第二百二十幕 薬莢

※ここから紙芝居


「よぉ…、相変わらず神生(じんせい)舐めきってやがるな」


ラストワードが、エノに話しかける。


「舐められる程度の力しか、持たぬ輩が良く吼える」


思わず、苦虫を噛み潰した顔になった。


「うるせぇよ!」


ラストワードが怒鳴って、二丁拳銃が火を吹く。

それを、エノは左手の人差し指だけを向け。



(メモリアルソルジャー:雷侭旋界(らいじんせんかい))



いきなり、黄色い火花と蒼い雷光を残しながらエノが地面を滑る。


ラストワードの薬莢がまるで、ラストワードから吐き出される飛行機雲の様に吹きだして。零れ落ち、空中を変則時に蹴りながら飛び回る。



その、全ての弾丸をエノは地面から足を放すことなく滑るだけで躱し。


人差し指だけで、その全ての弾丸を止めて右手に素早く移動させその移動させた際に蒼い雷光が糸の様に走っていた。


ラストワードが、息を切らすまでたっぷり四分撃って撃って撃ちまくった。


攻撃が終わった後、右側のポケットをピッと伸ばす動作をしただけでラストワードが放った弾丸が地面に砂の様に落ちていく。


そして、エノが左手の指でちっちっちっと振った。



ラストワードは、高速戦闘で飛び回っていて弾丸もかなり早かったはずなのに。

銃の先端についた刃も使って、近接を仕掛け徐々に攻撃速度を変化させた。



(それなのに…、その程度なのかとあざ笑う)



「数で攻めるのは王道、変則軌道も悪く無い。曲芸の様に様々な銃を出し入れし、最強の一撃に託すのもいいだろう。武器の歴史はコスパの歴史、効率よく相手を殺す為に命の値段が安くなるよう知恵を絞る」


二丁拳銃から撃ちだされる弾丸も、軌道も様々あった。


「その程度では、私は倒せんよ」


緑の電気信号の文字が滝の様に流れ、空のオーロラ全て地上に零れ落ち。

エノは優しく諭す様に、微笑むだけだ。



「てめぇは、本当にバケモンだな」


エノは失笑しながら、冷えた眼でラストワードをみた。


「化け物にならなければ、私の望みは叶わなかった」



空に広がる、電気信号のオーロラが縦に割れ巨大な眼を持つ存在に。



その眼球が、まるで満天の星空の様に。

大地を埋め尽くす、まだら模様の様に。



(メモリアルソルジャー:始閣端心哉視覚覇真也(しかくはしんなりしかくはまことなり))



「お前にも判る様にしてやったぞ、私の視覚と認識を越えてみよ」



その空を見て、ラストワードは青ざめる。



「お前が、神なんて間違ってんだ」



お前は、何処までも俗物的で。

お前は、何処までも嘘つきで。


お前は、何処までも優しい。



「私も、そう思うよ」


※ここまでが紙芝居 


そういって、ぱたりと扉を閉めるクラウ。


「…、今週はここまでだ」

「アディオス!!」



そのまま、自転車で去ろうとした。

子供達が後ろでブーイングしているが、クラウは頑張って走りだそうとペダルに足を踏み込んだ所ですっこける。



エタナが焼き芋を食べながら、おならを断続的に出しながら空を飛んでいるのを見かけて顔から勢いよくエビぞりに勢いのまま滑ってしまった。


ド派手に、自転車ごと横転し紙芝居をまき散らしながら盛大に事故る。


それを、紙芝居と同じように左手の人差し指でクラウを指してゲラゲラと笑っていた。


「あのっ、クソバカ」



更に、挑発するようにエノが空中で体操座りになりながらおならで一曲を奏でるという曲芸をやって。しかも、その音をクラウにだけ聞こえるようにするという、超器用な事を無駄に全力でやっていた。



「相変わらず、腹立つ神様だな…」



しかも、心なしかどや顔なのが余計にむかつく。



「あいつ、神としても女としてもマジで終わってやがる…」


怪しい仮面と忍び装束の自分を棚にあげ、クラウが溜息をついた。



「それはそうと、この散らばった紙芝居どうにかしねぇと」

散らばったそれを、片付けながらため息をついた。



そこで、椅子に座って新聞を読んでいたラストワードと眼が合う。


「よぉ、銭ゲバ。おまえが、すっこけるなんて珍しいな」


片手をあげて、微笑みを浮かべ新聞を半分にして声をかけてくる。



そのラストワードをみながら、神様って普通こうだろ。

キラキラと座っているだけで様になる、爽やか系のイケメン。


どっかの神様とは違って、良識ある態度思考。

クラウは土を払いながら、空を指さした。



「嫌なものが見えたんだよ…」



それを聞いて、何とも言えない顔になるラストワード。


「あれは、どっからでも見てるだろうが。これ見てみろよ、相変わらず邪神共は絶好調で大暴れだ」




新聞には、税金が高くなり過ぎて産業が成り立たず。結果外国に仕事を投げ続けた結果、作物も製品も作り方を全て盗まれて、あげくブランド名だけ良い様に使われて何も作れなくなった国の様が書かれていた。



「これ、国がやってんだったら。この国には何も残らないだろう?相変わらずえげつない事をする。国がやってんだったら、ゾンビ経済で軍資金勝負になるだろうな」



箱舟は多国籍企業連合体だ、それ故当然参加している企業は地元のその国の企業も含まれる。



「箱舟に属してない所を叩き潰すってのはそう言うことだろう?しかも、最初に関税以外の内部の税金緩和して自らの国の産業を蘇生しろって言って聞かなかったから危機をあおる為に中小も含めた絨毯爆撃を全ての産業に対して行ってるだけだろうよ」



そういう事をやらせて、大路の右に出るものなんかいない。



「結局、権力ってのはそれを支える基盤があってのもの。そいつが逃げ切れないように、基盤ごとへし折りにいってるだけだ。とばっちりにあう方はたまらないだろうが、それはそんな政府を許した国民に責任があるってこったろ」



むしろ、そんな絨毯爆撃敢行してまだ黒字だしてるこの組織がおかしいんだよ。



「本当、なんでそんな優秀なのがあれの部下なんだよ…」


もう一度空を指さして、空では炭酸ジュースで一杯やってる幼女が居た。


ラストワードは苦笑して、肩を竦め。


「まっ、力だけはあるからな」


かつての自分を思い出して、読んだ新聞を畳み片手に持って立ち上がる。


つくれなくなった段階で、それは終わってんだよ。

食料も、製品も、そして…。



「人は何かを作って、発展してきたんだから。発展しなくなったら停滞か衰退かだろう、それを時間ではなく高速で早回ししてるに過ぎないさ。お得意の力押しでな、相手が国なら抗えるだろうが神と邪神が組んでりゃ抗うには国や人じゃ無理だ」



お前さんが導いて救ってみるかい、初代聖女様?。


「ちっ、知ってて言ってるだろ。お前も、ロクな神様じゃねぇな」


ラストワードは、もちろん神なんてクソでゴミに決まってんだろ。だって、最高権力者があれだぜ?俺程度の、木っ端に何が出来るってんだ。



「そういや、そうだったわ」そういって、紙芝居を丁寧に戻す。


「俺に救うとか治すとかの権能がありゃ良かったが、俺は生憎と戦争の神様でそんな力はない」



神ってなぁ、権能の方向性だけはかえられないからな。

自転車にまたがった、クラウが溜息を一つ。


「全く…、これだから聖女なんて」


その時の声だけは、元の鈴がなる様な優しい声。


「まぁ、人生そんなものだ。無いものを、ただねだって彷徨い歩く。大抵の奴は、当たりもかすりもしない。ただの、薬莢という抜け殻で零れ落ちていくだけさ」


弾丸を出す為の薬莢は、一度金属が瞬間膨張し威力を最大にして収縮し発射。

錆びず、安上がりで、再利用可能で…。そんな都合のいい合金を作ってみたら、偽物の黄金でキラキラ輝くんだよ。


銃を持ってる奴の為に、命使い捨てて終わりだ。

一度弾倉に込められちまったら、零れる事すら許されねぇ。


それは、人の様だろ?欲や意識を膨張させて、発射されて使い捨て。

輝いてる様に見える抜け殻、偽物の光。


その呟きに、重なる様にラストワードが答えたがそれはクラウには聞こえていなかった。


「神様なんて、ロクなもんじゃねぇ。だって、殆どの神ってのは他でもないその銃を握ってる奴の事をいう」


あそこで屁で空飛んでる神様みてぇに、その銃ごと拳で握り潰せるような奴とは訳が違う。


もしくは、アクシスみたいに己を何処までも高め己の道を究めたそんな奴とかな。


もしも…、もしもだ。


「似非じゃねぇ神なんてのが居るとしたら、そりゃあいつらみたいなやべぇ奴らだろ。間違っても、俺みたいなのじゃねぇよ」

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