トラスロッド

@Kawahagisashimikimojyoyu

第1話

「私たち、仲が良すぎたから。このくらいのことがないとやっぱり友どちには戻れなかったかもね」


「うん」


カミサマを信じない彼が、その時初めてカミサマの存在を信じているように見えた。


3年前、出会った時にはお互いにパートナーがいて、でもとても気が合った私たちは、お互いの手を離してはいけないと思ったのだ。それを世間では浮気とか不倫と言ったりすることは重々承知の上だったけれど、私たちは出会ったその日から、恋愛関係を超えて、いつかは唯一無二の友達になれると信じていたし、その場所を目指していた。彼が家族を置いて、私と生きてくれればいいのにと思ったことがないと言えば嘘になるけれど、誰かを傷つけたくはなかったし、家族を大事にするところも含めて私は彼のことが好きだったのである。「バレなければ」という、最もずるい感覚で、私たちは約3年間の月日を過ごした。


先日の検診で胃に影が見つかり、彼は来月手術をすることが決まった。そして今夜、池袋西口公園のカフェで、彼は私に「友達に戻ろう」と言った。


もしカミサマがいるとしたら、いつまでも男女の仲でいる私たちを友達関係に戻すために、彼を病気にしたのかもしれない。そしてそれだけが目的なのだとしたら、きっと手術はあっさり成功して、またこの先も何事もなかったかのように元気に生きられるはずなのだ。


彼はもう、私の部屋には来ない。手を繋ぐ事もないーー。

今彼が抱えている未来への不安をよそに、私は彼が自分を愛さなくなるという寂しさにばかり目を向けていた。しかし一方で、「秘密の関係」に付きまとう緊張感から解放されるのだという安心感のようなものもあった。

やっぱり、永遠に続くものなんてないのだ。

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