第25話 距離が近い
(……それで、なんで私までのぼらされているんだ?)
結局、定期船に乗る以外の選択肢がなかったアナトミアたちは、翌日には定期船に乗って、海へと出た。
目的地は、東にある島。
アナトミアの生まれ故郷である。
「ドラゴンの解体師殿が生まれた島か。どのような所か楽しみだ」
「大した所では無いですよ? まぁ、船を下りる港町はそこそこ栄えてますけど、私の村になると田舎ですから」
「それでも、解体師殿の故郷なら興味がある」
オアザが、クマが少なくなった顔でアナトミアに微笑みかけてくる。
(……なんだかなー)
アナトミアがオアザに寄生していた『パラジイト・ドラゴン』を解体してから、どうにもオアザの距離感が近い。
こうして、見張り台にのぼるときも、唯一ついてきている護衛のクリークスではなく、アナトミアを連れて行くのだ。
(まぁ、もしかしたら、自由を満喫しているのかもな。なんか色々しているようだし)
『パラジイト・ドラゴン』を取り除かれ、意識を取り戻したオアザは、人が変わったように動き始めた。
まずは、オアザの部下のうち、クリークス、クリーガル、ムゥタンを除いて全員を王宮へ戻した。
王宮の情報収集をさせるためらしいが、別の狙いもあるようにアナトミアには思えた。
そして、ドラゴンの解体部門についても調査を始めたのだが、そこで、新しい事実が判明したのだ。
それは、ドラゴンの解体部門の責任者であるマコジミヤが、アナトミアを窃盗の罪で指名手配しているということだ。
なんでも、アナトミアが持っているドラゴンの解体道具は、魔獣省から盗まれたモノだと主張しているらしい。
(この道具は、師匠から貰ったモノだから。それを自分で鍛えてきたモノだから。盗んでないから)
というのはアナトミアの意見だが、それがマコジミヤに通じるとも思えない。
彼、というかドラゴンの解体部門に何が起きたのか興味はあるが、そんなことよりも重要なのは、アナトミアはこうして指名手配され、逃亡犯となってしまったということだ。
殺人などではなく、窃盗の容疑というだけなので、大々的な捜査はされていないが、宿などに止まる際は気をつけなくてはいけなくなったし、船も平民用にしか乗れなくなってしまった。
その程度、アナトミアだけならそこまで気にしなかったが、問題はオアザたちもアナトミアに巻き込まれているということだ。
(……本当なら、解雇してしまえば、それでいい話だ)
だが、オアザはアナトミアを、故郷に送り届けたいと言ってくれた。
そのために協力してくれている。
そのことには感謝している。
(……まぁ、だから見張り台に一緒にのぼったり、果物の皮を剥くくらいはしてやるよ。けど……)
そっと、オアザがアナトミアの肩に手を回そうとしてきた。
すっと、アナトミアは手を避ける。
「……む」
オアザが少し不機嫌そうな顔をしているが、知ったことではない。
(なんか、変な事になってきた)
アナトミアは平民だ。
ドラゴンの解体師という仕事をしている娘は珍しいのかもしれないが、そんな理由で王族が平民の小娘で遊ばないでほしい。
ムゥタンに聞いたところ、オアザはかなりおモテになっていたそうだ。
だから、たまには変わり種に食指が動いているのだろう。
(なんでも、健康な時は微笑みかけられただけで失神する人もいたらしいからなぁ。本当かどうか知らないけど)
正直アナトミアがオアザに会ったときは、彼は痩せこけ、クマが目立つようになっていたので、その容姿に特別な感情を持つことはなかった。
これからオアザが回復し、元の容姿を取り戻したら、アナトミアも失神するようになるのだろうか。
(……ないなぁ)
いくら病気で容貌が変わったといっても、健康な時の想像くらいできる。
確かに綺麗で整った顔立ちだろうなとは思うが、そこまでだ。
それに、そもそも、正直な話、アナトミアには色恋よりもやりたいことがある。
(そういえば、最近していないなぁ)
思い出すと、体がムズムズとしてきた。
「なぁ、ドラゴンの解体師殿。話があるのだが……」
オアザが真剣な目でアナトミアを見つめ出す。
そのときだった。
「……おあっ!?」
船が大きく揺れた。
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