王国を追放された聖女は、史上最恐の殺人鬼になる~狂気の邪剣を手にした私は陥れた奴らを皆殺しにします~

タダノカツオ

第1話 プロローグ

 夕焼けの光がレミーラ王国の中央広場に置かれた断頭台を照らしていた。

 多くの民衆が彼の最後を見ようと詰めかけている。



「これより、世紀の極悪人! "貴族狩り"グラウス・マグナリウスの処刑を執行する!」



 ギロチンの前に引き出されたグラウスは、狂気に満ちた笑みを浮かべ観衆を見渡した。

 彼の表情に観衆は恐れを抱く。彼の眼はこれから死ぬというのに、生き生きとしていたからだ。

 まるで死を恐れていないかのように……。



「罪状を読み上げる! 我が国に住まう約100人もの貴族達の殺害。及び、その家族の殺害。そして、国王陛下並びに王妃殿下の殺害未遂だ」



 執行人が罪状の読み上げを始めると、グラウスの笑みはさらに深まる。

 しかし、執行人は気にせず粛々と罪状を読み上げた。



「以上で罪状の読み上げを終える。最後に何か言い残すことはあるか?」



 執行人の言葉に、グラウスは狂気を含んだ笑い声を上げながら言う。



「ククク……ハァーハハハッ!! 言い残すことだって? なら言わせてもらう! この国に住まう愚かな貴族共ッ! お前達は俺を殺せば満足するのだろう!? だがな、俺を殺したところでこの狂気の宴は終わらねぇ! 俺は必ず地獄から戻ってきてやる! その時がこの国の最後だ!!」



 彼は声高々に笑い叫ぶ。彼の言葉を聞いた人々は、より一層の嫌悪や恐怖感を抱いた。

 執行人は彼を無理やりギロチン台に抑え込むと、大声を張り上げて言った。



「ではこれより刑を執行する!」



 執行人の宣言と同時に、大勢の民衆たちが歓声を上げる。

 その声は周囲の建物を震わせる程だった。

 そんな歓声の中、ギロチン台の刃が落ちる合図である鐘の音が鳴り響く。

 同時に、グラウスが叫んだ。



「また会おうぜェ! クソったれの貴族共ッ! ハァーハハハッ!!」



 その瞬間、けたたましい金属音と共に彼の首が宙を舞った。

 首を失った胴体からは鮮血が飛び散り、辺り一面血に染まる。

 こうして、史上最悪の殺人鬼、"貴族狩り”グラウス・マグナリウスは処刑されたのだった。




 * * *




 史上最悪の殺人鬼が処刑されてから100年後のレミーラ王国――

 私、フルーレ・ベルセリアは突然王城に呼び出され、サリウス王子から信じられない発言を受けていた。



「フルーレ・ベルセリア! 貴様は聖女でありながら、あろうことか私の愛しい妹ルミナスに毒を盛り、殺そうとしたな! その悪しき行為、断じて許すわけにはいかない! よって、貴様を国外追放とする!」



 私はあまりの衝撃的な言葉に言葉を失い呆然と立ち尽くした。

 私がルミナス様に毒を飲ませた? 一体どういうこと……? 私には全く身に覚えのない事だった。


 ルミナス様はサリウス殿下の妹君だ。とてもお淑やかな性格の方で、いつもニコニコ笑っていて周りを明るくしてくれる可愛らしいお方だ。

 私も王国勤めの聖女であることから何度も交流があり、よくお茶会にお誘いいただいている。

 ルミナス様にはとても仲良くしていただいて恩義も感じている。そんな彼女に対し、害しようなど一度も思ったことはない。明らかに冤罪だ!



「待ってください、殿下! これは何かの間違いです! 私がルミナス様を殺そうとするなんて、そんなことあるはずがありません!」



 必死に反論するが、サリウス殿下は私の言葉を聞き入れようとはしない。それどころか、私を睨みつけながら言った。



「黙れフルーレ! すでに調べはついているのだ! 貴様がルミナスに聖なるポーションと偽り、毒入りのポーションを渡したことは分かっているのだぞ!」


「そ、それは……」



 確かに数日前、私はルミナス様の体調が優れないご様子だったので、私の聖女の力を使って彼女の体を癒すための聖なるポーションを生成し、彼女に手渡した。

 あの時は、「ありがとう。あとで飲ませていただくわ」と嬉しそうに受け取ってくれたのだが……。

 まさか、私が渡したあとに誰かが毒入りのポーションに取り換えた……?



「ルミナスがポーションを飲んで倒れたとき、幸いにも近くに治癒魔法が使える侍女がいてな。おかげでルミナスは一命を取り留めたが、今だ意識は戻っていない」



 サリウス殿下は悔しそうな表情で拳を握りしめる。そして、私を睨みつけながら言った。



「……本当に残念だよ、フルーレ。貴様は今まで我が国の聖女としてよく貢献してくれたが、まさかこんな悪事を行うとはな……。本来であれば、その首を刎ねてやるところだが、父上に止められてな。仕方なく、国外追放で済ませてやるというのだ。幸運に思うのだな」


「そんな……! 殿下! もう一度お調べになってください! 私は決して悪事などしておりません!」


「……もういい、連れて行け」



 サリウス殿下の命令に従い、数人の兵士が私に近づいてくる。そして、抵抗する間もなくあっという間に拘束されてしまった。



「離してっ……! お願いです、殿下! もう一度調査を……!」



 泣き叫びながら必死に抵抗を試みるが、屈強な兵士たちの前では私の力など無力に等しいものだった。

 そのまま引きずられるように部屋から連れ出される。去り際に見たサリウス殿下の顔はまるで汚物を見るかのような冷たい目をしていた。

 私は絶望に打ちひしがれながら、城の外へと連行されたのだった……。

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