第五十五幕 仮想の奏者(かそうのそうしゃ)
まったく、このヤバい要望書の量…。
ベテランの俺達でも、そろそろマジでやべぇ。
ゲドは溜息交じりに、ウィンドウを流し読みしていた。
という訳で、俺達ははろわに求人を出した訳だが。
面接、マジかよ…。
まさか、そんなに来るとは思わなかった。
流石、怠惰の箱舟。仕事が早え、どうなってんだよここ。
普通、システム屋とかコンビニ店員なんて薄給の過酷な仕事なんざ誰もやりたがらねぇから求人だしても直ぐに来ねえ。
来たとしてもまともな奴は直ぐに抜けてくし、そもそもそんなに来るなんて想定してねぇよ。
なんだよ、翌日に審査希望者六百名って。
教育なんか追いつかねぇし、はろわに聞いたらここじゃどんな職業でも定められた最低水準の労働保証と自身の努力が全部直接跳ね返る仕組みがあるからどんな仕事選んでも大差ないですよだと?
ここじゃ薄給になるのは職業じゃなくて、スキルが低いとか輪を乱すとかそういう明確な理由がある時だけだと。
あぁ、報酬は箱舟側が払うんで社員教育とか少しでも居心地よくするための努力はした方が良いと思いますよ。転職は外よりしやすいんで、逃げやすさもピカ一ですからね。
後、落とすなら理由とか書いて下さい。スキル不足とかでもいいし、この位の水準出来て欲しいってのがはろわ側にあればそれは次から考慮します。
「募集自体初めてですから、その辺も相談って事で」
俺は責任者らしく、面接してもいいと思った奴を片っ端から予定表に組み込んだ。
仕事しながらの超激務だが、まぁ募集した手前それは俺がやるべき仕事だ。
ここじゃ、定時に帰れなかったら軍が飛んでくるからな。
普通のとこなら仕事が終わったら、人員を回してもらえないのが普通だ。
ここぐらいだぜ、人が欲しいって言ったら次の日に希望者リストぶん投げてくるふざけた所は。
結局俺が信頼してる、グループリーダー全員で円陣組んで面接に全員来いって言って納得させたけどよ。
クリエイター側の要望書がマジで最近増え過ぎて、入力だけでもやって貰わないとマジで手が足りない。
俺達、一族総出で今までやってきたし。一族以外の奴に触らせたくもねぇしと思ってやってきたんだが。
「もう、最長老の俺の権限で無理矢理黙らせてでも。一族の外に技術が洩れようとも、諦めざる得ない程度には切羽つまってんだ」
その言葉に、長老衆が全員高速で首を縦に振った。
「もう、贅沢は言わねぇ。教えてくれって言われたら全部答えて構わねぇ、イジメや悪口言って逃げられたらたまらねぇからそれも許せねぇ。とにかく、取れると思った奴は全員採用でいい」
長老共に、自分のチームに欲しいと思ったら紙を一人づつ採用枠分渡すから書いて俺にくれ判ったな。バッティングしたら、本人の希望を第一に聞くからな。
鬼の形相で、必死に念押しした。
俺も含めて、頭数が欲しいのはみんな一緒なんだ。
どうせ、募集打ち切らなきゃこの希望者リストってなぁ定期的に来るらしいし。
求人すら増やしてくれ、減らしてくれは今日明日で叶うのが怠惰の箱舟総合機関はろわの処理能力だっていうんだから何処まで優秀な連中だクソが。
あいつらあれで定時帰り、週二休み祝日ありってんだからふざけんな。
営業日基準で一日あれば、大体怠惰の箱舟内部の事は処理出来てるってんだから優秀にも程があんだろ。
くそ、こんなことなら余裕ある時にでも求人出しとくんだった。
何百年ここで、しきってると思ってんだ俺は。
自分の無能具合に吐き気がするわ、畜生が。
魔導炉(データーベース)、魔導陣(サーバー)、魔導針(回線インフラ)、魔導源(ソフト側の制作保守)……。
数多、怠惰の箱舟のハードからソフトまで一律でそれぞれのチームに振ってるが。
なんで、そんな名前のチーム名にしたかも覚えてねぇ。
その内、魔導うさぎさんチームとかでもやるか?
いやいや、そうじゃねぇ。んで、面接当日に思ったんだがよ。
「まともな奴しか来てねぇってどういうことだよ…、これじゃ落とせねぇよ。助かるけど、どうなってんだ」
俺は、はろわに電話したんだよ。
そしたら、あいつら電話越しになんていいやがったと思う?
「あぁ~、性格に問題があるやつはこっちで弾かせてもらいましたよ。あくまでも、貴方方に面接してもらうのはチームでやってけるかどうか相性を見てもらう為のもんですので。仮に演技や詐称があったとしても、はろわの審査抜けてる時点でダスト様から合格もらった人しか通せない決まりなんです」
んだとぉ~、聞いてねぇぞそんな事。
「つまり、俺達的には取れる奴しか来てねぇし。向こうも待遇に納得し、審査通した奴しか来れねぇ。それを、たった一日で即応して希望者リストにして回したってのか」
有能かよ、くそったれ。
そして、無能は俺だけかよくそったれが。
こんなことなら、二百年早くはろわに頼むんだった……。
つか、外と違いすぎだろそりゃ。
外の感覚で、必死こいて働いてたわ。
確かに人員も増えた、報酬も変わらず滞りなく払われてる。
でもまさかと思って、一か月単位で求人出し続けてたら本当に毎月持って来やがる。
これ、毎日でも対応しますとか言ってたけどよ。
業務中に面接やる以上、そりゃ無茶だろ。
途中から、信頼して集団面接に切り替えたけどよ。
人数も、最初と比べて少しづつにしてもらったんだよな。
長老共、いい笑顔で孫でも遊びに来たみてぇにしやがって。
無能な、最長老ですまねぇ…。
相変わらず、何処までも小ばかにしやがってからに。
助けて神様なんて、呟いたら腕輪が反応しやがる。
時間を圧縮する事も、時間の進みを自在に変える事もやりまっせ。
「高けんだよぉぉぉぉ、助けるけど残念☆有料ですってか」
外と違って、このポイント払ったらマジで一日が三百時間とかの進みに変えて帳尻合わせてくれるんだろ。
知ってんだぞ、俺は。
冗談でも、間違いでもなく。気がふれてる訳でももちろんねぇ、それは良く判ってんだ。
だからって、俺の呟きにすら一々自己主張でこれ見よがしに反応してんじゃねぇ!。
普通はな、人が欲しい。安く働いてくれる人が欲しい、だから中途じゃなく新卒が欲しいんだよ。当たりハズレはあったとしても、当たりを引きゃエース級だからな。
ここは、違う。
報酬は好きなだけくれてやる、望みは何でも聞いてやる。
但し、己でエース級になれるまで努力してつかみ取れってとこだ。
誘惑は鬼の様にある、少しでも負けたら後はずるずるだ。
そして、大それた願いにはそれだけ恐ろしいポイントを要求してくるんだ。
「助けて神様は、有料だからな嫌がらせみたいに」
エース級の人材しか引けない求人がしたいって言ったとしても、はろわに言ったら運だが女神に願ってポイント払うやつはその通りになっちまう。
自分より有能で誠実で確実な部下が砂漠の砂みたいに送り込まれてくる、そんな事は判ってんだ。
「だからこそ、俺は技術者としてその一線だけは超えちゃいけねぇ」
ノルマは要求されない代わりに、全ての奇跡に支払いを要求してくる。
査定とルールには鬼厳しいんだ、俺が目を疲れない様にして下さいって言った時幾ら払えって言って来たか考えたくもねぇ。
「そんな、悩みさえ紙一枚ひっくり返すみたいに簡単に叶えやがって」
確かに眼はくっきりはっきり見える様に治ったし、疲れないようにもなったけどよ。
外の神や悪魔どもと違って、苦しもうが死のうが知らんぷりなんて事はねぇ。
外の支配者共とちがって、ごま油みてぇに絞ろうって発想がねぇ。
「仮想の作り手、担い手の最長老であるこの俺が度肝を抜かれた位だ。そして、仮想は所詮仮想で現実じゃ決してない。だが、その仮想ですら、現実と入れ替える事すらポイント次第で請け負うと来たもんだ」
何がやべぇって、普通はロジックに干渉したら相応にしわよせや揺り戻しってのがあるんだよ。じゃなきゃ、アルゴリズムやクロールは成立しねぇからな。
仮想はデカくなればなるだけ、修正したら修正したぶんだけどっかでずれて歪んで動作を保証する事が難しくなる。それでも、セキュリティや機能追加でソフトの寿命が終わるまで戦わなきゃいけねぇんだよ。
ソフトや機械の根幹部分に手を加えずに、望んだ結果になる様に自動で改ざんしやがるんだ。
手を加える事も、加えない事も自在。
運命も、動作も変える事無く。
結果とその結果になるように、ルートを完全動作で書き換えるなんざ神業にも程がある。
名乗る神じゃなく、マジもんの神。
仮想でなら俺も理解出来るが、それを現実で強制出来てしかも間違えないで動作不良もしないなんざ反則だろうが。
俺は、てめぇの力を誇りにしてんだ。
俺は、最長老になってもまだ仮想技術者として上に行きてぇんだよ。
だから、女神エノ…。
アンタに最初に言われた事、忘れてねぇぞ。
「若さは未来だ、命は未来と希望あってのものだ。若いうちに苦労しろなどという奴はゴミ以下だが、若い時間は一人一つしかないのだ。充実しろ、楽しめ、一秒たりとも無駄にするな」
俺はな、自分が老害になってもアンタのその言葉は死ぬまで忘れねぇわ。
「私なら、その一つしかないという事実すら改ざんして捻じ曲げる事は出来るがね。当然お高い、それを払うのなら叶えようとも」
だから、エノ。
俺はさ、魔族で仮想技術者で。
決して、勇者でもねぇ、魔王でもねぇ。
神でも無けりゃ、あくまでもねぇ。
妖精みたいに可愛いもんじゃねぇ、ただの腹のたるんだおっさんだ。
一秒たりとも無駄にするな、ねぇ…。
俺はさ、老害でいい。
俺はさ、腹がたるんでたってしかたねぇ。
でも、てめぇで努力して歩く事を技術者として諦めたくねぇ。
俺と同じ気持ちの奴なんて殆どいねぇだろうよ、働くってのは結局金だ。
金にならない、仕事は仕事じゃねぇ。
ここみてぇに金より価値のある、ポイントがあれば話は別だが外はそんな風にはなってねぇ。
自分だけに出来るなんてクソだ、人を導けて超一流。
アンタに、助けを求めるのならもう己でどうしようもないそんな時に限るさ。
「なんせ、お高いからな」
求人表を、チェックしながらそんな事を考えてふと苦笑してしまう。
「俺は仮想の奏者だ、現実に溜息しながら完成して動く仮想を見ては一喜一憂するだけさ」
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