第百八十九幕 夢の欠片

「やっとできたぞ、ちきしょうが」


二十四時間三百六十五日応えるAI、囀り(さえずり)が。


ちくしょう、長かった。

長すぎだばかやろうが、だがこれで。


両目を多い、感涙にむせび泣くゲド達の開発チーム。


「後は、無限に仮想を通じて学習させるだけですね」


あぁ、これを完成させるのになんだかんだで二十五年もかかっちまった。


叡智の図書館や職人衆の技データと温度湿度管理と完全連動し、エラーはソースコードぶち込んで聞けばそのまま答える。


無論、そいつの得意な言語で仮想で問えば確実に答えられない事がない人造の全知。


「誰か、質問してみろ」


キーボードでカタカタと音をさせながら質問を投げかける、だがその質問を見た瞬間ゲドがその質問を書いた長老衆の一人の両方のほっぺたを引っ張った。



それは、何故か?。



Q「可愛いアイドルを答えて下さい」


A「個人的な好き嫌い等様々な要因がありますが、この箱舟でもっとも可愛いと思われて支持されているアイドルはリョウコちゃんです」


「いひゃい、いひゃいですってゲドさん」


俺達が二十五年かけて作ったものに、なんてこと教えてやがるんだアホが。


「事実じゃないですか、解答としては完璧ですよ」


結果がよけりゃいいって、問題じゃねぇよ全く…。


Q「こいつの、直近のエラーコードを教えてください」


A「今日更新された、四ページ目のループ条件式が組み立てた時に関数から外れます。至急修正した方がよろしいのではないでしょうか」



その瞬間、ゲドとその長老が固まった。


「ほほぅ、四ページ目って言えば。電子制御の第六百七十ラインのトコだよな、どうなってんだ」


そこで、関数が外れてその式自体が全く意味を成さない状態になっているのを長老全員で確認して。


「なおせよ、なおしかたもソースをコピペしてこいつに聞けば教えてくれる」


真顔で、ゲドが言えば。ほっぺたをつねられていた、イオもはい…と返事する。


以前、女神エノに全部エラーとか洗い出しして改善図まで出してもらったやつが居た。


そのエラーも含めて、尋ねたら何とかしてくれるのを一部でも人の手で実現できねぇかと考えて作ったのがこれ。


「これを、格安もしくは無料で提供して更に経験値と知識を徹底的に学ばせろ。俺達だけじゃ当然穴だらけだからな、どっかの企業が何か言ってきてもとりあえず無視しろ。これはまだ試作品で、本稼働はまだまだ先だ。流石にド田舎の街角ベーカリーみたいなところの今日のおすすめまでこたえられるエノと比べたら月とすっぽんだしな」


全ての質問を0,5秒以内に解答全文出る様にしろ、その上で解答精度を俺達全員が良しと言うまで押し上げる。


ソースコードを厳重に保管し、金庫フロアに入れとけ。

あんなもん鍵無しで開錠できるわきゃないからな、あそこにいれときゃ安全だ。


箱舟本店は、専用フロアが山ほどある訳だが最重要とされたものを保管しておくフロア丸ごと金庫になっている金庫フロアのセキュリティは銀行や軍事施設の何億倍も頑丈。


あの力を有料な権能ではなく、格安で誰にでも手に届くサービスに変える。

技術ってなぁ、素晴らしいモノを誰もが手に出来る様に知恵を絞った集大成だ。


(銃も、仮想もかわりゃしねぇんだよ)


「まったく、他の仕事と平行でやるもんじゃねぇよなぁ…」


最近人手が増えてきたとはいえ、箱舟本店の仮想部隊の仕事は無茶苦茶出鱈目に多い。


そりゃそうだ、考えても見て欲しい。


箱舟グループのソフト、アプリ。

配線やリサイクルなどの機器製造と管理。

検索エンジンやAI、ゲームやら動画サイト等。


仮想にまつわるストアやスマホやら仮想マシンの販売まで、仮想にまつわる所はほぼ全部この仮想開発事業部の仕事だ、最近は病院の薬品管理やら病床データベースに遠隔治療ユニットの開発などまでやってりゃ手が幾らあっても足りる訳がない。


むしろ、魔族だったから寿命が足りましたまである。

それでなお、平行でこんなものを完成させてしまう程度にはここの事業部は優秀を極める。


金融関係の取引で、実態通貨や権利書などのやり取りを高速で行う事で為替利益までむさぼっているだけでなく。仮想事業部のシステムは、不可能を可能にしてきた。

だから、ここには箱舟の何処も無茶を言えない。


(言うとしたら、ダストか神位なもの)


予算が足りなければ、自分達で勝手に予算をこしらえる。


「箱舟が破綻しないのは、この仮想事業部の連中の様なヤバいぐらいの天才がダース単位で何とかしていて。その報酬を神が約束するという、酷いブーストがあるから何とかなっている」


というのがその実態であり、少なくとも働いてる側は大体そう思ってるから不満は少ない。


「あいつらみてぇになりてぇのか!」(いろんな意味で)

というより、無茶を既に通しっぱなしなので首絞められるのが既定路線まである。


「洒落にならんわ、全く」


今日も口癖のように誰かが言えば、無言でインスタントコーヒーをいれて配り始めるイオ。


「はろわから引っ張ってきてもらった、新人たちはどうよ?」


頭の後ろに手をやり、もういい加減年を取りすぎて居るのに学生みたいなノリで長老の一人が言った。


「まぁ、要教育って感じだが。それでも、めちゃくちゃ助かってるよ。流石にはろわの審査ぬけてくるだけあってみんな真面目だし何よりちゃんとこっちと会話できるってのがデカいわ」


イオも苦笑しながら、会話に混ざる。


「最近コミュ障とか、笑顔がねぇやつとか後もういい加減ダメになってから聞くやつとか多いですからね。いやまぁ、失敗は俺達にもあるけど笑顔がねぇのはやべぇわ」


笑顔がねぇって事は余裕がねぇ、余裕がねぇから集中力がねぇ。

そして、集中力がないからミスをして余計に余裕をなくす。


「まぁ少なくとも本店で失敗咎められたなんて話は聞いた事ねぇですけどね、AIにアイドルとかうちこむような奴は一杯いますけど」


「後、語尾ににゃん♪だとかござそうろうだなんてつけさせようとたくらむ奴とかな。やめろよ、一応コンセプトは汎用なんだ。当然全ての言語で方言は対応せず標準語基準で行くって決めたのに、変な言葉教えるの」



そういうのは、新人に冗談言う時だけにしとけよ。

お前ら幾つになったんだよったく、その時長老の一人がこんなとしになりました。


「ワイ今日が誕生日、誰か祝って奢って♪」


社員証を見せながら、ゲドに言えば。


「バーカそういうのこそ、はろわに言えよ。祝うのは良いが、奢るのはルールに接触するかもしれねぇだろ。俺はイヤだぜ、トラブルになるのは」


今日はめでたいし、物も完成したしで俺の責任で全員でバックレるか。


「良いですね~、コーヒー飲んだら帰りましょうか。」

全員がいそいそと、片付け始めるのを見ながら。


「んで、どこ行くんだよこんだけ人数が居たら今から行くとこに連絡しなきゃいけねぇんだが。焼肉か?サラダバー?それとも、酒場横丁か?いいから決めたら教えろよ電話すっぞ」


「あっいけねぇ、決めてねぇわ」


誰かが言えば、みんなで爆笑しながら。


「このままいくと全員でまさかのビール箱買いでここに戻ってきて、飲み会になるんだが?」


レトロなオイルライターをもてあそびながら、笑顔で雪乃が笑う。


「それで前回はキーボードクラッシャーに俺はなるとかいった奴がモニター破壊して大惨事になったんでしたよね」


そりゃおめーの事だよと、全員が一人の長老縁(ゆかり)を指す。

頭をかきながら、わりぃ覚えてねぇわと返すここではそれが標準。


「ったく…、じゃ俺が勝手に独断と偏見で囲炉裏(いろり)に連絡入れとくぞ」


ゲドが、受話器を持って溜息交じりにダイヤルをまわし始める。


「「「「アイアイマム!」」」」


全員が笑顔で、ゲドに敬礼した。


長老衆、男女合わせて六百人。

この下に、様々な仮想部隊チームが編成されているが頭をはれるのはこの六百人。

正真正銘の実力至上主義で集められた、箱舟仮想事業部のエース達。



実力があれば、敬語はいらねぇ。

実力があれば、働く時間から服装まで申請さえ通してりゃ自由。

だが、そのもっとも頂点に立つ男ゲドは極めてなんでもルーズな男だった。


全くあいつら、こういう時だけアイアイマムじゃねぇよ。


「やっぱ職場はこうじゃなきゃな、少なくとも俺がボスの内は」


おう、お前らもし俺の変わりに長の椅子に座る事があっても部下から信頼されるとこだけは失うなよ。


そういうと、全員が真顔になって横に顔を振った。


「いや、そう言う訳にもいかねぇよ。あんたにはまだまだ現役バリバリでいてもらわにゃ残される方はたまんねぇわ」


幸い、この箱舟本店は自分で辞めなきゃ定年はねぇ。

なんなら報酬で若さや時間を買ってもいい、年食っても脂っこいもんや酒を飲めるなんてな。


(最高だろ、これで仲間がいりゃよ)


「仲間というよりは、一緒に苦しみ隊みたいなもんですけど」


(うるせぇよ、事実だけど今いうんじゃねぇ)


酒がダメな奴は店員に言っとけよ、じゃないと知らずに持ってきちまうからな。


最初の頃電源の事で軍犬隊にどなりこまれたなぁと思いながら、電源をそっと押して画面を閉じる。


「少なくとも俺が頭の内は、実力以外何も求めねぇよ。言いたい事があるなら、コード出せや。喧嘩も説得も講釈たれるのも、ハード用件やお客の要望何処までクリアしてるかで語れや」


じゃなきゃ、俺達が死ぬまでに終わらねぇだろうが誰がやんだよこのクソみたいな仕事をよ。


「ちげぇねぇわ、ゲドさん」


私が婆になって死ぬまでには減ってて下さいよ、そろそろ腰が痛くて仕方ないんですから。


誰か、座椅子を用意して差し上げろ。座布団もだぞ、なんてゲドがいえばみんなが笑いだす。


増える事があっても減る事がねぇ、全く何処までヤル気なんだかあのクソスライム。

まぁいいぜ、少なくともおれはココに来ちまったんだ。


(くたばるまでは、付き合うさ…)


「一流は他人を当てにしない、そりゃあの屑神見てりゃ判るがよ。残念ながら俺は一流でも何でもないただのおっさんなんだわ、そろそろ爺に片足突っ込んでる悲しい中年なんだわ。限界位わきまえてるっつーの、他人あてにしなきゃやってられんのよ」


さて、お年寄りらしく自分達を鼓舞してほめちぎって甘やかして…。

若者の道しるべになってやらにゃな、あんな風になりたいと思われるくらいじゃなきゃ誰もついてこんわ。



誰もついてこない、組織に未来なんてあるかよ。

女神エノみたいに、何でもかんでも一柱で可能で絶対負けねぇならそもそも組織なんていらんわけだしな。



それに…、おっさんだって夢位みたいだろがよ。


なぁ、最強無敵のクソニート。

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