第五話

次の日の学校のお昼の時間、ドンと後ろから軽く何かがぶつかってきた。


あきらが振り返るとクラスの女子が席を移動して向かい合わせにして昼ご飯の準備をしていた。


ごめんの一言もなかったが、あきらはそのまま席を数センチ前に動かした。


今日の朝、門の前で体育教師に挨拶したきり一度も声を出していない。

いつもの事だからさほど気にすることでも無いけれど、今では夜のバイトの時に声が出にくいのは困るなと思っていた。


クラスメイトはそれぞれのグループで弁当や菓子パンを食べながら昨日のドラマの話やあのアイドルが可愛いなどと話していた。

皆んな笑顔だった。


窓際の席のぼくは机の横に掛かったバックから弁当とペットボトルのお茶を机の上に出し、一人で栄養を摂取している。


ご飯を食べながら左手でスマホを取り出して映画情報を見る。


アプリを開くと昨日検索したバタフライエフェクトが表示されていた。


帰りはすぐにバイトだからレンタルDVD店には行けないなと思案していると校内放送が流れてきた。


「きょうは、学校内の電気設備の点検で、放課後は、4時までに下校してください。すでに、伝えていますが、部活動も、中止です。校庭も、体育館も、図書室も、すべて使用できませんので、速やかに帰宅してください。繰り返します……」


そういえば朝礼の時に担任がそんなことを言っていたのを思い出した。


廻りのクラスメイトは「部活ないんならカラオケ行こ」「まじか、大会近いのに」などとそれぞれテンションを上げて話していた。


ぼくは部活動はやっていないので聞き流していた。だから毎日バイトに行けるのだけれど。


弁当の最後の一口をほおばった時に、ふと脳裏に入学式の案内書の内容が蘇ってきた。


確かここの図書室って、高校には珍しくDVDもあると書いていなかったか?


そうだ、確か入学当初、嬉しくて一度覗いたことがあったのだ。その時は同じような考えの生徒が何人かいてじっくり見れなかったけれど、それなりの量があったはずだ。


もちろん新作というわけにはいかない。それでもだからこそ、「バタフライエフェクト」あるのではないのか?


慌てて弁当やペットボトルを鞄にしまい、小学生の休憩時間のような勢いで教室を飛び出した。


図書室、どこだっけ?たしか一階の職員室のそばだったな。廊下を早歩きしながらほんの少し心拍数が上がってきた。



「図書室」あった。入口の扉をスライドさせ中を覗くと、文科系っぽい生徒が数人、本を読んでいた。この学校は校章の縁の色で学年がわかるので、各学年がいるのはわかる。ぼくと同じ緑の縁の校章をつけた生徒もいた。名前はしらない。


部屋の左の奥の方に、DVDコーナーはあった。最近は配信で見れるようになって借りる人も少ないようで、人はいなかった。これだけ空いていたら堂々と十八禁コーナーで物色出来るのになとも思ったが意味はない。ここは高校だ。


落語、海外観光動画などいかにもな高校のDVDコーナーと言ったところか。


目当ての映画コーナーは棚二つ分、洋画と邦画が半分づつ、ところどころ借りられているが旧作ばかりなので好評とは言い難い。

配信様様の世の中だ。


お目当ての作品はサスペンス、ラブストーリー、どこにあるのだろうか。

端から見ていくと意外と面白そうなタイトルが並んでいた。次も借りにこよう。


そしてラブストーリーの棚の“は”段の最初にそれはあった。


ケースを取り出し、中のディスクを抜くと、透明なケースはかなり汚れていた。やはり借りる人が多いのかと少しだけにやける。


受付に向かうと図書委員がまっていた。


「あ、山本君。珍しいね」


そこにはクラスメイトの須崎さんが待っていた。


「須崎さん図書委員だったんだ」


「そうよ、ここには週に一回交代でいるだけだけど、人も少ないし意外と快適なの」


バタフライエフェクトを差し出し「これ借りたいんだけどどうすればいい?」とぼく。


「学生証と一緒にこの貸出票に名前とクラス書いてくれる?」


わかった。


須崎さんと初めて話した。

それより今日、初めて人と話した。

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