第39話 新パーティでの攻略

 7層では、僕ツグト・ミャオ・マリ・ケイトの順で1列で進む。一応、攻略経験のある僕とケイトで先頭と最後尾を固めて進む。しばらく進むと、高速ネズミの気配がした。

「来るよ!」

 僕は、皆に注意を促す。

「前から、2匹」

 魔力を感じて、2匹居る事を伝える。小道の幅いっぱいに広がって進んでくる。高速ネズミは30m迄近づいた所で、道から外れて左右の草むらに飛び込む。右から来る高速ネズミは真っ直ぐに突っ込んでくるが、左の方は草の中を大きく迂回していく。

「左、迂回して後ろに回り込む。気を付けて」

 後ろへの指示を出して、右の高速ネズミに注意を向ける。急激に近づいてくる魔力に集中する。草の中ら飛び出し、岩を足場に向きを変え、こちらに突撃してくる。その動きに合わせて右の剣を合わせる。

「シュイーン、スパッ!」

 剣に沿って滑りながら真っ二つに切り裂く。切り裂きながら剣を小道の方向に向け、切り裂かれた高速ネズミを道の真ん中に放り出す。放り出された高速ネズミは、道の真ん中で魔石に変わっていく。切り裂いた高速ネズミを草むらに飛ばすと魔石の回収に手間がかかるので、余裕のある時は開けた場所に飛ばすようにしている。


 後ろに回った高速ネズミの方に注意を向けると、ケイトの盾に弾かれて真上に飛ばされていた。落ちてきた高速ネズミにマリが短剣を合わせる。

「ガシッ!ドン。」

 魔力を短剣に流して強化しているが、切れ味が悪く頭に当たってダメージを与えた後に地面に突き刺さった様だ。

「ガン」

 ケイトが近づいて、杖で叩き潰した。こちらの高速ネズミも光の粒子になって魔石をドロップする。魔石を拾って、先に進む。


 ミャオと順番を入れ変えて、マリが後ろに来る。

「ツグト、私の短剣で高速ネズミが切れなかったのは何が違うの?}

 先ほどの戦闘で高速ネズミをうまく切れなかったので、原因を聞きたかった様だ。

「マリの短剣は、魔力で強化しているけど、刃の鋭さを増す様な強化をしていないので切れ味が悪いんだ。」

「切れ味を増す強化って、どうやっているの?」

「刃を少しだけはみ出して、はみ出した部分の厚さを極力薄くする。あまりはみ出すと魔力が漏れだすので、この加減が難しいけど、3層の岩に切りつけて切り跡を参考にしながら練習すると良いよ。」

「わかった。やってみる。」


 そんな話をしながら、現れた高速ネズミを狩っていく。ミャオは、高速ネズミを難なく2つに切っていた。マリに突っ込んだ高速ネズミも、マリの盾に激突して、焼け焦げて下に落ちた所を短剣に刺されて倒されていた。


 高速ネズミを倒しながら進んで行き、もうすぐお昼に差し掛かろうとした所で、少し開けた場所に出た。大きな木の残骸が一本だけ見える。思わず声が漏れていた。

「階層主エリアだ!」

「ギルドの情報によると『ネズミの木』という名前で、鞭攻撃が主体の魔物のようだ。」

「皆、気を引き締めて行こう。」


 マリが、階層主の情報を再確認の意味で披露した後に、ケイトが声をかけて階層主エリアに足を踏み込む。枯れていたハズの木が、階層主エリアに踏み込んだ瞬間に葉の茂った元気な木に変わる。

「バサッ。」

 『ネズミの木』が大きく震えて大きな音が鳴った。垂れさがったつたが持ち上がっていく。蔦をよく見ると蔦の先が高速ネズミの鉄帽子の様になっている。蔦は上下に動いて蔦と言うよりも触手の様だ。

「ハッ!」

 気合を入れる為に、大きく声を出して近づく。ネズミの木の間合いに入る直前に、後方からケイトとマリが攻撃を仕掛ける。

「ウォターニードルカルテット。」

「カルテットアロー。」


 4本のウォーターニードルと4本の魔力矢が、ネズミの木を攻撃する。ネズミの木の8本の蔦が、それぞれの攻撃を撃退する。但し、8本で動く蔦は全部だ。ネズミの木が迎撃している間に更に近づいていく。同じ様に、逆の方向からミャオも近づいていた。迎撃を終えた蔦の半分の4本ががこちらに向かって来る。残りの4本はミャオに向かった様だ。蔦のスピードは高速ネズミと同じ程度であるが、4本がそれぞれの意思を持っているように別の方向から飛んでくる。しかも、高速ネズミの様に、ときどき軌道を変える。蹴る足場が無いのに、軌道が変わるので性質が悪い。動きながらの対応は難しいので足を止めて捌く。2本の剣で身体強化を限界まで上げて対応するが、捌くので一杯で蔦を切り飛ばす事まではできない。

「カカカン、カカカン」

 4本の蔦を必死で捌いていると、再度、後方からの攻撃が放たれる。

「ウォターニードルカルテット。」

「カルテットアロー。」


 ケイトとマリは、攻撃の有効性を高める為にタイミングを合わせて攻撃を仕掛けている様だ。ネズミの木の蔦は慌てて向きを変えて、魔法の迎撃に向かう。動きの遅れた1本の蔦を切りつけて、初めて蔦を切り落とす。切られた蔦は、本体の木に戻って行った。残った7本の蔦は、魔法を迎撃するが蔦の数が足りないため、一本の矢が迎撃をすり抜けて本体の木に刺さった。

「ブワッ」

 ネズミの木の上部にある葉を蓄えた枝が震える。葉の間に無数の高速ネズミが見えた。枝が震えた勢いで高速ネズミが4匹落とされる。4匹は遠距離攻撃を続ける2人の方へ向かって、走り出す。それを、阻止しようと動きだすが、すぐに蔦が戻ってきて攻撃を始める。しかし、今度は3本になっているので、2本をいなした後に3本目を避けて後ろに流れた蔦を切り落とす。2本になったので、対応に余裕ができ残りも1本づつ切り落とす。ケイト達を見ると、何とか対応できている様だが対応に手一杯で、追加の攻撃支援は期待できそうにない。蔦を切り落としたので本体に向かいながら、斬撃を飛ばす。

「飛べ、斬撃」

 斬撃を飛ばしながら更に近づいていく。本体に戻った蔦に、高速ネズミが蔦に沿って一番先まで走ってたと思ったら、蔦の先が開いて高速ネズミを包む。包んだ蔦の先が光ったと思ったら、元の蔦の通りに鉄帽子を先に付けた蔦が出来上がった。

「ザザンッ」

 蔦の1本を再生した所で、飛ばした2本の斬撃が本体に突き刺さった。致命傷にはならなかったようだが、幹に2つの傷が付いた。その間もネズミの木は残りの3本の蔦を次々と再生していく。


 本体まで、5メートルの所まで近づいたところで、再生の間に合った4本の蔦に迎撃される。再度、足を止めて打ち合う。4本の蔦を捌くので一杯になってしまい反撃のタイミングが掴めないでいると、右から飛んできた蔦をタイミングよく受け流す事ができた。

「ズンッ」

 下の方向に受け流した蔦は、勢いを止めることなく地面に突き刺さる。ネズミの木は、地面に突き刺さった蔦を回収しようと引き戻そうするが、勢いよく突き刺さったので抜けない様だ。その間に残った蔦の2本を切り飛ばし、更にもう一本を同じ様に受け流しで地面に突き刺す。


 そのまま幹に近づき、先に付けた斬撃の切り跡に剣を振り下ろす。その時になって高速ネズミを4匹こちらに向けて落としてきたが、高速で向かうスピードに比べたら自然落下の方が遅い。落ちてくる間に左の斬撃を新しく切り付けながら、再度、右の斬撃を同じ場所に振り下ろす。その時になって落ちてきた高速ネズミが空中で動きの取れない間に切りつけて倒す。2匹を切り倒したが残りの2匹が地面に到達する。高速軌道でこちらに飛びかかってくるが、軌道に併せて剣を置いてそのまま切り捨てる。

「スパッ、スパッ」


 危険を感じたネズミの木は、ミャオを相手していた4本の蔦をこちらに回そうと回収する。その時、高速ネズミの対応を終えたマリが矢を放つ。

「ダブルファイヤーアロー」

 威力を高めるため2本に絞った矢が、火を纏って飛んでくる。回収していた4本の蔦のうち2本を迎撃に回す。

「バシュッ、バシュッ、ボウッ、ボウッ」

 迎撃には成功するが蔦がそのまま燃えてしまう。

その隙に、斬撃で入った傷に追撃を加える。右の斬撃の後を追うように左の斬撃も同じ場所に切りつける。更に切り下げた剣を上に向けて同じ場所を切り上げる。計4発の斬撃を加えたところで、2本の蔦が襲って来たので、飛び下がって対応をする。2本をいなしている所に、ミャオが駆け付けてきた。

「ミャオ、あの切り跡に斬撃を畳み込め。」


 2本の蔦に対応しながら、ミャオに指示を飛ばす。ミャオを迷いなく斬撃の跡を切りつける。

「カカ、カカ、カカカカカカカカ」

「メキメキッ、ズン」

 ミャオが斜めの切り跡に器用に連撃を加えると、幹は耐えきれずに切り倒される。攻撃も同時に止み、暫くすると光の粒子になって、ネズミの木が消えていった。魔石と中級怪我回復ポーションが4本残されていた。ネズミの木があった場所には枯れた木のうろが残されていた。洞は人が通れるぐらいの大きさがあり、中を覗くと階段があった。外から見ると、どう見ても上に昇れるようには見えないが上に向かう階段が付いていた。

「倒すと元の枯れた木に戻った様だ。道が開いた。次の階に進もう。」


 皆に声をかけて、次の階への進んだ。


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