第百七十幕 郷壕合(ごうごうごう)
「はぁ~、クソ寒いねぇ」
そういって、白い息を吐いているのは広木(ひろき)だ。
「そういうなって、箱舟グループは他と比べりゃ随分マシだよ」
外の箱舟グループの業務用スーパーの駐車場横にある、融雪壕と呼ばれる穴に降り積もった雪をシャベルやソリで投下しながら同僚は苦笑した。
地域によっては雪というのは家を潰すぐらいつもるし、足元が見えなくなって落ちてしまう人だっている。
ゴミがつまるから等の理由で、重機で雪をいれる事が出来ない地域だってある。
そして、雪をいれずにスイッチを押すとヒーターやボイラー部分が焼けてしまい使い物にならなくなるなんて事も普通に起こる。
ちなみに、一応これは融雪壕として使っているが箱舟本店漢研究所エルフ設計、ドワーフ匠達による一品。
その名を「社畜壕(しゃちくごう)」という、相変わらず酷い名前と高い技術力でおなじみの連中が作ったものだ。
シーズンの間絶対に休めず、使い倒すその意志が名前からあふれ出ている非業の装置だがその性能たるや凄まじいものがある。
まず、普通の融雪壕では雪をソリで入れる事からソリ一杯を一という単位で計算し。こうした駐車場にあるものは、大体五十入るようなものが普通サイズとしてある。
※あくまで単位の話を書いてるだけで、実際はもっとデカいサイズが普通の地域もあります。
雪を溶かした事のある人間なら判るが、たき火で溶かそうとした場合熱は上に向かうので真っすぐ穴が開く様に溶けるが横はむしろ溶けた水が流れてきて固まり冷えてなかなか溶け切らないと言う事が起こる。
だから、水流を使って溶かしていくのだが汚れた雪や汚れたゴミ等がつまる事が理由で雪の溶けた水を使うのにはワンクッション必要となる。
だが、この融雪壕なんと雪をいれると水素と酸素に分解。マイクロ水素爆発を起こし、爆発エネルギーを発電機に伝え発電しながらヒーターを廻し電力を建物に供給しながら雪を溶かすという仕様になっている。
ちなみに、雪のシーズン以外に雪以外のゴミをいれても発電出来てしまうのは別の社員が確認して顔中血管だらけにして壁を殴っていた。
その為、雪をいれたら入れた分だけ発電でき。
発電した電気で業務用スーパーの暖房どころか、店舗営業時の電力の三分の二をまかなえてしまう代物。
ちなみに、やろうと思えば電力は街一つ分。全て賄えるがそれをやってしまうと流石にこの融雪槽の能力がばれてしまうので。一応節電の一環という事にして、しかも本社の連中が勝手にやった事なので問い合わせは全部本社にして下さいという事で話をまとめている。
※本社の連中が勝手にやったという部分しかあっていないが。
しかも、サイズは家庭用灯油ストーブを真上から見た時ぐらいの面積しかない蓋をあけて雪をいれるだけで自動で電源が入る。
ゴミや汚れはどうなるかというと、水素と酸素以外のものは分別されて下の層に落ちるのでゴミの日に出せば良いと言うだけなのだ。
※ゴミを出し忘れても、スイッチを全シーズンに変えるだけで跡形もなく処理出来てしまう上放射能や産業廃棄物もクリーンエネルギーに変える代物。
分解できないのは、人や犬猫など説明書に書いてあるものだけでその場合分解せず下の地下室に落ちる。
なんと、分解された後。水として再構築した分が雪を溶かすための流水にもなるので流水用のタンクは飲める真水が溜まっている。その為、蛇口がついていてタンクローリー三十台分の水タンクとセットになっているのである。
「これ、ばれたら絶対自分達の所にもつけろって騒ぐ奴いるよな」
同僚が溜息をつきながら、だからこれはただの融雪槽の形でここにあるんだろと苦笑した。
広木だって、こんなのが家にあったらどれだけ電気代が安くすむかなんて妄想したことだってある。
「本社の連中は、エネルギーだって好き放題使えるのになんでこんなもん作ったんだか」
※基本技術バカなので、つくってみたいものを作るだけだったりする。
「俺達は助かるけど、にしてもこれすげぇな。普通の融雪槽ってもっと雪溶かすの時間かかるだろ」
いれた側から消えていく様をみて思わずうなる、融雪槽といった所でヒーターと流水で溶かす以上三十分以上雪の量によってはかかる。
だが、分解の速度がおかしい。
側面や蓋に雪がついたら普通は凍り付くが、それすら水になって溶けていくのである。
試しに同僚がダンプ一杯の雪をまるで塞ぐようにいれてみた、そしたら地面から底冷えのするようなゴゴゴゴゴゴゴゴみたいな低音が響き。
「想定以上の雪が検知されました、フルパワーを起動します。十メートル以上離れて下さい」
と無機質なアナウンスが流れたあと、まるで古い業務用掃除機みたいな音を立てて雪が全部吸い込まれて残ったのは十メートルの円形に雪だけ無くなった駐車場だった。
「「マジかよ…」」
約十五分程度でまるで風呂でも沸いたみたいに、不思議なオルゴールがなって「雪が溶けました」とアナウンスがあり地下からの音は消えていった。
「普段、音がしないって事はどんだけ余裕みて設計してんだこれ」
しかも、自分達がこの業務用スーパーにつとめて二十年はたっているが壊れたと言う事もメンテナンスしたと言う事も一切聞いた事がない。
そのくせ、人やペットが可動範囲にいると動かない安全装置までついてやがる。
※省エネの時は蓋面積の上に人がいると反応しない
「これ、欲しいなぁ」
毎日家に帰って疲れた体に鞭打って、屋根の雪をおろしてるといつも思う。
しかも、ものすごく無駄な機能としてコントロールパネルの下部分に超小型高性能電子レンジ1200wとか取り付けられている。
豪雪地帯では、缶ココアなんて買っても秒で冷え切ってしまう。
しかし、このコントロールパネルの下の電子レンジは発電した電力で保温調理までをボタン一つでやって熱々の肉まんやココアが楽しめる。
まさに、普通はどっかに捨てて来たを地でいくのが箱舟本店。
「ほんと、こういうのもっと売ってくれよ本店は」
本店は、不足があってはならないをモットーに掲げるヤベェ連中だ。
これで、外で雪かきが辛いですなんて言ったら次は雪を室内から投下できるようにする運搬ドローン(充電式)とか持ってきそうだ。
つか、絶対あいつらなら持ってくる。
そん時、家に帰ってシャベルで雪かきなんかしてみろよ辛くて耐えられねぇよ。
今でも、なんでやって思いながら働いてんだぞこっちは。
長年勤めあげている人間ほど、箱舟本店のやりたい放題は諦めているレベルだ。
「こっちはホワイト待遇だから、そういう意味じゃ文句はねぇんだけどよ。おい、エロハス。ココア温まったから、冷めないうちに飲もうぜ」
そうすると、同僚は肩を震わせて叫ぶ。
「誰がエロハスですか、広木さん。いい加減、私の名前間違えないでくださいよ。私は弐戸蓮(にこはす)です」
そういって、にこはすが広木からココアをぶんどってカシュっとあけた。
「ふぅ~、温まりますね」
どこか、ほっとした顔でにこはすが微笑む。
「そういえば、先輩。本店が、またロクでもない事やるみたいですよ」
にこはすが、空になったココアをゴミ箱に投げ入れた。
「聞いた聞いた、ガソリンの値段が不満だから安売りするとか言い出したんだろ」
いや、俺達だってたけぇとは思ってたがよ。
値段下げさせるために自分達で、安売りしますとかどんだけえげつねぇんだよ。
「んで幾らで出すって?六〇ぅぅぅ!?あいつらいつで頭の中の時代止まってんだよ、六〇で売れる訳ねぇだろ。えぇ、自分達の油田と生成プラント作ってそっから出すって?税金考えたらそりゃただ同然で配るって事だぞ。何、税金も働きかけて下げさせる下げなかったら本店が先払いして売る時はその売値に何が何でもするだぁ?」
それと同時に撤退も視野にいれて、国の店を片端から箱舟連合で染め上げて撤退されたくなかったら減税か滅税しろっていうつもりだって言ってましたよ。
今箱舟グループに撤退されたら、経済ごと壊れる地域がどれだけあると思ってんだあいつら。と思ったが、大路とかならやりそうだわ。
あの、邪悪な顔の老人の顔を二人で思い出してうぇぇぇとなる。
「クリスタ先輩なんて言ってるんだ?」
にこはすが似てない物まねをしながら、「今回は、やむなしだ」だってさ。
「はぁぁぁぁぁ?クリスタ先輩が飲んだ?そんな無茶苦茶を?マジかよ、あの人大路にも食って掛かる様な人だろ」
同じ本店幹部でありながら、常識や良識を弁えた大き目の丸眼鏡をしたキャリアウーマンの姿を思い浮かべて唸る。
「今回の話の出所が、ダスト様と特別顧問だからって言ってましたよ」
あぁ~、なるほどなと広木は納得できた。
「今回は、情勢の不安定で戦争不可避のムードになってるから。その影響で、燃料やら金属は爆上がりしてるし。箱舟グループ以外の企業は給料だってほぼ横ばいだろうから、生活苦しいだろって言ってさ」
特別顧問が余りの対応の酷さにブチ切れてるらしいぜ?
値上げ増税はすぐやる癖に防衛や救済は予算を理由に言い訳して遅すぎるって言って。
「困ってる奴は今日明日で死ぬ奴だぞ、それこそ死ぬ気で急げドアホ」ってさ。
だから、減税とモノの値段を放出する事で全般の値を下げる事を並行でやるって?
世界企業が本気で、価格を下げて削りにいくのか。
訴えるなんて事はしない、ふるいにかけて叩き落としに行く。
貰える給料が高くても水が使えなけりゃ不便だ、物価が高ければ実体は良くならねぇ。
だったら、実態ごと無理矢理強制しにいくって?
本店の幹部連中に、そんな無茶苦茶飲ませたんか特別顧問は。
「そりゃ、その下の幹部連中があんな無茶苦茶いう様になる訳だ」
てめぇがどれだけ損しても、絶対にやり遂げる。
「何もかもほおり出してでも、叩き潰すか」
そりゃ、クリスタ先輩が飲む訳だ。
「先輩は、特別顧問の方見て仕事してるからな。社長とか会長とかじゃなく、そこが出所ならあの人は飲むだろうよ」
「忙しくなるな、俺達」
どこか、楽しそうに言えばひろきとにこはすが肩を震わせる。
「暇になって首になるよりは、いいんじゃないですか?」
にこはす…、お前。
「私は、助けてもらいましたから。一度ぐらいは助け帰さないと、後ろ指刺されますよ」
広木は溜息を一つつくと、笑い出す。
「なぁ、にこはす。クリスタ先輩、どの位やると思う」
にこはすは苦笑しながら、広木に体を向けた。
「徹底的にやると思いますよ、特に水や食料やエネルギーみたいに生きるのに必要なものは特に」
その為にクリスタ先輩は、漁業関係者や農業従事者と特別な契約を結んでる訳だしな。
テロや爆弾使う訳じゃなく、ただ安く売れってだけですからね。
あのアホみたいな技術力で転売防止策とか作って、貧しい奴にこそ生きるに必要な物資だけは何とかしろって事でしょ。
言ってる事が正しくて、それが法の範囲内ならクリスタ先輩は容赦しないですよ。
「優しいだけで、特別顧問は大路の同類だからか」
二人して、だろうなぁと笑う。
笑いながら、再び降り積もる雪を壕にガンガン入れていく。
「本店は知ったこっちゃねぇとばかりに、気に入らない事は破壊しにくるからな」
あんなんで世界三指の巨体を誇りますからね、振り回される世の中は大変だ。
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