お、俺を追放だって!?
新木稟陽
彼の男、王国屈指の魔法使い
「パ、パーティ追放!?」
ギルドホール内、普段滅多に使われない会議室。その机を叩き、思わず立ち上がる男がいた。
名前はプトコン。五属性全ての魔法を使いこなし、その精度・威力・発動時間どれを取っても超一級。彼ほどの魔法使いは現れないだろうと誰しもが確信する逸材。
「なんでだよ! 俺以上にここに相応しい奴なんていねぇだろ!」
「プトコン……」
プトコンの言葉に目を伏せ、申し訳なさそうに言葉を詰まらせるのはキャシア。剣技、胆力、単純な肉体の頑強さにおいて右に出るものはいない、正に『勇者』と名高い男。
「なぁ、やっぱりもう一度考え──」
「キャシア」
顔を上げて一同を見回す彼の肩を叩くのは、前衛での固い守りを担当するガモリッチ。勇者の情けない顔に、回復魔法を得意とするキーワもため息混じりに首を振る。
「なぁプトコン。お前の魔法は確かに凄い。王国一だ。だがな、仲間ってのは強けりゃいいわけじゃねぇんだよ」
「は……? なんだよそれ。俺なんか悪いことしたか?」
この言葉に、キーワの堪忍袋の緒が切れる。
「したよ! しまくったよ!」
「な、なんだよ。俺が何したってんだよ!」
「例えば、例えば! この前のギガントトロールの時!」
巨大な二足歩行の魔物。低い知能も武器を扱う程度にはあり、単純に力が強い。それが、二体。その他雑魚が多数。
キャシアがそれに集中出来るようにと、プトコンは氷の魔法で辺り一帯の床を凍結させた。雑兵は足を滑らせて次々と倒れる。
そしてそれは、キャシアも同じだった。
「あ、あれは……確かに、悪かったよ。で、でも! それはもう謝っただろ!」
「あー最悪その言い方。」
「そっ……それに結局ギガントトロールはキャシアが倒せただろ!」
「あれはキャシアの体幹がイカれてるお陰だっつーの!」
「イカれ……」
キーワは「それに!」と続ける。
「ネズテーメ村の時も!」
辺境の田舎にある村。魔族領が比較的近いこともあって、その標的となってしまった場所だ。
彼の村は疫病をばら撒くモンスターの巣窟となり、もはや生存者など一人としていなかった。
プトコンはそこへ、過剰すぎる炎を放った。
村ごと全てのモンスターを焼失させても余りある火炎は周辺の森へと燃え移り。
「消火作業の方が長かったね!」
「あれはお前がやれって言ったんだろ!」
「森ごと燃やせなんて誰が言ったんだよ! あぁ!?」
「そ、その後だって! 俺が消火で一番働いただろ!」
「っったりめぇだろタコ!」
二人の文句と言い訳の応酬は留まることを知らない。大きく手を叩き、それを制したのはガモリッチだった。
「まぁ、そういうことだ、プトコン。俺達はもう、お前を制御しきれない。付き合っていられない。」
「そんな……」
「わかってくれなくてもいいさ。ただ、3人で話して決めたことだ。」
「ッ……キャシア……」
プトコンは縋るようにキャシアを見る。その間に割って入ろうとするキーワを、彼は手で制して。
「……すまない」
今まで、どんな時でも自分を庇ってきてくれた男。彼にまで、見放された。
「……そうかよ」
「お、おい……」
プトコンは一人立ち上がり、扉へ向かう。恨み節も思いつかず、かと言って礼を言う気にもならず。
「じゃあな」
苛立ちを扉にぶつけて部屋を出る。
行くあてなんて無い。自分ほどの魔法使いとなると、皆萎縮してパーティに加えてくれない。力が圧倒的すぎるから。
考えつく場所は、一つ──
一週間後、衝撃のニュースが王国を駆け巡る。王国屈指の魔法使い、プトコンが魔王軍に寝返った、と。
全国民が悲しみと絶望に声を失った更に数日後、それを上塗りするビッグニュースが王国中に広がった。
魔王軍へ寝返ったプトコンにより、敵将は城ごと吹き飛んだ、と。
英雄として帰還した彼を迎えた、かつてのパーティメンバー。彼を追放した張本人達だ。目撃者によると、何故か英雄の方が深く頭を下げたらしい。
お、俺を追放だって!? 新木稟陽 @Jupppon
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