第48話 マリの訓練

 6層を戻って行き、5層の階層主部屋に戻ってきたら、昼を過ぎていた。階層主に挑戦するパーティが来たら出る事にして、そこで昼食をとり休憩もそこそこにして砂漠を戻り始めた。大口ワームに出会っても、向こうに気付かれてなかったらスルーして帰り道を急ぐ。4層ではキーキーを瞬殺しながら、戻ってきたら3層に午後の3時には辿り着いた。


 ゴッグは横を通るだけで、転がって来るので見つけたら倒すしかない。一体づつ倒しながら戻ってくるとマリが普通の岩に切りつけて短剣のエッジを尖らせる訓練をしていた。

「マリ、訓練ご苦労様。」

「ツグト、休みに探索していたの?」

「いや、訓練だよ。スケルトンジェネラルとじっくり対戦したかったので、6層まで行ってきた。」

「休みなのにご苦労様、でも前に一人で対戦して怪我したって言ってなかった?大丈夫だったの?」

「もう、一人でも大丈夫だよ。無事に倒せたし。」

「一人で討伐って、それは凄いわね。まあでも、ちょうど良かったわ。どれぐらい短剣のエッジが尖ったか見たいので訓練付き合ってよ。」


 スケルトンジェネラルがドロップした剣は、いづれバレるので正直に6層まで行った事を伝えた。エッジの尖り方を見たいと言うので、マリが切りつけた横に同じ深さになるように切り込みを入れ、切り付けた跡が観察できる様に切り付け跡に垂直に岩を両断する。

「う~ん。まだツグトの切り口に比べると鋭さが足りないわね。ところで、いつから右手の片手剣までミスリルコーティングに変えたの?」

「スケルトンジェネラルを倒したらドロップしたんだよ。」

「え~、ドロップもあったのね?」

「運がよかったんだ。」


 案の定、剣が変わっている事に気付かれたので、スケルトンジェネラルを倒して、ドロップした事を伝えた。

「まぁ、いいわ。ツグトだし。ちょっと、エッジ強化の練習するので、私の剣に魔力流して見本を見せて。」

 短剣でどこまで強化できるのか見たかった様なので、マリの剣に魔力を流してエッジを見せる。

「そのまま、岩に切り付けてみて」

 先に両断した岩の切り口が並んでいる10cmほど横に同じ深さに切り付ける。

「やっぱ、ミスリルコーティングは関係ないのね、鋭さが違うわ。」


 その後、マリは何度か自分でトライして切り口を付けていく。

「ツグトには劣るけど、岩をすんなり切れるようになったし、まぁこんなもんでしょ。今日の訓練は終わり!一緒に戻りましょう。訓練に付き合ってくれたお礼に、食事おごるわよ。」

 かなり、改善できたみたいで、岩にもナイフがすんなり入るようになったとの事で、訓練を終えた。一緒にギルドまで戻って、今日の分の魔石を換金したら、マリの行きつけの店に連れて行ってもらった。


 マリの行きつけの店は酒を出す居酒屋の様な店なのだが、内装が小奇麗で女性の客も多くお洒落な店だった。頼んだ料理は、川魚の塩焼きやスルメの炙り、皿から はみ出したビッグソーセージとチーズの塊と酒の肴になるようなものばかりで、マリはエールを飲んでいた。僕は、酒は未成年(成人になるのは15歳)だからと断ったら、未成年でも飲める酒と言われて葡萄酒を葡萄水で薄めた酒を出された。味はほとんど葡萄水なのだが、沢山飲むと大変な事になりそうなので少しづつ飲むようにしていた。


 マリの見た目は17,8歳の大人になったばかりの少女の様に見える。いつもポニーテールに括っている髪を今はほどいており、肩の少し下に広がるプラチナブロンドは新緑の瞳と相まってより大人びた感じを受ける。いや、エルフの寿命は300歳と言われており、人族の5倍なので、17歳の見た目は5倍の85歳なのかも知れない。


「ツグト、今なんか失礼な事考えてなかった?」

「・・いや、ブロンドの髪が綺麗だなって思ってただけだよ。」

「・・そう?まあいいけど。エルフは300歳まで生きるので、よく80超えているとか言われるけど、私は22歳だからね。エルフも15歳までは人族と同じ様に見た目も歳をとるの。そこから先は見た目の歳の取り方が5倍ぐらい開くから22歳になったので17歳ぐらいに見えると思うわ。」


 酒が入ったためか、マリはいつもよりも饒舌だった。


「へぇ、そうなんだ。」

「やっぱり、80歳とか思ってたでしょ。」

「くっ、参りました。認めます。マリが若いのは、記憶に刻み付けておきます。ついでに聞くけど、300歳も生きるのだったら、エルフの人口ってもっと増えても良いと思うんだけど、エルフって部族としては小人数だよね。」

「エルフは一人の伴侶とは何故か一人しか子供ができないんだ。エルフの女から生まれた子供はエルフとして産まれるけど、エルフの男が産ませた子供は産んだ女性の種族になる。だから、エルフが他種族とハーレムとか作ってもエルフの人口が増える事にはならない。エルフの女性を集めてハーレムを作っても、一人づつしか子供を産まないから、そんなには増えないんだよ。又、エルフの女性は一人の伴侶と添い遂げる事も多いので、子供が増えないんだろうね。」

「じゃあ、マリも一人っ子なの?」

「そうだよ。兄弟はいないけど、村の子供たちは皆、兄弟みたいなもんだけどね。」

「ご両親は、一人娘が村を出て行って心配なんでしょうね。」

「ま、そこは、成人したって事で諦めているよ。でも、最近は結婚して子供が一人立ちしたら別の人と再婚することが推奨されている。流石に、人口をもう少し増やすべきって意見が出てきてる。最近、流行りの求婚の言葉に、『一緒に30年暮らしましょう』っていうのがあって、結婚生活は30年が目途って考えが出てきてる。」

「12年と少ししか生きてない身としては、30年って実感が湧かないよ。」


 そんな、エルフ事情を聴きながら食事を進める。


「ところで、スケルトンジェネラルの単独征伐、おめでとう。」

「ありがとう、やっと剣が届いたって感じで、ミスリルコーティングの剣は成長のご褒美かなって思った。今まで振っていた右手の片手剣と同じ長さ、同じ振り心地なので剣神ゴード様が見てくれているのかと思ったよ。」

「ゴード神が創られたってダンジョンだから、天から見られているのかも知れないね。」


 それから、ダンジョンの話で盛り上がって、食事を終えたところでお開きにした。ちびちび飲んでいたおかげか、そんなに酔っぱらう事もなく寮に帰ってくることができた。

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