第3話 ツンデレ幼馴染との登校
「じゃあ行ってきます」
「では失礼します、おばさま」
「はーい、二人とも気をつけてねー!」
母さんに見送られながらそのまま俺と華恋は学校に登校する。現在の天気はぷかぷかと雲が浮かぶ晴天、だが空気が気持ち良くても二人の間に流れる空気が最悪だった。家からだいぶ離れたところまで歩みを進め、それまで終始無言だった華恋に俺はようやく声を掛けた。
「一体どういうつもりだ、華恋?」
「何がよ」
「急に家を訪ねてきて、挙句の果てに俺と一緒に登校する約束をしたって嘘をついた事だよ」
隣に並ぶ華恋を横目で覗き込むも、彼女はこちらに一切見向きしようとせず無言のまま歩き続ける。
昨日から華恋の行動一つ一つの意味や真意がよくわからない。たまたま会っただけなのに急に話し掛けてきたり、あの雌畜生と別れたことを伝えたらショックを受けた表情を浮かべたり、さらにはいきなり自宅に押し掛けて一緒に登校する約束をしていたと嘘を吐く。
高校では運動神経抜群でそれなりに頭も良い、勝ち気でさっぱりとした性格な華恋がどうしてこうも意味不明な行動をとり続けるのか。この幼馴染とは疎遠だったとはいえ、迷惑であることには変わりない。
やがて、歩くスピードを緩めようとしない華恋はぽつりと口を開いた。
「別に、そんなのどうでも良いでしょ」
「よくねぇよ。振り回されるこっちの身にもなれ」
「……私の気も知らないくせに」
「素直に言ってくれなきゃ、俺だってわかんねぇよ」
自慢ではないが、俺は真面目で曲がったことが嫌いな性格ではあるものの相手の気持ちを察する能力は乏しい。ラノベ主人公の中には何故か観察眼が鋭くてヒロインの言動や仕草、感情などをエスパーかのように汲み取る高スペ主人公がありふれているが、何度羨ましいと思ったことか。
まぁそんな主人公らも美少女とはいえ華恋のような面倒臭いツンツン女子にはお手上げだろうが。
「……私だって、素直になれたらなりたいわよ」
「なんだよ、言いたいことがあるならはっきり言えよ」
「うっさいばーか!!」
ベー、と舌を出して勢いよくそっぽを向く華恋。いつもと変わらない艶やかな黒髪のツインテールがふわりと揺れてシャンプーのような良い匂いが漂うが、ふと鼻腔に届く女の子らしい香りに内心どきりとしてしまう。華恋の癖になんだか生意気である。
すると気を取り直したのか、華恋はにやりと瞳を細めると得意げに表情を曲げた。
「ま、よくよく考えたらアンタって振られてるんだもんねぇ? ぷーくすくす、ダッサ」
「……事情があんだよ」
「はいはい負け惜しみごくろーさま。アンタって昔からクソ真面目だったものね。相手の女の子もアンタの話とかつまらなかったんじゃない? もう少し共感力とか、思慮深さってのを鍛えた方が良いのかもねー?」
「………………」
「き、きっと? アンタの運命の相手じゃなかったのよ。次はもう少しマシな相手を見つけることねっ? あ、案外誰かアンタの近くにいたりして?」
「誰かって一体誰だよ?」
「そ、それは……っ。だ、誰かは誰かよっ!!」
わたわたと身振り手振りでどこか焦ったような表情を浮かべる華恋だったが、次の瞬間猫のように髪を逆立てて俺を睨みつける。先程から忙しいやつだ。表情がコロコロ変わるのは何故だろうか。
(もしかして華恋なりに俺を励ます人の心くらいは持ち合わせて……いや、まさかな)
それはともかく、華恋の言う共感力や思慮深さを鍛えたほうが良いという指摘は日頃から薄々俺も感じていた事である。俺の性格上、冷めやすいというか相手の気持ちに寄り添うことを諦めている節がある。華恋との一件があるとはいえ、人の感情の機微に疎いのは致命的。日々漫画やラノベを読んで勉強はしているのだが、中々その努力が実らないのが現実である。
それによく考えたらあの雌ち……いや、高槻さんにも迷惑を掛けてしまっていたかもしれない。教室やデート中ではよく笑顔を見せてくれていたが、きっと嘘コクをした彼女なりの罪悪感だったのだろう。流石に雌畜生は言い過ぎだった。
そういえば、今日教室に行ったらどんな顔をして会えば良いのだろうか。
「……気まずいな」
「何がよ?」
「教室に行くのが」
「え、なんで?」
「別れた女子がクラスメイトだからだよ」
「ふーん。…………あぁ!?」
何気なく言葉を交わしていた俺だったが、突如大きな声を出した華恋に驚いてしまう。叫ぶ程驚く要素もない思うのだが、それを聞いた彼女は何故か険しい表情で立ち止まり視線を真っ直ぐにこちらに向けた。
そしてその小柄な身と端正な顔を俺にずいっと寄せたと思ったら、がくがくと勢いよく肩を揺らしてきた。
「ねぇ正也、それ誰!? 誰なの!? ショックで聞くの忘れてたけど私も知ってる人!?」
「な、なんだよ。そんな大きな声出す必要ないだろっ」
「うっさいわよ! いいからつべこべ言わずに教えなさいっ!!」
「ちょっ、強引……! ってか近いからっ!!」
「あっ……」
我を忘れていたのか、その事実に今更ながらに気が付いたのだろう。険しい表情から一転、華恋は顔を真っ赤にさせながらか細い声を唇から洩らす。俺の肩に置いた小さな手を慌てた様子で外し、しばらく視線を彷徨わせるとその手を胸元にそっと抱き寄せた。
まるで初々しい乙女のような華恋の様子に、俺は思わず目を丸くする。
(待て、待て待て待て。なんだその反応……!?)
俺の幼馴染、藤宮華恋は性格こそツンツンしてて面倒だが色眼鏡抜きに見ても美少女である。だが、理由こそわからないが彼女は俺のことを嫌っている筈だ。華恋本人がそう口にしていたし、何よりそれがきっかけで彼女と疎遠になってしまった。漫画のラブコメじゃあるまいし、嘘を吐いていた華恋が実は俺に好意を抱いているなどというヘンな勘違いもしていない。
だが、しかし。
(どうしてそんな、つい勢い余って好きな人に触れてしまったような仕草をしてんだ……!?)
初めて見せた華恋のそんな可愛らしい姿を見てしまえば、どうしても胸が高鳴ってしまう。これではまるで、漫画やラノベに出てきたような恋するヒロインのようではないか。
どう反応を示したら良いのかわからず、俺はそんな彼女からそっと視線を外す。間もなくして、華恋から慌てたように、だがちょっぴり控えめな声で言葉が紡がれた。
「い、今のは忘れなさい……っ」
「あ、あぁ」
「それで、一体誰なのよ?」
華恋は顔をこちらに向けて静かに問い掛けるが、一方の俺はどうしても先程の華恋の様子が印象的だったおかげで彼女を直視出来ない。
首元をゆっくりと手で撫でながら、自分の中の動揺を悟られないように落ち着いて口を開いたのだった。
「俺と同じクラスのギャル、
「———あ?」
さっきとは真逆の、ドスが効いた声が何故か目の前の幼馴染から洩れた。えぇ……?
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