ。我々は……常に命を狙われていた」


 ラーヴァは手に炎を出す。


「……奴隷の子供が王族にいる。それを許せないと考える貴族は……考えるだけならほとんどの者がそうだろう。自分達の行いを棚に上げて、他者には清廉を求める。それも人の業ではあるが……」


 炎が勢いを増す。


「ただでさえ、王族とは命を狙われるモノだが、我々は特に多かった。口に触れるモノどころか、衣服にさえ毒は混ざり、近づくモノは獣であろうと、人であろうと襲いかかる。実の母のように信頼していた乳母でさえ、懐には刃物を隠していた。服を脱がせようとするヴィントの気質は、そこからだろう。女性は、特に物を隠せるからな。だからといって、許されることでもないが」


 ラーヴァは、炎を消す。


「暗殺をしようとする者達が減ったのは、我々が育ち、魔法を扱うようになってからだ。それからは、我々を奴隷の子供だと揶揄する声も少なくなった。母上が死んでからは特にな。だが、それで幼い頃の記憶を忘れたわけでもない」


「……それで、燃やすのですか? 村を、町を……人を」


 アナトミアの質問に、ラーヴァは軽く目を閉じる。


「影響がない、とは言わない。俺としては正義を行使しているだけのつもりだが……過剰であろうな。狡猾、残虐、獣心と言われても、否定はできぬ」


「正義、ですか。確か、燃やしているのは犯罪者だけ、でしたか」


「……さすがは叔父上だな。清廉だ」


 ラーヴァは、どこか嬉しそうにしている。


「俺が良く村や町を燃やす南の島:ズバルバーには、元々北で暴れていた海賊達が暮らしていてな。未だに人を奴隷のように扱っている」


「そういった人達を燃やしている、と」


「父上や叔父上には止められているがな。犯罪者といえども、燃やすのはやり過ぎだ。それは分かっている。しかし、燃やさなくては増え続けるのだ。害虫は」


 もう一度、ラーヴァは手から炎を出した。


 炎は一瞬で大きくなり、そして消える。


「貴族のお嬢様や、クリーガルさんは……」


「婚約者の候補として連れてこられた者を本当に焼いたことはない。ヴィント達と同じように、礼儀知らずの馬鹿を炎で気絶させたことはあったがな」


 ラーヴァが使用した顔を覆う炎、『火の魔法 三十九首 消気炎』は、周囲の空気を燃やすことで、相手を窒息させる魔法だ。


 この炎で包まれても、顔は火傷することはない。


「とはいえ、噂は広まる。貴族の娘達の顔を焼いた獣心の王子だ、と。どうでもいいが」


「クリーガルさんは、何か問題があったのでしょうか?」


「『颶風』の家の娘は、ヴィントの件で我々の側近になることを拒否していることは明らかだったからな。ちょうど叔父上達が近くにいたし、離れるための理由付けだ」


「では、これまでに焼いたのは……」


「俺は、俺が燃やすべきだと思ったモノだけを燃やしてきたつもりだ。犯罪者、悪人、それに……信用できないモノ」


 メェンジンや、リュグナがそれだろう。


 実際、彼女たちはラーヴァを裏切っている。


(……どうやってソレを見分けたのか……まぁ、話を聞いている限り、昔からそういう人達に囲まれていたようだからな。必然的に身につけていたのか)


 ここまでの話で、ラーヴァとはどういった人物なのか、なんとなくアナトミアは理解した。


(全てを燃やし尽くす正義、だったか。オアザ様達が言っていたのは。確かに、本人の話もそうだし、行動もそう思える。でも、その根っこは……)


 考えて、しかし、それを深く追求することはやめた。


 アナトミアが気にするようなことではないからだ。


「さて、ここまで俺のことを話してきたが……ここからは、重要なことを話そうか」


 ラーヴァは、笑う。


「これは、アナトミアも聞きたかったことだろう?」

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